ナディア先生の危機
「お許しいただき本当にありがとう御座います! 子供たちのにはよく言って聞かせますので」
「いやいいですって。それより話を聞くだけ聞いて解決策を出せなくてすみません」
「とんでも御座いません。子供たちをお許しいただけたのですから充分です。またいつでもいらしてください」
「じゃ~な、ヒョロ長の兄ちゃん!」
「そんなほっそい腕じゃ女にモテないぞ~」
「こらアナタたち!」
何とも賑やかだなぁと思いつつ孤児院を後にした。だがそれも後一週間の間だけというのもあり、去り際に見たナディアさんの横顔が寂しそうに見えたのは気のせいではないだろう。
「う~ん、何とかしたいが上手い案が浮かばん。とりあえず宿に泊まって一晩考えるか」
「さ、賛成です。子供たちの相手をしていたので身体が悲鳴を……」
全身がボロボロになるまで遊んでいたらしいネージュも疲れてることだし、今日は早めに寝ちまうか。
「じゃあ宿を探すんだな。ちゃんとしたディナーが出る宿をボクは――ん? あの男……」
「どうしたレン?」
建物の陰から俺たちの見ていた男と目が合ったらしく、男は慌てて目を逸らして足早に立ち去っていく。
「今の男がどうかしたか?」
「うん、ボクたちが孤児院に入る前にも見かけたんだ。その時も目が合ったからさ」
「近所に住んでるんじゃないのか」
「そうかもしれないけどさ~、な~んか気になるんじゃ~ん?」
「それより宿を探すんでしょ。どこの馬の骨かも分からない男なんか放っておきなさいよ」
「それもそうだな~」
――とその時はメリーに流されて気にも止めなかったのだが、後にこれが大失敗だったことに気付く。
それは宿が決まって晩飯を済ませた後だ。食後の散歩に出ていたネージュが血相を変えて戻って来たことで明るみになる。
「皆さん大変です! 孤児院のナディア先生が怪しい男たちに連れ去られたみたいです!」
「何だって!?」
「偶然会った子供たちが泣きながら訴えてきました。早く先生を助けてほしいと」
まさか夕方見かけた男。あの野郎が孤児院の様子を窺っていて、俺たちが居なくなったタイミングで押し入ったのか!
「メリー、レン、急ぐぞ!」
「おお、戦闘か? バトルか? 食後の腹ごなしにもってこいだな! 行こうぜメリー!」
「何よも~ぅ。せっかく食後でマッタリしてたのに~」
「もしかしたらナディアさんの居場所を吐かせる必要があるかもしれない。その時はメリー、お前に尋問してもら――」
「よっし、行きましょ! 尋問でも拷問でも何でもやるわ!」
ネージュとウルには宿で待機してもらい、メリーとレンを連れて孤児院に駆けつけた。孤児院の前では子供たちが泣き叫んでいて、俺たちに気付くと藁にもすがるように懇願してきた。
「頼むよ兄ちゃん! ナディア先生を助けてよぉ!」
「アイツら、嫌がる先生を強引に連れてったんだ!」
「落ち着けお前ら。アイツらってのは誰なんだ?」
「分からない。分からないけど、冒険者風の男たちだよぉ!」
冒険者風……黒幕に雇われた連中か? そんな予想を立てていると、レンが袖をクイクイと引っ張ってきた。
「どうしたレン?」
「あっちの茂みから昼間の男が見てるぞ」
敢えて気付かないフリをしつつ思考する。十中八九、あの男が関与してるに違いない。ならばやることは1つだ。
「メリー、あの茂みに男がいるぞ、捕まえろ!」
「よっしゃあ!」
「っ!?」
待ってましたとばかりに茂みへと飛び込んでいくメリー。まさか俺たちが気付いてるとは思ってなかったらしく、逃げ遅れた男をアッサリと捕まえることができた。
「く、くそ、離せ!」
「暴れるな。ナディア先生をどこに連れてったか教えれば解放してやる」
「はっ、知らねぇな、そんな女」
「ああそうかい。俺は親切で聞いてやったんだが、どうなっても知らないからな。メリー、頼んだ」
「ウケケケケケ♪ 任せなさい!」
メリーは嬉々として霊蔵庫からアイテムを取り出す。
「まずは釘とハンマーでしょ、次にノコギリにロープ、それから色んな形の角材各種。あ、火薬も買っといたのよね~」
「お、おい、それで何をする気だ?」
「は? 決まってんでしょ。アンタが知ってる情報を吐かせるのよ。まずはロープで縛ってと……」
「や、やめろ、やめてくれ! 分かった、知ってることは何でもはな――ムググ!?」
あ~あ、言わんこっちゃない。喋り出す前に口に布切れを押し込まれてやんの。
「簡単に話されちゃ困るのよ。せっかくの拷問が楽しめないじゃない」
「ムーゥ! ムーゥ!」
「まずは逃げられないように地面に足を打ち付けましょうね~♪」
「グゥオォォォォォン!」
すでに男は涙目だ。釘を足に打ち付けてんだから当然だけどな。
「両足オーケー! 次は両手いってみよ~♪」
「グオォォ! グオォォォォォォ!」
これでコイツも激痛と共に後悔してるだろうと思い、口に突っ込まれてる布切れを取り除いてやった。
「これがラストチャンスだ。ナディアさんをどこに連れてった?」
「ひぃ、ひぃ、ヘ、ヘルーガン様の邸だ」
「ヘルーガン? 何者だソイツは?」
「この街の領主だよ! 本当は一週間後になる予定だったが、お前らみたいなイレギュラーが関与してきたから予定を早めたんだ」
一週間後だと? 借金の返済期日も一週間後ってのは偶然じゃなさそうだな。
「ナディアさんに金を貸してたのはヘルーガンだな?」
「ああ、そうさ。どうしてもナディアを手に入れたいからって、孤児院の金を盗むように言ってきたのもヘルーガン様さ」
「なんだよそれ、ナディアさんは罠に掛けられたのかよ!」
「はっ、騙される方が悪いんだよ! 俺みたいな他人を何の疑いもなく中に入れるくらい間抜けだったぜ。盗んだ金は好きにしていいって言われたし、楽な仕事だったなぁ。今ごろは雇われた冒険者が邸に連れ帰ってるだろうぜ。へへ、もしかしたらヘルーガン様も加わってお楽しみ中かもなぁ?」
――んの野郎、他人の良心に付け込みやがって!
「情報提供に感謝するぜ」
「じゃあさっさと解放してくれ」
「ああ。痛みから解放してやる。――メリー、コイツの股間にも釘を打ち込んでやれ」
「え、いいの!? よっしゃあ!」
「な!? バ、バカやめ――」
「ギャァァァァァァァァァァァァ!」
激痛により男は気絶した。これで少しの間は痛みを忘れていられるだろう。
「うう~ん、良い音色♪ 意図せず均一に保った悲鳴がポイントなのよ」
「そうかぁ? ボクには耳障りにしか感じなかったぞ~?」
「レンの感覚が正しいから真に受けるな。それより子供たちは落ち着いたか?」
「うん。ナディアを連れ戻すって約束したら元気になったぞ」
それは良かった。
「なぁ兄ちゃん、今すんげぇ悲鳴が聴こえなかったか?」
「まるで股間を潰された男が悶えてるような叫び声だったよね?」
「気にすんな。酔っ払いが悪夢にうなされてるだけだ」
「「「なぁ~んだ」」」
「それより領主の邸はどこにあるか知ってるか?」
「西の方だよ。ほら、そこの通りを真っ直ぐ行ったところに――」
子供たちに言われた通りに裏通りを走っていくと、周囲の建物と比べていかにもな豪邸を見つけた。
「ここだな。門番がいるが、行けそうか?」
「ナディアを連れ去ったのは冒険者なんでしょ。ならこうすればいいのよ――幻要!」
徐に門番へと近付くき、恒例の便利スキルを発動。
「雇われてる冒険者だけど、さっさと入れてちょうだい」
「あ……ああ、通っていいぞ」
拍子抜けするほどアッサリと通されると、無駄に広い庭を横切って入口まで到達。そこにいた警備兵にも幻要を使用し、上手く中に入り込んだ。
「ここまでは順調だ。後はナディアさんを見つけて脱出するだけだが……」
「それだけじゃダメよ。領主にもキッチリと責任を取らせなきゃ。それに居場所なら領主を締め上げれば早いじゃない」
「それもそうか」
メリーの案に乗っかり、領主ヘルーガンの元へと急ぐ。たまたま通りかかった使用人に聞くと、応接室で他の冒険者と話し中とのこと。多分ナディアさんを連れ去った犯人達だな。
ならばと応接室まで案内してもらい、使用人が立ち去ったのを見計らって中に突入!
ガチャン!
「ヘルーガンはどいつだ!? ナディアさんは俺たちが連れて帰る!」
中に居たのは中年のデブオヤジが1人と、柄の悪そうな4人組の男たちだ。部屋の隅には猿轡をされたナディアさんが転がされていたが、こちらに気付くと必死に首を振って訴えてきた。
「ナディアさん、無事だったか。今助けるから待っててくれ」
さて、まずは邪魔者から片付けるか――と思っていたら、デブオヤジがソファーから立ち上がり顔を真っ赤にして喚き散らし、4人の男たちは武器を手に取り身構えた。
「なんだ貴様ら、ワシがこの街の領主と知っての狼藉か!?」
「ああ、知ってるとも。孤児院から金を盗ませて借金させたこともな!」
「なっ!? くぅぅ、口の軽い男め……」
「むぅ~! むぅ~!」
アッサリと自分のしたことを認めた。ナディアさんはまさかって顔をしてヘルーガンを見上げるが、当の領主様は開き直り……
「フン、バレてしまっては仕方がない。ああそうとも。ワシに靡かないナディアを手に入れるために仕込んだのだ。おとなしく従えばこうはならなかったのになぁ? とても残念だよナディア。それにお前たちも妙な正義感にかられて動くようでは、まだまだケツが青いと見える」
「正義感で動いて何が悪い? それにな、お前らは1つ勘違いをしている」
「勘違いだとぉ?」
「ああ。コイツらは正義感で動くようなタマじゃない。いつだって自分に忠実さ。――頼むぜ二人とも!」
俺が叫ぶや否やメリーとレンが男4人組に襲いかかり、次々と負傷させていく。
「ギャア! う、腕がぁぁぁ!」
「あ、あ、足が……」
「ちょっと深く斬りつけたからって大袈裟よ」
「悪かった、俺たちの負けだぁ!」
「頼む、見逃してくれぇ!」
「へへ~ん、逃がして欲しかったらボクの犬になれ――ってね!」
二人の圧倒的な強さに赤かった顔をみるみる青くさせていくヘルーガン。やがて堪えきれずに声をあげようとしたその時!
ブシュ!
「……え?」
ヘルーガンの首が飛んだ。そう、首だけが血渋きを上げて飛んでったんだ。
視界の隅に映るメリーとレンは動いていない。もちろん男4人組もだ。
じゃあ誰がやったのかと頭をフル回転させるが、答えが出てくる前に聞き覚えのある声が聴こえてきた。
「ようやく見つけたぞ、お前たち」
「お、お前は――」
声のする方を振り返って俺は驚く。
「――レボル!」
「いつぞやの借り、返させてもらおう!」
そう。サザンブリング王国で因縁が出来ちまった、あの面倒くさい工作員だった。




