因縁の工作員
俺たちの前に現れたのは、サザンブリング王国の末子フィルン王女を誘拐したどこぞの帝国の工作員だった。
「どうしてお前らが? ここにフィルンはいないぞ」
「ああ、知っているとも。あの勇者の孫とやらに散々挑んだからな。結局奪い返すこと叶わず、王女を前にして諦めざるを得なかったわけだが」
「だったら何故だ?」
「先程も言っただろう? 邪魔をしてくれたお前たちとケリをつけるためだと。お前たちのお陰で我が隊は解散。多くの部下も失い、残るは一握りの精鋭とお前たちへの恨みのみ!」
そんなことで――とも思ったが、冗談で領主をブッ殺したりはしないだろう。つまり遺恨による最後っ屁みたいなもんだ。
「ったく、アンタらもしつこいわねぇ。こっちは取り込み中なんだから邪魔しないでよ」
「フッ、安心しろ。すでに筋書きは出来ている。多数の冒険者が領主の邸に押し入り殺害という内容だ。お前たちには返り討ちに合った死体役をしてもらおう」
「へっ、お断りだ! ――レン!」
「ほいさ!」
透かさずレンを魔剣に戻し、俺の手元に収める。コイツら相手に油断はできないからな。
だがレンが離れた隙を狙い、冒険者風の男4人組は脱出を試みる。
「お、俺たちゃ無関係だ、帰らせてもら――」
「それはできんな」
ズバズバズバッ!
扉から新手が入り込み、瞬く間に4人は斬り倒されてしまう。
「な、なん……で……」
「フッ、恨むなら居合わせた己を恨め。――さて、残るはお前たちだけだ」
「私にしてみればアンタらだけって話なんだけどね」
メリーがレボルと睨みあってる間にナディアさんの元へ駆け寄り、素早く拘束を解いた。
「すまないナディアさん。こっちの事情に巻き込んじまった」
「とんでもない、助けに来ていただいただけでも感謝しています。それより……」
顔を強張らせてレボルたちを窺うナディアさん。これまで国の特殊部隊を目にする機会は無かったろうし出来れば無縁でいて欲しかったが、こうなっては放置はできない。レボルたちとの関係はこの場で終わらす!
「メリー、二度と起き上がれないようにしてやってくれ」
「オッケ。幻要!」
自分にとって都合の良い幻覚を見せるスキル。オートマタのレボル以外には通用するはず――が!
「笑止!」
「なっ! スキルが効いてない!?」
斬りかかってきた黒ずくめのダガーを捌きつつも、メリーの動揺は大きい。
「フハハハハ! 何度も同じ手を食らうとでも思ったか? ここにいる3人は全て俺と同じなのさ」
「同じって……まさか全員オートマタ!」
「その通り。これにより小娘のスキルは全て無効――」
その台詞を聞いたメリーが透かさず割り込む。
「――にはならないけどね。念始動接!」
「ぬぁっ!? くぅ……」
メリーが投げつけたロープやノコギリがレボルたちに襲いかかる。ロープが絡みつき、そこへ刃物が切りつけるといった怪奇現象が目の前で始まったんだ。
「忘れたみたいだからもう一度体験させてあげる。このスキルは私が触れた物に意思を与え、自在に操るスキルよ」
「……確かに。このスキルには煮え湯を飲まされた記憶がある」
「イヒヒヒヒ♪ 思い出したでしょう? せっかく思い出したんだし、もう二度と忘れないようにそのポンコツの身体に刻み込んであげるわ!」
キィィィン!
「な、弾かれた!?」
驚きと共に後ずさるメリー。これまで同じ草刈り鎌で切り裂いてきたはずが、今回に限っては傷を付けられたないでいた。
「フッ、残念だが対策済みだ。何せ身体の表面をミスリルで加工してあるのでな、チャチな武器では傷一つ付けれまい」
「チッ……」
メリー自身は強いとは言え、手にしてるのは農作業の草刈り鎌だ。コイツらを倒すにはもっと強力な武器でないと――
――いや、有るじゃねぇか、取って置きの武器が!
「下がってなメリー。コイツらは俺が相手をしてやる」
「ヒサシ?」
あの時の俺は逃げるしかなかったが今は違う。魔剣アゴレントで粉々にしてやる!
「いくぜぇ、これでもくらえ!」
ドガッ!
「グッ! ギギ……gigigi……」
ロープが絡みついて上手く動けないでいた黒ずくめを脳天からブッ叩くと、血の代わりにオイルのような茶色い液体が噴出し、頭部に詰められた金属製の部品が露出する。
倒れた男の声が徐々に機会音へと変わっていき、最後には何も発しなくなった。
「くそっ、何なのだその剣は!? 我々の身体をこうも容易く!」
「はっ、いつまでも無力な俺じゃないぜ!」
ドゴドゴン!
「グガッ! グ……ガ……gagaga……」
「グゴッ! ゴゴ……go……」
レボルを警戒しつつ、残り2人の黒ずくめも叩き割る。やっぱ魔剣だけあって威力は絶大のようだ。加えてバフ効果により身体能力が大幅に上昇しているし、硬くなっただけのオートマタなんざ相手にならねぇ。
「少々甘く見すぎたか……だが!」
ブチッ!
とうとう絡みついていたロープが切れてしまい、レボルがこちらに向かってきた。それに合わせて俺も動き……
バキィン!
「くっ――ダガーが!」
「へ、武器が壊れちゃ戦えねぇよな? ブッ壊れちまえ!」
ドグシャッ!
「グ……ゴ……。次は……かなrazu……」
叩き割った後も何度か叩きつけてやった。2度と現れてくれるなという願いも込めたが、多分再来するんだろうな……。
でも今はこっちを優先しよう。
「ふぅ、成敗完了っと。ナディアさん、孤児院に帰りましょう」
「ありがとう御座います! ですが……」
ナディアさんが視線を落とす。領主と雇われの冒険者が死に、使用人の多くも口を封じられてるに違いなく、黙って帰るのは立場的によろしくない。
「う~ん。俺たちに疑いが向かないようにするには……」
「そうだ!」
★★★★★
「なるほど。偶然にも領主様の邸の前を通ったら、このオートマタが襲ってきたので返り討ちにしたと」
「はい。咄嗟の出来事のためそのまま殺めてしまいましたが、俺たちには襲われた理由が分かりません」
俺がやった偽装工作はヘルーガンの邸の前にレボルの残骸を放棄するという簡単なもので、その後に何食わぬ顔をして騎士団に連絡してやったんだ。
「こりゃアレだ、派閥争いだな」
「派閥争いですか?」
「ああ。見たところオートマタのようだし、そんなもんにホイホイと金を注ぎ込める奴なんざ貴族様しかいないって。お前たちも災難だったな」
「そうですか……」
……なぁんて浮かない顔で言ってみたが内心ではほくそ笑んでるんだなぁこれが。
ともあれ上手く欺くことができたし、後はナディアさんの安全を確保しなきゃだが……
「ヒサシさん、ご無事で何よりです! ほら皆さん、ナディア先生が戻ってきましたよ?」
「バウ!」
「やった~、先生だ~!」
「お帰り先生~!」
「腕のほっそい兄ちゃん、案外やるじゃん!」
孤児院に戻ると、ネージュと子供たちが出迎えてくれた。
「フフフ、ただいまみんな。でもこんな夜遅くまで起きてちゃダメでしょ?」
「だって先生が心配だったんだもん!」
「そうだよ~。ボクたち先生の帰りを待ってたんだ」
「フフ、ありがと」
感動のあまりか、ナディアさんが子供たちに囲まれてうっすらと涙を浮かべている。連れ去られる時に二度と戻れないと覚悟していたに違いない。
だが感動してる場合じゃない。レボルと関わっちまった以上、このまま別れるのは危険だ。
「ナディアさん、それから子供たちも聞いてくれ。今現在俺たちは厄介な連中に狙われていて、この街に留まるのはとても危険なんだ。そこで――」
名案――とまではいかないが、ナディアさんと子供たちをザッカートの街に連れて行くことにした。そこには俺たちのマイホーム的な別荘があるからな。
眠気眼を擦りつつ深夜の強硬移動を行うと、朝方には無事ザッカートの別荘に到着。メイド3人に事情を説明して子供たちとナディアさんを部屋で休ませ、俺やメリーたちは深々とソファーに腰を下ろした。
「ふぃ~、さすがに今回は疲れたぜ。魔物相手の方がよっぽど楽だ」
「お疲れ様ですヒサシ様。随分とお早いお帰りだと思いましたが、大変な目に合ったのですね。寝室で休まれてはいかがです?」
「それがなぁ……」
フレネートの心遣いはありがたいが、まだ問題は解決していない。ナディアさんたちを護るとなれば、旅して回ることは絶対にできないからな。
「ぶっちゃけアンタらが留守番してれば私1人で遊びに行くんだけど?」
「ふざけんなメリー。俺だって世界を見て回りたいんだ。お前1人で楽しむんじゃねぇ!」
「じゃあ護衛でも雇いなさいよ」
「そこらの護衛がレボルたちに勝てると思うか? これが賭けなら護衛が勤まらない方に全財産を賭けるぞ」
「ニシシシシ♪ だったら世界を旅するのは諦めるのね」
「ぐぬぬぬぬ……」
俺とレンが留まることで護り切るのは可能だろう。だがせっかくの異世界ライフなのに隠居生活みたいなのは御免被りたい。
「あ、そういやフレネート、リリアンとハルミは何してんだ? さっきから姿を見ないんだが」
「ああ! す、すみません、わたくしとした事が、お客様をお待たせしていたのをすっかり忘れておりました!」
「お客さん?」
「はい。何でもサザンブリング王国からやって来たそうで、ヒサシ様やメリー様が居ないと知ると、とりあえず一晩泊めて欲しいと申されまして」
「客のくせに堂々と泊まったのかよ……」
しかし誰だ? 異世界での知り合いなんざ、片手で足りるくらいしか居ないが。
ガチャ!
「ふぁ~~~ぁ、よう寝たぞよ」
んん? この声、とっても聞き覚えがあるような……
「これメイドや、朝御飯はまだ――」
「――って、リーザじゃねぇか! 客のくせして宿代わりに使ったのはお前か!」
そう、俺たち宛に来たのは自称勇者の孫で見た目が貧乳幼女のリーザだった。




