冒険者ライバル?
借金奴隷の3人を邸に招いて数日。だいぶ生活に慣れてきたのを見計らい、翌日には街を出ることに決めた。
冒険者ギルドの職員には世話になったので、一応はと思い挨拶しに来たんだが……。
「クッソがぁ! グッドマンはもう捕まったってぇ!?」
「嘘だろおい……」
「何よもぅ、せっかく戻って来たのにぃ!」
何やら受付で喚いてる奴らがいるなぁと思い盗み聞きしてみると、どうやら3人組の冒険者パーティがグッドマンが出たという情報を元にこの街へと戻って来たらしい。
「グッドマンの予告状が出たのは4日前だろ? もう早討伐されたってのかよ、クソガ!」
「はい。騎士団の方でも確認が取れましたし、グッドマンの件は完全に解決したとみなしております」
「くっそ~、せっかく賞金をあてにしてたのにこんにゃろう!」
「とんだ骨折り損じゃない!」
頭を抱える3人組を見てザマァと言いたげにニタニタと笑うメリーとレン。そんな二人を尻目に世話になった職員を探している中、受付嬢が余計なことを言い放つ。
「あ、久さ~ん! ちょうど今、貴方たちの話をしていたところなんですよ」
「……え?」
「グッドマン討伐の件ですよ。――ほら、こちらの冒険者さんたちが討伐してくれたんです」
3人パーティの視線が一気に俺たちへと突き刺さる。うっわ、めっちゃ睨んでくるやんけ……。
嫌な予感をヒシヒシと感じてると、直後にそれは的中した。
「クソガ! 俺は認めねぇぞ? こんないかにも駆け出しみたいな奴らに倒せる訳がねぇ」
「そうよそうよ! そんなに強いんなら証明してみせなさいよ!」
ほらな? 面倒な奴らは言うことが一緒だからなぁ。
「はぁ……。あのさ、認めるもなにもすでに終わった事だしさ、証明する必要なんかないし、納得いかないなら永遠に納得しなきゃいいだけだろ」
「んだとぉ!?」
「久の言う通りね。勝者は私たちでアンタらは敗者なの。分を弁えなさい」
「そ~だそ~だ、クソ雑魚ナメクジは引っ込んでろ~」
「――んやろぅ!」
「ムッキィィィ!」
メリーとレンのやっすい挑発に相手パーティが大発狂。ほらな? 面倒な奴らは言動がお決まりなんだよ。こうなると次に出てくる言葉も決まってて……
「クソガ! こうなりゃ俺たちと勝負しろ! 同じ依頼を受けて先に終わらせた方が勝ちだからなクソガ!」
「めんどくせ。んなもん勝手に――」
「フフン、上等よ。受けて立とうじゃない」
「ってメリー?」
ったく、テキトーに流せばいいものを……。
「言ったなぁ? 依頼内容はこれだぜこんにゃろう。北の森でゴブリンが大量発生してるから、できるだけ多く倒すのが目的だこんにゃろう。夕方までにどっちが多く仕留めるか勝負しやがれこんにゃろう!」
「アハッ♪ いいよ~。じゃあ今から開始だからな~」
「フン、後で吠え面かくんじゃないわよ!」
悪態をつきながら3人組は出ていった。しばし呆然としていると受付嬢から声をかけられ、ハッとして我に返る。
「北の森に行かれるのですね。ゴブリンが大量発生してるのはゴブリンキングが原因かもしれませんので、充分注意してください」
「そんなに強いのか?」
「駆け出しの冒険者ではまず勝てません。ベテランの冒険者――それも複数のパーティでようやく戦える相手だと思ってください」
「りょ、了解」
こういう時に限ってバッタリ遭遇とか勘弁してくれよぉ? ほんとマジで。そう心の中で念じていると、メリーに脇腹をつつかれた。
「ボサッとしてないで私たちも行くわよ」
「そうだぞ~。誰にケンカ売ったか思い知らせてやるんだからな~」
「はぁ……」
急な対決により旅立ちは後日となった。仕方なしに北の森へと足を運ぶと、メリーとレンが競うように奥へと突っ込んでいく。
「多く狩った方がお菓子総取りよ!」
「その挑戦受けて立つぞ~!」
どんだけゴブリンが沸いてるのか知らんけど、二人に任せておけば昼前には狩り尽くすんではと思えてくる。
「二人とも行っちゃいましたね。わたくしたちはのんびりと――」
「そうだな。薬草や木の実でも探して――」
「――釣りでもしましょうか」
「そうそう、釣りでも――って、はいぃ?」
「バゥゥ?」
釣りって言ったよな? 確かに釣りって言ったよな?
「ネージュ、どこにも池はないし釣りはできないぞ?」
「フフ、大丈夫ですよ。つい最近面白いスキルを身に付けたんです。――えい!」
「むぐっ!? ネ、ネージュ、何か特殊な餌でも使ってるのか? 身体が餌の方に引き寄せられる感覚が凄まじい!」
「バゥバゥ!」
「これはイレグイというスキルで、付近の生き物を餌に引き寄せる効果があるんです。理性が弱い者ほど効き目が大きいんですよ~」
「そ、そうなのか」
決して理性が弱いつもりはないんだが、気を抜くと今にも飛びつきそうになる。せめてウルよりも先に飛び付かないようにと踏み留まっていると……
ガサガサッ!
「グギャギャギャ!」
「グギーグキーッ!」
茂みから6体のゴブリンが飛び出してくると、我先にと餌に食らいつこうとした。
「おいおい、マジでゴブリンを釣ったよ。しかも奪い合いまでしてるし」
ゴブリンってもっと狡猾なイメージが有ったんだが、こうして見るとバカにしか見えん。
「あら、他にも来ましたね」
「他にもって――ええ……」
その光景を見て思わず絶句する。狼やら熊やらハリネズミやら、挙句の果てには動く植物までもが餌を求めて現れやがったんだ。
「こっちはクラッシュベア、あっちはグリーンウルフですね。でもどうして喧嘩してるんでしょう?」
「そりゃ餌を取り合ってるからだろ。まるで動物園の餌やりだな。見たことないけど」
「何ですか動物園って?」
「見世物小屋みたいなやつ」
そんなことよりこれはレベルを上げるチャンスじゃないか? みんなして餌に夢中になってるし。
「よし! 俺もアゴレントで乱入――」
「レンちゃんは奥に行っちゃいましたよ?」
そうだった……。
「ウル、片っ端から襲って経験値にしてやれ!」
「バウ!」
ネージュのスキルで理性を失った魔物はウルにとっては楽勝で、釣っては狩る――釣っては狩るをひたすら繰り返すだけで相当な数の魔物を倒していく。
「よし、このゴブリンで最後だ」
「ガウッ!」
「グギャッ!?」
ウルがゴブリンの首に噛みつき、そのまま絶命させる。これで一通り倒したし、一旦休憩にするか。
「もう昼になったし、ここらで終了しよう」
「でもメリーちゃんたちはまだ戻ってませんよ?」
「その問題があったな……。しゃ~ない、こっちから迎えに行――」
ズン……ズン……ズン……ズン……
「この微妙な揺れは……地震か?」
「いえ、何か巨大なものが動いてる感じです。それに微かですが、人の声も聴こえます」
「人の声も?」
メリーとレンが戻って来たのかと思い耳を澄ませた。すると……
「走れ走れーーーっ、追い付かれたら助からねぇぞクソガァ!」
「「ひぃーーーっ!」」
この声って……
「冒険者ギルドで因縁つけてきた3人じゃないか? 何かに追われてるようだが」
「あ、見えました。ゴブリンキングです」
ああ、ゴブリンキングと遭遇したのか。そりゃ逃げるよな~
「――って、ゴブリンキングゥ!? ギルドから出る際に忠告されたあのゴブリン!? 下位のゴブリンを召喚しまくるから危険だって言われてるあのゴブリンかぁ!?」
「はい。どうやらスキルに釣られちゃったみたいですね~」
「呑気なこと言ってる場合かぁ!」
メリーとレンが居ない今、ウルだけが戦力だ。なのにゴブリンが大量? そんなの対処できるわけがない。
「おお~い、お前らも逃げろやクソガァ!」
「ボサッとしてっと殺られちまうぞこんにゃろう!」
「言われなくても逃げるわ! ――走るぞネージュ!」
「は、はい!」
「バウ!」
ウルに後ろを警戒させ、森の外へと脱出する。街は目と鼻の先だが、それでもゴブリンキングは追跡を止めない。
「マズイわ! 街まで誘導しちゃったら、ギルドや騎士団から大目玉よ!」
「お前らグッドマンを倒したんだろこんにゃろう! ゴブリンキングくらいパパッと倒せよこんにゃろう!」
「それ言ったらお前らの方がベテランじゃねぇか! こういう時こそ先輩としての威厳を見せろよ!」
「誰がベテランだクソガァ! こうなりゃ今日から心機一転初心者だクソガァ!」
「む~ん、それなら仕方ないですね~」
「いや、仕方なくねぇから!」
不毛な争いを続けつつ徐々に街が近くなる。このまま街に入るわけにもいかず、どうにかしようと頭をフル回転させた。
「そうだ、イレグイだネージュ! 釣糸を遠くへ投げろ!」
「わ、分かりました!」
背後を振り向いたネージュがおもいっきり釣糸を飛ばす。
すると思った通り、ゴブリンキングは周囲のゴブリンを跳ね飛ばして餌に食いついた。
「よし、上手くいった! けどこれだけじゃ時間稼ぎにしかならない」
「それなら大丈夫ですよ、ほら」
ネージュの言った通り、ゴブリンキングのすぐ後ろからメリーたちが襲いかかろうとしていた。
「くたばんなさいデカブツゥゥゥ!」
「大物ゲットだぞぉぉぉぉぉぉ!」
「グギャーーーーーーッ!?」
メリーたち――主にレンの魔剣アゴレントが効きすぎたようで、斬り下ろされたゴブリンキングがドス黒い煙を上げて溶けていく。
主を討たれたゴブリンたちは、ヒィヒィと悲鳴をあげながら散り散りになって逃走した。
「お、おい、まさかゴブリンキングを倒したってのか? ク、クソガ……」
「ま、負けだ……俺たちの負けだぜこんにゃろう……」
「だから止めようって言ったのに、もぅ!」
力の差をハッキリと認識した3人組は、ガックリと肩を落として街へと引き上げていく。
「あれ? ちょ、ちょっと、途中で逃げるなんて卑怯よ!」
「や~い、臆病者~!」
「いや、もう相当ショック受けてるから止めたれ」
ちょっとしたトラブルに巻き込まれたが、明日こそ出発できたらいいなぁ。




