夢のマイホーム
「おい見ろよ。あの商人がグッドマンの被害に――だってよ」
「ああ見た見た。あのコメルシオって奴、けっこう強欲で有名な奴だろ?」
「しかもグッドマンの予告状を自作して替え玉まで用意したってのによ、その後に本物が現れて殺されたらしいぜ?」
「ったく、バカな奴だよなぁ」
翌日に宿の食堂に下りていくと、木製掲示板の中央にデカデカとグッドマンの事件が貼り出されている。
内容を見た宿の客たちが口々に思ったことを吐き出していく横で、俺たちは会話を耳に挟みつつ朝食を平らげていく。
「話題が二つあるな。一つは昨日俺たちが体験した通りで、もう一つは依頼主とあの黒装束が殺されたって内容だ」
「本物による報復でしょうね。宣伝効果とかを期待して企てたんでしょうけど、ほんっとバカな奴。死んだら元も子もないのにね」
「最後はご自分の邸の屋根から吊るされていたそうです。もうしばらくグッドマンの脅威は消えないでしょう」
「バゥ!」
街の人は気の毒だけどな。グッドマンに関しちゃ遭遇しなきゃ捕まえられないし、メリーにその気が無くなったら他の街に移るつもりだ。
「あの~、グッドマンの件は置いとくとして、先ほどから隣でパンを食い散らかしているのはどちら様で……」
「ハグハグ、アグアグ――――ん? ほふのほほ?」
そうだった。ネージュにはまだ話してなかったな。
「この子の名前はアゴレントだ。魔剣アゴレントの意志が実体化したんだよ」
「はぁ……」
「ンク――ンク――プハァ! あ~美味しかった~♪ パンっていうのコレ? 初めて食べたけど、生き物の生き血より何倍も美味しいんだね!」
吸血鬼とかじゃない限りはそう感じるだろうな。俺としちゃ食費がかかるから人化しなくてもいいと思ってるが。
「こうやってちょくちょく人化すると思うけど、改めて宜しくねネージュ」
「はい、こちらこそ」
「あとウルもね」
「バゥ!」
普段は人化してブラつきたいらしい。長い間封印されたままだったから、外の世界が新鮮なんだとか。その代わり戦闘になったら俺の武器として戦ってくれるって言うし、護身の面を考えてもありがたいと言える。
「それでね、さっそくだけど久にお願いがあるんだ」
「ん? 何だ?」
「アゴレントって言われるのは親近感が湧かないからさ、もっと親しみを込めた名前で呼んで欲しいんだ」
「う~ん、名前かぁ……」
なかなか難易度の高い要求だぞ。メリーの時はイメージと合致したからすんなりと出てきたが、アゴレントは魔剣だしなぁ。上手く浮かんで来ないが、ここはテキトーに……
「アゴ」
「アハッ♪ 死にたいの?」
「いや待って、冗談だから」
おどけて見せるけど目が笑ってなかった。もっと真剣に考えよう。
さっきは先頭部分を略して失敗したから、今度は後ろの方を……
「レン――でどうだ?」
「うん、アゴよりは全然マシね。これからはレンって呼んでよ」
無事名前が決まり、朝食を終えたところで宿屋を後にすると、再度冒険者ギルドへと向かった。
目的はグッドマンの件で、ギルドに着くなり昨日対応した男性職員が俺たちの方へと足早に駆け寄ってくる。
「メリーさんにお仲間さんたち、よく来てくださいました」
「掲示板の情報を見たんですが、昨日捕まえた奴はやはり……」
「はい。騎士団によると闇ギルドの構成員で間違いないとのことで、皆が寝静まった後に悲鳴が聴こえたかと思えば、地下牢についた時にはすでに男の姿はなかったと。その場には血痕が残されてたため急いで辿っていくと、詰所のすぐ側の街灯に全身血塗れの状態で吊るされていたそうです」
間違いなくグッドマンの仕業だな。
「そこでお願いなのですが、しばらくの間この街に滞在していただけないでしょうか? もちろん滞在費用はこちらで負担しますので」
「グッドマンを捕まえるまでって意味よね? でもどこに現れるか分からないんでしょ? すでに別の街に移動してるかもしれないのに、この街に留まるのはねぇ」
「そこを何とか!」
土下座するかの勢いで腰を90度曲げるギルド職員。そんな職員に、レンが呆れ顔で問いかける。
「なんでそんなに必死なのさ~? 冒険者なんて他に幾らでもいるだろ~?」
「そんなことはありません。レインボークラスなんて、ここ数年はお目にかかれなかったくらいですから。メリーさんの存在が広まれば、引く手数多に違いありませんよ」
食い下がって煽ててきたか。冒険者ギルドとしての面子があるのか、何としてでもグッドマンを捕まえたいという意志が伝わってくる。
だが肝心のメリーは退屈そうな顔で……
「でもねぇ……。夜までは時間があるし、毎晩出るわけじゃないだろうし……」
「そうだ! ではこちらから積極的に依頼の斡旋をさせてください。昼は依頼を、夜は警邏をしていただければ、効率よくお金も貯まります。貴族街一等地のマイホームだって夢ではありませんよ!」
いや、マジで食い下がるなぁ。よほどグッドマンをどうにかしたいと見える。けどマイホームはなぁ……と思っていたら、メリーから意外な台詞が。
「マイホームか……。うん、悪くないわね」
「でしょう!? もちろんお得な物件もこちらで見繕いますよ!」
「じゃあ今から見に行ってもいい?」
「もちろんです! どのようなご要望でもお申し付けください!」
あれあれ~? おかしな流れになってきたぞ~?
「おいメリー、俺はマイホームなんて考えてないぞ?」
「ちょっとした暇潰しよ」
「いや暇潰しって……レンからも何か言ってくれ」
「別にいいんじゃな~い? メリーのことだから何か面白いこと考えたんだろ~」
ダメだこりゃ……。
結局流されるままにマイホーム見学という名目で貴族街へと赴くことに。
ニコニコ顔のギルド職員が「ここがご要望にありました邸宅です!」と告げて立ち去った後、メリーがニヤリと不適な笑みを浮かべて邸を見上げた。
「フフン、思った通りだわ」
「何が思った通りなんだ? いい加減説明してくれ」
「バゥ!」
「イヒヒヒヒヒ♪ まぁ焦らないでよ。中を見ながら説明するから」
手入れが行き届いているのか中は意外と小綺麗な状態で、下っ端貴族が住んでてもおかしくない程だ。外装も明るい色合いで洒落てる感じがしたしな。
部屋の数も多くて中庭付きだし、俺としても住むならこんな感じの邸だよな~なんて思いを馳せていると、メリーから衝撃の事実が告げられる。
「今までここに住んでいた貴族はね、いずれも奇妙な死を遂げてるのよ。自殺だったり他殺だったり色々あったらしいけど、死体が発見されたのは全て邸の中らしいわ」
「事故物件じゃねぇか! 何だってこんな邸に来たんだよ!」
「ニシシシシ♪ そりゃもちろん――」
パチン!
得意気にフィンガースナップをした途端、周囲の空気が一気に冷たくなるのを感じた。ネージュは身体を縮こませ、ウルも異変に気付くと体勢を低くして唸り声をあげる。
「ほら、さっさと出て来なさいよ。アンタらのために来てやったんだから、せいぜい私をもてなしなさい」
う……う"う"……ああ"ああ"……
「この声……犠牲になった貴族の声か?」
「使用人とかも含まれてるわ。ざっと20人ってとこかしらね」
「そんなにいんのかよ!」
「いいから黙ってて。正確な場所を割り出すから」
怨霊が彷徨っているものの各々には固持してる場所ってのがあるらしく、そこを浄化できれば怨霊は消えるらしい。
「まずはそこの棚。ほら、ボーッとしてないで剣を振って。魔剣でも浄化できるから」
「わ、分かった。――レン!」
「アハッ♪ ボクの出番だね」
ガシャーーーン!
『ギャァッ!』
レン――もとい魔剣アゴレントで棚を叩き壊すと、女の声で断末魔が響いた。
「まずは1人っと。次はそっちのテーブル」
「お、おぅ!」
バキィ!
『あ"あ"あ"ぁぁぁ……』
テーブルも叩き壊すと、今度は子供の断末魔が聴こえてきた。魔剣アゴレントが特殊なのかもしれないが、こんな簡単に除霊ってできるもんなんだな。ただ壊してるだけなのにちょっと楽しんでる俺がいる。
「この調子でガンガン行くわよ~」
その後も厨房やら中庭やら屋根裏やらを巡り、ひたすら怨霊を浄化しまくった。単調な作業で飽きてくるけど、俺のレベルが上がってるから無駄な行為ではないな。まぁ邸の中で剣を振ってるから至るところがボロボロになっているが。
「今さらだけどさ、あちこち壊しちまってるけど大丈夫なのか?」
「この物件は曰く付きだから格安で売りに出されてたのよ。一般人でも買えるくらいだけど、有名過ぎて誰も買わないらしいわ。ギルド職員に話したら、喜んでプレゼントしてくれたわよ」
そりゃ向こうにとっちゃ事故物件を押し付けられてラッキーとか思ってるだろう。
「これ、後始末が大変だなぁ……」
「そんなのギルド職員にやらせなさいよ。喜んで掃除してくれるわよ」
「メリーくん、その案を採用する」
「じゃあ最後の仕上げね。地下室に行くわよ」
怨霊は残り1体で、そいつだけは地下室が現場となってるらしい。
「うっ! なんだよこの重苦しい空気は」
「め、目眩がしそうです……」
「グルルルル……」
地下に下りると一段と空気が凍りついてるように感じる。俺と同じくネージュとウルも感じ取る中、メリーが奥へと進んでいく。
「ほら、あの床に描かれた魔方陣が全ての元凶よ。魔術師か召喚士が怪しげな魔法でも研究してたんじゃない?」
「つまりその研究者が元凶ってわけか」
「そ。――ほら、お出ましよ」
ズズ……ズズズズズズ……
魔方陣が淡く光り、黒い影が這い出てきた。
「コイツが元凶か?」
この邸に来て散々霊障を見せつけられた側にしたら、今さらって感じしかしない。いや、アゴレントを握ってるせいかもしれないが、不思議と恐怖は感じないな。
「コイツは他と違って大物よ。だから私のメインディッシュとして――」
「おらぁぁぁ!」
ズバッ!
『ギャオオオ!?』
「ちょ、ちょっと久、そいつは私の――」
「効いてるな、もういっちょ!」
ズダン!
『オオオォォォ……』
「よっしゃ、討伐完了! レベルも上がったし、幸先いいぜぇ!」
――と思ったのも束の間。俺の行動に不満をいだく人物が一人。
「アンタ……よくも私の獲物を……」
「あ、あの~、メリーさん?」
「代わりにアンタを剥製にしてやろうか? ウケケケケケ♪」
「わ、悪かった! 悪かったから許してくれぇぇぇ!」
本気度MAXの笑顔が余計に怖かったです(by久)




