孤児院の危機
「グッドマンのみならずゴブリンキングまで討伐してくださるとは! まさに貴方たちは神の使徒だ!」
「だから大袈裟だって」
冒険者ギルドに戻ると、例のギルド職員が激励してくれた。ゴブリンの目撃情報が多かったため、ゴブリンキングの存在を懸念されてた矢先にメリーとレンが倒したって流れだ。
「いや~、それにしても凄い。レンさんは517体、メリーさんは502体もゴブリンを討伐なさってるとは。たった数時間でこれだけの数は異例ですよ」
「くぅぅ、負けたーーーっ!」
「アハッ♪ ボクの勝ち~!」
討伐数はギルドカードに自動的に記録される仕組みで、手柄の横取りは困難。どうやらお菓子総取りはレンのものとなったようだ。
ちなみにレンのギルドカードはプラチナで、レインボーの1つ下らしい。うん、充分すぎるほどの戦力だな。
「ところで皆様、近々旅に出ると仰ってましまが、どこを目指してらっしゃるので?」
「そうだなぁ……もうちょいオルロージュ帝国を回ってから別の国にでも行こうかな」
「世界旅行ですか? 貴方たちの実力なら問題はないでしょう。では良い旅を!」
職員と握手を交わしてザッカートを出た。いずれはプラーガ帝国とダンノーラ帝国にも行かなきゃならないんだよな。
そう、忘れちゃいけないのがフィルン王女の誘拐騒動だ。工作員の台詞からどこかの帝国が関わっているのが判明してるからな。まぁオルロージュ帝国はクロック王国の崩壊で手出しする暇はなさそうだし、必然的に残り二つの帝国のどちらかになる。
ちなみにザッカートってのはさっきまでいた港街のことな。
「なぁヒサシ~、お菓子は~?」
「いや、街を出る前に昼飯食ったばかりだよな?」
「あ~あ、分かってないな~。ご飯とお菓子は別腹なんだよ~。そんな感覚だから女にモテないんだぞ~」
「確かにそうね。ヒサシがモテてるとこなんか想像できないわ」
「余計なお世話だ!」
ったく、どうしてメリーもレンも揃って口が悪いんだ。
「お前ら、少しはネージュを見習ってくれ。いいお手本じゃないか」
「そのお手本とやらは歩きながらパンを頬張ってるけど?」
「……え?」
「モグモグ……ふ、ふいまへん。ふいほああがふいへ」
「アハッ♪ す、すいません、つい小腹が空いて――だって!」
「…………」
ダメだこりゃ……。
「お前らなぁ……、そんなに食ってばかりいたらブクブクと太っちまうぞ?」
「アハッ♪ 残念でした~! ボクもメリーも永遠に太らないんだ。羨ましいだろ~?」
ガバッ!
「あ、あの~、ネージュ?」
「その話、詳しく聞かせてくれませんか?」
「いや、あの、目が真剣で怖いんだけど……」
「いいから早く!」
「ヒィ!」
アホらし。放っとこう。
「あ、街道を外れたところに寂れた村はっけ~ん。何にも無さそうだけど休んでく?」
「あのねメリーさんや。何も無いなら寄る必要ないだろ」
「それもそうね。人知れず朽ちていく村に寄ってやる義理はないもんね」
「容赦ないなお前……」
しかし平和だ。ネージュのイレグイのせいで、ここらの魔物が全滅したんじゃないかってくらいに。
「あ、今度は吊り橋はっけ~ん。どうする? いっぺん谷底に落っこちてみる?」
「あのねメリーさんや。キミは俺を殺したいのかい?」
「大丈夫よ。地面に激突する寸前に衝撃を和らげてあげるから」
「何も大丈夫じゃねぇ!」
「だって退屈じゃない。もう何時間も歩いてるけど、時たま通行人とすれ違うだけじゃ面白くも何ともないわ」
「お前、それフラグ……」
10メートルほどの吊り橋を中央まで進んだところで、前方の岩陰から子供が数人飛び出してきた。
「何だ、コイツら……」
「ヒサシさん、後ろからも子供が」
前に5人、後ろに5人と、小学生くらいの男女10人がダガーを持って身構えている。平和的な話はできそうにない。
「お、お、お前ら……、お、お、おとなしくだ、だ、出せ!」
「ふ~ん? 随分と可愛い盗賊さんじゃない。出せってことはお金でも出せばいいわけ?」
「そ、それだけじゃないぞ! し、し、食料も――食料もだ!」
「だってさヒサシ。そろそろおやつタイムにしようぜ~?」
幸いメリーとレンは本気にはなってない。子供たちが切羽詰まってるのは間違いなさそうだし、要求に応えて話を聞いてみるか。
「分かった。金と食料を分けてやる。その代わり話を聞かせろ」
「べ、別に話なんか……。俺たちは貰えるもの貰えればそれで……」
「そういう訳にはいかねぇ。メリー、ギルドカードを見せてやれ」
「あ~なるほどね。ほら、これでいい?」
初めて目にするだろうレインボーのギルドカードに、子供たちは身震いを始める。まるで水戸黄門の印籠のようだな。
「レ、レインボーって、勇者並に強いって意味じゃ」
「嘘だろ!? こんなちっこいのが勇者クラスとか!」
「バカ! 余計なこと言うなよ、ボクたちみんな殺されちまうぞ!?」
「そんな! もう私たち助からないの!?」
「だから止めようって言ったのに……」
「まぁ落ち着けお前ら。盗賊紛いな行いは許しがたいが、何か事情が有るんだろ? 何があったか言ってみろよ」
「分かったよ。実は……」
俺たちには敵わないと諦めたようで、素直に説明し始めた。腹も空かせてたらしいから、テキトーにパンとか食わせながら聞いてると、彼らは全員孤児だということが判明した。
そして有りがちな話だが、金銭的な理由により孤児院の運営が困難となり、借金の取り立てが連日続いてるのを見た子供たちがついに立ち上がったと。
ちなみに孤児院のある街は、ここから1時間ほど歩いたところにあるらしい。
「ははぁ、つまりアレか。孤児院そのものが借金してて、金を払えないんならその土地を手離して出ていけと」
「そうなんだ。ナディア先生は心配いらないって言ってるけれど、大丈夫なわけないんだ」
「ですが他人から奪うような行為は感心しませんよ? ナディア先生が知ったら大いに悲しみます」
「それは……そうだけど……」
金は有るから恵んでやるのは構わない。でもそれは一時凌ぎにしかならないなら、根本を解決しなきゃ収まらないよな。
「よし、ナディア先生に会わせろ」
「え?」
「悪い子に拷問してもいいか聞いてみるのよ、ウケケケケケ♪」
「「「ひぃ!?」」」
「だからメリー、お前は……」
メリーのせいで多少の混乱が生じたが、子供たちは快く(←?)ナディア先生の元に案内してくれた。
「「「ただいまーーーっ!」」」
「お帰りなさい。もう少ししたらお夕食の準備をするから――――あら、お客様ですか?」
「あ、ど、どうも。冒険者をしているヒサシって言います」
パッと見二十代の金髪美人が出迎えてくれた。うん、出るとこ出てるし、スタイルも抜群だな!
「ソイツはメリーでアイツはレン。後ろにいるのがネージュでコイツがウルです」
「バウ!」
「あら、お利口そうなワンちゃん。それに可愛らしい子たちですね。孤児院の利用をご検討でしょうか?」
「いえいえ、コイツらは旅の連れです。それよりも少しお尋ねしたいことが――」
「あのね、アンタ平和そうな顔して突っ立ってるけど、コイツら街道で襲ってきたのよ? いったいどんな教育してんのよ!」
「え、ええっ!?」
やっちまった! 襲われたことは伏せようと思ったのに、メリーにバラされちまった!
まさかって顔をしたナディアさんが子供たちを見ると、みんな揃って顔を伏せる。それでメリーの言ったことが本当だと悟り、顔を真っ青にして土下座し始めた。
「申し訳ありません! 本当に申し訳ありませんでした! この子たちの責任は私の責任、私にできる事でしたらどのような事でもお申し付けくださいませ!」
「待って待って、別に責任取らせようとか思ってないから」
「いいえ、やってしまった事に対しては大小問わず責任が生じます。罪を償わずして院長は勤まりません!」
責任感の強い人だな。こういう性格だから子供たちも何とかしようと思ったんだろう。その子供たちも後ろで土下座してるしな。
「襲われた方の俺たちは罪を問わないと言ってるんだ。だから顔を上げてくれ」
「ほ、本当ですか?」
「そんなわけないじゃない。全員キッチリと拷問して――」
ゴン!
「いだっ!?」
「ったく余計なこと言うな! ……コホン。とにかくさ、何か事情がありそうだったから詳しく聞こうと思ったんだよ」
「そ、それは……」
どうにも話し難そうだ。子供には聞かせたくない事なのかもな。
そこでネージュを見ると、俺の意図を理解してニコリと微笑む。
「ほ~ら皆さん、わたくしが遊んであげますから、こっちへいらっしゃい」
「なんだよ~、お前だって俺たちと同じくらいの歳じゃんか~」
「新入りのくせに生意気だぞ~」
「そうね、みんなで新人ちゃんに洗礼を受けさせましょ」
「「「さんせ~い!」」」
「えええっ!? ちょ、ちょっと皆さん、離してくださ――」
よし、上手く子供たちを遠ざけてくれた。
「これでいいかな?」
「ありがとう御座います。そもそもの発端は、孤児院に保管している運営資金が盗まれたことが始まりなのです」
思ったよりヘビーな内容だった。まさか子供たちがという考えが過ったが、頑なにナディアさんは否定する。
「あの子たちが盗むとは思えません。お金に余裕がないことは薄々気付いてるようでして、度々冒険者ギルドで薬草を摘む依頼を受けているようなのです」
「口振りから察するに、ナディアさんには内緒でってこと?」
「はい。いつの間にかポーションが増えてたりしますので、すぐに気付きましたけどね」
微笑ましい努力だな。そこまでやってるなら子供たちが盗ったという線は無しか。
「借金をする羽目になりましたが、ちょうどその時に快くお貸ししてくれる貴族様が現れたのです。お陰で一時的には凌げましたが、お約束した利子よりも遥かに高い金額を要求されてしまい、払えないのなら……」
はは~ん、分かったぞ。
「身体で払え――とか言われたと」
「…………はい」
やっぱりな。
「……で、いくら請求されてるんです?」
「金貨にして300枚くらいです。期限は一週間後なので、それまでは大丈夫ですが……」
たった一週間でそれだけ稼ぐのは無理だ。賞金首の盗賊でさえもっと安かったしな。一応俺たちで立て替えることは可能だが、さてどうするか……。




