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新たな大地へ

「ではサラバじゃ。もう二度と会うことはないじゃろうが、達者で暮らすんじゃぞ?」

「うぃッス。なんとか頑張ってみるぜ」

「ばいば~い」


 何気ない俺の声と気の抜けたような悪霊の声が響くのと同時に視界が暗転し、気付けば見知らぬ森の中に立っていた。

 身なりは死んだ時と同じ軽装で、所持品は腕時計のみでスマホや財布はない。有っても使えないだろうがな。

 チートな能力も貰えなかったし、ぶっつけ本番でやるしかねぇな。


「でだ。おい悪霊、これからどうすればいいと思う? 右も左も森の中じゃ、どこに行けばいいのかすら分かんねぇぜ」

「だったらまずは――って、なんでそんな安直な呼び方なのよ。もっと可愛らしい呼び方とかあるでしょ。待っててあげるからさっさと考えなさいよ」


 ま~た自分で可愛いとか言ってるし。しかも異世界に来て最初にやることがコイツの名付けかよ。


「つ~か名前ないのか? 生前の名前とかじゃダメなん?」

「だって、私は怨念が練り固まった存在だもの、生前なんてものはないわよ。あらゆる負の感情が私の命の源となる最高級の悪霊――それが私よ。そこらの低級霊と一緒にしないでちょうだい」


 よく分からんが最高級らしい。出会って即座に俺を秒殺したくらいだから間違ってはいないんだろうけど。


「分かったよ。とりあえずメリーでいいか?」

「……とりあえずって何? ちゃんとした理由を言いなさいよ」

「理由って……」


 まぁないこともないが。

 まずは金髪という点で横文字がピッタリだと思ったのと、全体像が少女であることから、都市伝説で名前が上がるメリーさんを連想したという点だ。

 但し、これらをただ伝えただけでは納得しないだろうと感じた俺は、さも素晴らしいと聞こえるように誇張して話してやった。


「ほら、メリ~クリスマ~ス♪ とかよく言うだろ? それだけ特別って意味なんだ」

「ふ~ん? 早漏のアンタにしては上出来だわ。これからはメリー様って呼びなさい」

「様はいらないだろ。まるでお殿様みたいにバカっぽく聞こえるぞ?」

「そう? じゃあメリーでいいわ」


 よしよし。だいぶコイツの性格が分かってきた。上手く煽ててやれば思い通りに動かせそうだ。



『ア~ア~、(ひさし)にメリーよ、聴こえるかの?』


 おっと、頭の中にオルド爺さんの声が響いたぞ。


「聴こえてるぞ。二度と会うことはなかったんじゃないのか?」

『現に声だけで会ってはいないじゃろ』


 いやそれ屁理屈だから。


『いやなに、この世界のことをザッと説明してやろうと思うてな。右も左も分からんと苦労するじゃろ?』

「そいつは助かる」

「じゃあさっさと教えなさいよ。コイツったらトロくさいのなんのって……」

『さっそく尻に敷かれとるようじゃが……まぁええわい。この世界はな――』


 長くなったので割愛するが、要点をまとめると以下の通りになる。


 ・ここはイグリーシアという世界で、魔法やスキルを使える者が存在する。

 ・街から一歩でも外に出れば魔物や賊に遭遇する可能性があり、自分の身は自分で護るために一般人でも武装する必要がある。

 ・街にあるギルドに所属することでギルドカードという身分証を入手できる。

 ・ステータスは念じることでいつでも確認可能。

 ・詳しくは現地で見てみるがよい。それからワシはハゲではないぞ? 心しておくがよい。


 最後の一行はどうでもいいが、概ねこんな感じだ。


『では今度こそサラバじゃ。せいぜい達者でのぅ』


 それっきりオルド爺さんの声は聴こえなくなった。


「さてと、じゃあさっそく――」

「街があるところに移動するのね」



「木を切り倒して資材の入手だ」



 ズルッ!



 俺の台詞でメリーが空中でズッコケる。中々器用な動きだな。


「なぜそうなる!?」

「違うのか? まずは先立つものがなきゃなんにもできねぇし」

「アホか! まずは人の集まる場所に向かうのが先決でしょ!? まさか森の中で一晩明かすつもり!? 伐採する道具もないくせに、な~にを悠長にマインク○フトみたいなことやろうとしてんのよ! 食料だって無いんだからもっと危機感を持ちなさい!」


 悪霊に説教された……。世界中を探してもこんなのは俺くらいじゃないだろうか。いや自慢にはならんけど。


「じゃあ街に向かえばいいのか? 確か西の方に数日歩けば大きな街に着くんだっけ」

「バカね。日にち跨いだら空腹で倒れるじゃない。まずは北の漁村に向かいましょ。そこで村の手伝いとかをして、旅に必要な物を揃えるの。街に向かうのはそれからでもいいわ」

 

 なんだかメリーが頼もしい。このまま悪霊にしとくのが勿体ないくらいに。

 ――と、ここでメリーの顔が強張る。何事かと尋ねようとしたところで、周囲の茂みが揺れ始めた。



 ガサッ――ガサガサガサッ!



「な、何だいったい?」

「異世界の住人――にしてはやけに獣臭いわね。敵意も感じるし、魔物に違いないわ」

「魔物……」


 するとメリーの台詞を肯定するかのように、茂みから棍棒を持った赤茶色の人間――恐らくはゴブリンがヌッと姿を現した。


「グギャギャ!」

「グギャグギャ!」


 聞き苦しい声で何やら話し合っている。向こうは4体でこちらは2人。これならやれるとでも思ってるのかもしれない。


「どうする? いけるか?」

「いけるか――って、武器のないアンタがどうやって戦うのよ?」

「いや、逃げるかって意味だったんだが」

「とことんヘタレね……。まぁ賢明な判断だわ。今のアンタじゃ勝てないだろうし」


 悔しいがまったくその通りだ。


「でもね、()()相手に背中を向けるなんて、私のプライドが許さないのよ」

「え、まさか……」

「まぁ見てなさい。低級霊との違い――見せつけてやろうじゃないの!」


 言うや否や、メリーはゴブリンに向かって突っ込んでいく。その動きに一瞬戸惑いを見せるゴブリンだったが直ぐに棍棒を振り上げ、カモが来たと言わんばかりに叩き潰そうとした。


「お、おいメリー!」

「大丈夫よ。私に物理攻撃は――」



 スカッ!



「グギャッ?」



「効かないもの!」



 半透明になったメリーを見て、俺もゴブリンも目を見開く。特に振り下ろした棍棒がスカったゴブリンは、軽いパニック状態だ。


「このスキルは物理不通(フィジックスルー)っていうパッシブスキルで、自身が物理的ダメージを負いそうになったら物理概念を無くしちゃうの。多くの幽霊はこれを取得して行動してるのよ。それじゃあ殲滅開始っと♪」



 パッ!


「「「!?」」」



 目の前で消えたメリーに更に驚き、完全に動きを止める。

 いや、驚いたのはゴブリンだけじゃない。俺から見てても、どこに消えたのかまったく分からないんだ。

 だがこの後すぐに消えた理由が判明する。


「グ……グギ……グギギギギ……」


 1体のゴブリンが奇妙な動きをし始めたんだ。まるで自分の意思とは違うと言いたげに、そのゴブリンは仲間へと向き直り……



 ドグシャ!



 コイツ仲間を撲殺しやがった!? いや、そうか、メリーが憑依してるんだ!


「グギッ!?」

「ギャギャッ!?」


 謎が解けたが、そんなトリックがあるとは知らないゴブリンはひたすら混乱するのみ。



 グシャ!



「グ、グギャァァ……」


 そうこうしてるうちに更にもう1体が血溜まりに沈み、残るゴブリンは2体となった。


「いいぞメリー、その調子だ」

「グギャッグギャッ!」


 俺の声援が届いてるかは不明だが、憑依されたゴブリンは残り1体に向けて棍棒を振り上げる。やらせはしないと相手のゴブリンも抵抗し、棍棒と棍棒が打ち合う形に。


 ガキガキン!


『チッ、しぶといわね。だったら――』



 シュン!



「また消えた!?」

「グギッグギッ!?」


 俺もゴブリンも頭に?マークを浮かべて混乱する。たった今まで目の前にいたはずなのに、消え去ったからだ。

 ――が、あり得ない場所から声が聴こえ……


『どこ見てんのよクソ雑魚』



 ドゴォ!


「グギィィ……」


 いつの間にか背後に回っていた憑依ゴブリンが脳天を砕いていた。


「お前どうやって背後に? さっきまで正面にいたよな?」

『そんなのスキルに決まってるじゃない。アンタだって聞いたことあるでしょ? 遠くにいた幽霊が一瞬で目の前に現れたりするやつ。あれの大半もスキルなのよ』

「そうなのか!?」

『そ。遺恨やら怨念やらを残した霊っていうのはね、何らかのスキルを得て現世を彷徨ってるの。見えたり消えたりするのはスキルだと思っていいわ』

「じゃあさっきから頭に響いてるお前の声も……」

『ああ、念話ね。ちなみにアンタにしか聴こえてないから、他人の前では注意しなさい。不審者に見えるから』

「あ、ああ……」


 知られざる真実だよなこれ。霊能者だって知ってるか怪しいぞ。

 さて、そんなことより残り1体をどうするかだが、またもやこの憑依された奴に異変が起こる。



「グ……グ……グキャーーーッ!」

「な、なんだコイツ、気でも狂ったか? つ~か何してんだメリー?」

『精神力を散らせて発狂させるのよ』


 棍棒を放り出し、頭を抱え、まるで急病人みたいな有り様だ。

 しかしそれも長くは続かず……



「ヒグェッ!?」



 なんとも奇妙な声をあげて白目を向いて気絶。そして終わったとばかりに憑依されたゴブリンからはスッとメリーが飛び出してきた。


「フフン、ザッとこんなもんよ」

「おお、すげぇすげぇ! まさか互いに同士討ちさせるなんてなぁ」

「他にも色々とできるけれどね。それより早くトドメ刺しちゃって。最後の奴まだ生きてるから」

「おう、分かったぜ!」


 まだ息がある1体の頭部を棍棒で潰してやった。他人を殺すのがそもそも初めてで少し抵抗はあったけどな。


「これでよし――――ん?」

「どうしたのよ?」


【レベルアップです。Lv1→Lv2】


 頭の中に響くレベルアップの告知。地味に便利だな。


「メッセージが届いたんだが、どうやらレベルが上がったらしい。何だかさっきよりも力が付いた気もする」

「よかったじゃない。この調子でゴブリンを自力で蹴散らせるように精進しなさい」


 さっきは何もできなかったしな。今度はビビらずに戦ってやるぜ。


「しっかしヒデェ匂いだ。ゴブリンってのは見た目だけじゃなく血の臭いまで不快にさせてくれるな」


 ん? 匂い?


「ヤベッ、早く逃げるぞ!」

「今度は何?」

「血の臭いで魔物が来る!」

「え~? これから解剖とかして遊ぶんじゃないの~?」

「やらねぇっての!」


 今更ながら俺はメリーの存在に有り難みを感じつつ、ゴブリンの持っていた物資を奪いうと、北にある漁村を目指して移動を開始した。

メリー:Lv???

発覚スキル:物理不通フィジクスルー

自身に危機が及びそうになった場合、対象となる動きには干渉されない。


足利久:Lv2

スキルなし:

所持品:銅貨5枚、干肉少々

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