借金奴隷
「ありがとう、本当にありがとう! これでこの街も救われました!」
「そんな大袈裟な……」
事故物件を手に入れた翌日の朝。冒険者ギルドで激励を受ける俺とメリー、そして素知らぬ顔でチョロチョロと動き回るレン。理由はもちろん捕えたグッドマンを引き渡したからだ。
しかも例のグッドマンの正体だが、昨日コメルシオの邸で話しかけてきたオッサン冒険者だったから更に驚きだったぜ。
「大袈裟だなんてとんでもない! 貴方たちはヒーローです、この街の救世主ですよ! やはり私の目に狂いはなかった!」
「もう分かったって。――それよりほら、早く報酬よこしなさいよ」
「もちろん忘れてはいませんよ」
ドサッ!
「うう~ん♪ この重さは相当ね。好きなだけ服とかお菓子とか拷問器具とか買い占められるわ!」
グッドマンを見ようと集まった野次馬とそれを制しながら運び出そうとする騎士団を尻目に、大量の金貨が詰まったズタ袋を受け取りホクホク顔のメリー。正確に数えてはいないが、これで所持してる金貨は300枚を越えたんじゃないかな。
「ところで皆様、活動拠点は移されるのですか?」
「う~ん、まだ決まったわけじゃないが、世界中を旅して回る予定だし、そのうち他所に行くかもなぁ」
「左様で御座いましたか。それですと、あの邸はしばらく無人になりますねぇ」
むぅ……確かにそうだな。せっかく掃除とかしてくれたのに勿体ない気がしてきた。別荘にするのも悪くないし、手離すのは避けたい。
「家政婦とか雇おうかなぁ」
「あ、でしたら奴隷を購入されてはいかがでしょう?」
「奴隷を?」
「はい。奴隷との関係は契約による縛りが発生しますので、奴隷の首輪が外れない限り裏切られることはありませんよ。なんでしたら健全な奴隷商を紹介致しますが?」
「そうだなぁ……」
悩んだ末に奴隷を購入することに決定し、ギルド職員の紹介状を手に商館へと赴いた。そこには人間や獣人のみならず、ドワーフや魔物までもがラインナップされているという豪勢っぷりだ。
「いらっしゃいませ。この度は当商館へご来館いただき誠にありがとう御座います。紹介状をお持ちのようですね――――はほぅ、邸を長期間空けるため手入れをさせる者をお探しですか。おすすめの候補をお連れしますので、少々お待ちを」
にこやかに挨拶をしてきた中年男性が奥から奴隷たちを連れて戻ってきた。残念(←?)ながらエルフはいないようだな。やっぱ美形揃いだから需要が多いのかもしれん。
「いかがでしょう? 彼らは皆借金奴隷でして、犯罪歴などは一切ございません」
「借金奴隷ねぇ。ってことは犯罪奴隷もいたりなんかして?」
「もちろんで御座います。軽度な窃盗犯から重度な殺人犯まで多様におりますよ。万一を考えるのならこちらはおすすめしませんが」
確かにその通りだ。奴隷の首輪により動きが制限されているものの、中には不良により壊れてしまう例もあるらしいし、選ぶなら借金奴隷の方になるだろう。
だがメリーとレンは目を輝かせて……
「犯罪奴隷――いいじゃない最高よ! 奴隷だから何してもOKなのよね!?」
「欲しい欲しい、ボクも欲しい! 定期的に生き血を吸わせるのに最適じゃないか!」
「あ、あのぉ……」
「二人ともストップ」
暴走間近な二人の襟首を掴み、一旦外まで引きずり出す。
「なんで邪魔すんのよ! 道中でムシャクシャした時になぶり殺しにするんなら最適でしょ!?」
「そうだぞ~! メリーが痛めつけてボクが溢れた血を貰う。一石二鳥じゃないか!」
得してるのはお前らだけだろ……。
「世間体が悪いから却下」
「じゃあジワジワと呪い殺すだけで我慢してあげるわ」
「何で殺すのが前提なんだよ……」
「寝てる時に首から血を吸うだけならOK?」
「どこがOKなのか分からん。とにかくな、サンドバッグにするために奴隷買うわけじゃないんだよ。邸の手入れをさせるためだってことを忘れるな」
「「BooBoo!」」
二人からのブーイングを無視し、改めて用意された奴隷たちを見定める。犯罪歴がないなら誰でもいいんだが、むっさい男やケバい女は避けたいからな。
そんな感じに眺めていたら、ある3人に目が止まる。
「んん? この3人、元メイドって書いてあるんだけど」
他の奴隷とは違い3人とも小綺麗に見え、逆に浮いてる感じがしたんだよな。
「ああ、彼女たちですか。クロック王国の貴族の邸で働いていたらしいのですが、あの天変地異のせいで一族全員が死亡したようでして、路頭に迷っていたところを拾ったのです」
天変地異ってのは冒険者ギルドの職員が言っていた一夜にして国が崩壊した災害のことだったな。そりゃ住む場所無くせばこうもなるか。
「ちなみにですが、誰にでも彼女たちを紹介するわけではありません。これでも商人ですからね、やむを得ず借金奴隷となってしまった者を下衆な客には売りませんよ」
「じゃあ彼女たちを売ってもらうのも?」
「もちろん可能でございます」
よく見れば3人とも顔立ちは整っているし、年齢も俺と近そうだな。水色のポニーテールがリリアンで、ブロンドのストレートヘアがフレネート、黒髪サイドテールがハルミか。うん、華やかでいいじゃないか!
「なら決まりだ。その3人にするよ」
「ありがとう御座います! 良い人に拾われて良かったな、3人とも」
「「「ありがとう御座いますオーナー。ありがとう御座いますヒサシ様」」」
邸の管理にメイドさんはうってつけだからな。キレイな状態を保ってもらえれば、後は自由に過ごしてもらおうと考えた結果だ。
値段は1人金貨30枚と高額だったが、下手な奴隷を買うより100倍マシだろう。
さっそく3人を連れて帰ると、邸を見るなり驚愕されてしまった。
「こ、ここがヒサシ様の……お邸……」
「てっきり宿屋を営んでいるものと思ってましたが」
「道理で金貨90枚も出せるはずよね! ――じゃなかった、出せるはずですよね!」
「手に入れたのは成り行きだけどな。さ、中に入ってくれ」
すでに整っている屋内を見渡す3人。するとハルミだけは微妙に首を傾げ……
「どうしたんだハルミ?」
「あ、ごめん――じゃなかった、すみません! これだけ立派な邸なのにヒサシ様は貴族じゃないんだな~って」
「「ハルミ!」」
「うああ、ごめんなさいごめんなさい! 失礼なこと言いました、すみません!」
リリアンとフレネートに怒られ、身を縮こませるハルミ。この子はうっかり口が滑るタイプのようだ。
「いや、別に気にしないから落ち着いてくれ。この邸は貴族が住んでいたんだけど、訳有って譲り受けたんだよ」
「訳……ですか? それっていったい――」
スゥ……
「ウケケケケケ♪」
「「キャーーーーーーッ!」」
「こ~んな風に幽霊が出るからよ。イヒヒヒヒヒヒ♪」
「こら、メリー!」
どこ行ったかと思ったら、壁をすり抜けて来やがって。
「すまんな3人とも。コイツはイタズラが大好きなんだ」
「は、はぁ……」
「――ったく、余計なことすんな」
「いだっ!? ちょっとしたお遊びなんだから、いちいち叩くな~!」
喚くメリーを抑えつけ、邸のことを説明する。
「元は事故物件だったけど、もう浄化したから安心してくれ」
「そ、そうでしたが」
ヌッ!
「でも私は出るけどね~、ウケケケケケ♪」
再度メリーが床から現れるも、フレネートとハルミはすでに慣れた様子で……
「はいはい。メリー様は相手を驚かすのが得意なんですねぇ」
「へへ~ん、もう驚かないよ~――じゃなかった! 大変驚きました、はい!」
「チッ、もう少し楽しめると思ったのに。そんなお世辞言われても嬉しくないわよ」
「でしたらリリアンがお相手してくれますよ、ほら」
フレネートが部屋の隅っこを指した。視線を移すと、リリアンだけはしゃがみ込んでブルブルと震えている。
「え~と……リリアンって幽霊が苦手だったりする?」
「そ、そうなんです! 何もないところから突然現れたりされるのが怖くて怖くて……」
「そうなのか。でも安心してくれ。俺たちはもうすぐ旅に出るから、しばらくはメリーと会わなくてすむぞ」
「本当ですか!?」
ズィ!
「うっそピョーーーン!」
「ひぃっ!?」
今度は天井から顔を出してきた。
「だから余計なことすんなっつ~の」
「いでっ! いきなり引っ張んな!」
こんな感じに部屋を移動する度メリーに驚かされるリリアン。可哀想なんだけど見てるうちに段々と癖になるっつ~か、新鮮な驚き方をするもんだから見てる俺も楽しく――って、止めなきゃダメだよな、うん。
「それにしてもフレネートは最初から驚いてなかったよな。幽霊は怖くないのか?」
「ええ、特には。魔除けの光魔法なら少々使えますので、幽霊に襲われても自衛は可能です」
「バゥ!」
そう言いつつ中庭で寛いでいたウルを撫で始めた。
「でもフレネートって普通の魔物は苦手だよね~――じゃなくって、苦手ですわよ」
「幽霊は大丈夫なのに変ですよねぇ」
ん? 普通の魔物が苦手?
「その割にはウルを撫でてるじゃないか」
「大丈夫ですよヒサシ様。大型犬は動物ですので」
「いや、フレネートが撫でてるそれ……」
「ブラックウルフだぞ?」
「」
「おお~い、もしも~し?」
「すみませんヒサシ様。立ったまま気絶しちゃってます……」
「多分魔物に触ったのが初めてだったんだね~――じゃなかった、初めてだったと思います」
「マジかよ……」
ちょっと不安になってきたが、当分はこの3人に邸を任せることにした。




