メリーVSアゴレント
あれだけ目を輝かせるほど拘っていたグッドマンを前に、メリーはあっさりと捨て去ってしまった。本人がいいと言うなら構わないが、やはり理由が知りたい。偽者というフレーズも気になるし、足早に帰るメリーに追い付くと、どういう事なのかを尋ねた。
「いったいどうしたっていうんだ? あんなにグッドマンを熱望してたじゃないか」
「どうしたもこうしたも、あの黒装束は偽者よ。あんなのに時間を取られたと思うと腹立たしいわ」
あんまし怒ってる素振りは見せないものの、メリー自身は苛立っているらしい。
「やっぱり偽者なのか? 俺にはよく分からなかったが」
「アンタは洞察力が無さすぎよ。いい? グッドマンがターゲットにしてたのはコメルシオとかいう小肥り商人よ。そいつを前にして何で私に矛先を向けるのよ? それにね、グッドマンは道化師の格好したピエロみたいな顔なのに、あの黒装束は全然一致しないじゃない。これでも本人だと思うなら、アンタの目は節穴どころじゃないわ」
「そ、そう言われれば確かに……」
冷静に考えればその通りだが、いざ目の前にするとすっかり忘れてたなぁ。
ったく、それもこれもグッドマンのせいじゃねぇか。何としてでも奴を捕まえて、ジワジワとなぶり殺しにしてから街で一番目立つ場所に吊るしてや――
パシッ!
「いでっ!?」
立ち止まったメリーから肘打ちされて正気を取り戻した。段々思考が物騒になってきてるような……
「ま~た妙なこと考えてんでしょ? 魔剣アゴレントを手に入れてから、度々妙な顔してるわよ」
「悪かったって。でもなんつ~かこう、頭がモヤモヤしてさ……」
「そうね。放っておくと手遅れになるかもだし、ここらで白黒つけるのがいいかもね」
スチャ!
「おいメリー!?」
メリーが徐に草刈り鎌を向けてきた。
「この辺りは人通りも少ないし、深夜だから誰も来ないわよ。安心しなさい」
「ちょっと待てって、何に安心するってんだよ!?」
「だから安心しなさいっての。別にアンタを襲おうなんて思ってないから。私はね、アンタを取り込もうとしている存在に用があるのよ」
「俺を……取り込む?」
スゥ……
そう疑問を口にした瞬間、全身の力がフワッと抜けていく。代わりと言っていいのか不明だが、メリーと同じくらい低身長の女の子が魔剣アゴレントを手にして現れた。
「お、お前はいったい……」
「アハッ♪ 見て分からない? キュートで可憐で万物を深く魅了してしまう魔剣アゴレントとはボクの事だよ!」
メリーに勝るとも劣らない狂気を含んだ笑みは一目で残忍な正確だと分かる上、ショートカットでありながらも赤と紫とピンクが入り雑じった頭髪は、より毒々しさを強調してるかのようにも見える。
「見なさい久。コイツがアンタを狂わせてた元凶よ」
「元凶……ってことは、ここ最近思考がおかしかったのはこの子のせいか」
「そう――って、鼻の下伸ばしてる場合じゃないわよ? アンタは気付かなかったでしょうけど、隙あらばネージュを斬り殺そうとたくらい危険な奴なんだから」
「マジかよ!」
いくらなんでも仲間に剣を向ける奴を野放しにはできない。不覚にもちょっとだけ可愛いと思ってしまった自分を戒め、アゴレントから距離を取った。
「な~によ~、そんな怖がんなくてもいいじゃない。キミはボクの器なんだから、殺したりはしないからさ~」
「いいや、仲間を危険に晒すなら俺の敵だ。残念だがここで倒させてもらうぞ――」
「――メリーが」
ズテン!
「……ア、アンタ、よく恥ずかしげもなく他力本願なこと言えるわね……」
「……おっかしいな~、こんな頼りない器だと思わなかったんだけど~」
二人に呆れられた。何でだ!?
「まぁいいわ。私にとっても久は必要不可欠だし、他に渡すつもりもない。アンタにはここで消えてもらうわ」
「アハッ♪ 上等だよお前。勇者の子孫――リーザですら封印できなかったボク相手にどこまで持つかな~」
ザッ!
先に動いたのはアゴレントの方で、小柄な体型とは不釣り合いな力で魔剣を振り下ろす。
「フン、無駄よ無駄無駄。アンタの動きじゃ私を捉えられない」
「…………」
ひらりと回避しながらも挑発するメリーを無視し、アゴレントは剣を振り続ける。やがてメリーの動きが読めてきたのか、一気に懐へと詰め寄りつつ薙ぎ払う。
「アハッ♪ そこだ~!」
――が、
スカッ!
「――えっ?」
捉えたと思ったんだろうが物理不通により斬撃は当たらず、アゴレントの背後にメリーが出現した。
「だから無駄って言ったでしょ。これでチェックメイト――」
アゴレントに触れれば接触不動で動きは止まる。リーザの時と同じように身体に触れようとした。
バチッ!
「あぐぅ!?」
しかし、悲鳴をあげたのはメリーの方で、初めての苦痛に困惑しながらもアゴレントを睨みつけた。
「アハッ♪ 驚いた? これでもボクは魔剣だからね~。許可した存在以外は触れられないんだぞ~」
「……アンタのスキルね」
「そゆこと~♪ でもキミもなかなかやるね~。本来なら肉体が弾け飛ぶくらいのダメージが入るのにさ~、ちょっと火傷した程度とかズルいぞ~」
「そうやって余裕こいてられるのも今のうちよ。直接触れられなくてもアンタを追いつめる方法は幾らでもあるわ。――幻要!」
シュイン!
「プッハハハハハ♪ ボクの正体を忘れたの~? 魔剣だよ魔剣。人ですらないボクに幻術なんて効かないよ~だ!」
「チッ、ならこれでどう? ――身体憑依!」
バチン!
「いたっ!?」
「だから無駄だって~。ボクの許可なく触れないんだから、憑依だって同じだよ~」
「……そう。だったら触らないでおくわ。代わりは用意するけどね! ――念始動接」
霊蔵庫からロープと干肉を取り出し投げつける。ロープはアゴレントに絡み付き、干肉は口と鼻を塞ぐように顔に張りついた。
「フフン、思った通りね。生命体じゃなければアンタには触れる。このまま締め上げて――」
「ハァッ!」
ドバッ!
アゴレントがエネルギーのようなものを開放し、ロープと干肉が吹き飛んでいった。
「目の付けどころはいい感じだよ~? でも力不足だったね~」
「チッ、ほんっっっとウザいわねアンタ。こうなったら一気にケリ付けてやろうじゃない。――憑依合体!」
「うげっ!?」
とうとう禁じ手を出しがった。つ~か俺をコキ使うんじゃねぇ!
「ああっ!? せっかく取り込んでる最中なのに邪魔しないでよ!」
「うおっ!?」
アゴレントまで俺の中に入り込んで来やがった。いったいどうなっちまうんだ!?
『ちょっとアンタ、久は私のなんだから出ていきなさいよ!』
『お前こそ出ていきなよ~! この器はボクの専用なんだからさ~!』
『ふざけんなゴミ! 出来損ないの剣がでしゃばんじゃないわよ!』
『お前こそゴミだろ~!? 浮遊霊のくせに生意気だぞ~!』
なんだか低レベルな罵りあいになってきたぞ? しかも念話で。
うん、というかこれアレだな。女の子二人が俺を取り合ってるってのはある意味嬉しいシチュエーションでもあるな。一度言ってみたかった台詞を今なら言えるかもしれない。
よし、思いきって言ってみよう。
「まぁ落ち着け二人とも。俺のために争わないでくれ」
『『…………』』
あれ?
『止めましょ。コイツのために争ってるって考えたら悲しくなってきたわ』
『さんせ~い♪ こうしてみるとお互いに害はないみたいだし、このまま共存でもいい気がしてきた~』
『そうね。アンタが居ると便利そうだし、宜しく頼むわ』
『うん、宜しく~♪』
俺の一声で和解したようだ。最悪暴走しなけりゃいいんだし、アゴレントにはキチンと言い聞かせれば問題ないかもな。
つ~か二人とも、俺のためにもっと争わなくていいのかい?
★★★★★
同日同時刻、コメルシオの邸にて。
「くそっ、何てことだ。せっかくグッドマンを利用して庶民共の注目を引こうとしたのに、まさか雇った構成員を突き出す羽目になってしまうとは……」
ふむ。構成員――というフレーズからは闇ギルドを連想しますねぇ。
「だがワシは悪くないぞ? 悪いのは予想以上に弱かった構成員と空気の読めない冒険者だ。いずれ騎士団もあの男が偽者だと気付くだろう。そうなる前に次の手を打たねば……」
この期に及んで責任転嫁ですか。商売は上手いのに先行きが見えないとは、商人としては致命傷だと思うんですがねぇ。
そろそろ独り言も聞き飽きてきましたし、本題をつついてみましょうか。
「ほぅ、次の手ですか。我輩を利用しておきながら無事に過ごせるとでも?」
「フン、当たり前だ。怪盗グッドマンなど、あの構成員を簡単に伸した冒険者なら――って誰だ貴様!? どうやって寝室に!」
ようやくお気付きになられたようです。先程から窓の外でこんばんはをしていたのですが、いやはや無駄でしたか。
では改めて名乗らせていただきましょう。
「何をそんなに驚いているのです? 貴方の元に予告状が届いたのでしょう?」
「ま、まさか!」
「ホッホホホ! 貴方に呼ばれて馳せ参じた怪盗グッドマンですよ。ほら、予告通りに来て差し上げたのですから、もっと喜んでくださいよ」
「ひ、ひぃぃぃ!? 誰か、誰かいないかぁぁぁ!」
我輩の顔がよほど怖いのか、助けを呼びながら扉を押し開けようとしています。
「叫んでも無駄ですよ? 邸全体に沈黙を施してありますので、貴方の声は他の者には届きません。名前くらいはご存知でしょう? サイレントの魔法です」
「く、くそぉぉぉ!」
「ちなみに扉を押しても無駄です。前もってバインドロックを施したので。この魔法は対象物をその場に固定化するものでして、魔力が強いほど効き目は長い。恐らく明日の――いえ、日付が変わってしまってるので、今日の朝までは開かないでしょう」
「あ……あ、あ……」
うう~ん、絶望に打ちひしがれたその表情、とてもグッドですよ~。ですがねぇ、闇ギルドと結託してグッドマンの襲撃を乗り切るという自演を行った愚、それは許されません。
「ではコメルシオ殿、貴方に質問致します。汝の未来は赤く染まりし海原か? それとも青く染まりし鏡か?」
「い、意味が分からん。もっと分かりやすく――」
「簡単に分かったら面白くないでしょう。もっとも、どちらを選んでも結果は変わりませんがねぇ」
「なっ!? それはどういう――」
「赤い海原は血染めの海――ソーラーカッター!」
ジュウ――――ジュジュジュュュウ!
「ギャァァァァァァ!」
「ホッホホホ! 綺麗に両手足が切れました。どうです? 自力で起き上がれない身体になったご気分は」
「だ、だずげでぐれぇぇぇ! お前を利用じだのはワジだげじゃないだろぉぉぉ!」
「ああ、構成員の男ですか。それならご安心を。詰所の地下牢で無事昇天させてあげましたので。残るは貴方への制裁だけです」
「あ"……あ"、あ"」
「では青く染まりし鏡をどうぞ。血が流れ出て顔が青くなっていく様、その高そうな鏡で焼き付けておきなさい。ではごきげんよう、ホッホホホホホホ!」
さて、我輩を語った不届き者は始末しました。そこで次のターゲットですが、やはりあの少女が良さそうですねぇ。次に会えるのを楽しみにしてますよ、ホッホホホホホホ!




