魔剣アゴレントの脅威と怪盗グッドマン
海賊との一件以来、俺は他の乗客から避けられるようになった。そう、なぜか俺だけ。メリーなんか海賊の解体ショーとかやってたのに不公平だよなぁ。
「それだけ久さんのインパクトが凄かったんですよ。終始困惑顔で戦ってましたし、まるで剣に振り回されてるかのようでした」
「バウ!」
まるで――じゃなく、まったくもってその通りなんだがな。
ちなみに襲われた交易船は先行したご護衛船が発見し、サザンブリング王国へと送り返されたらしい。
トン!
おっと、話しながら歩いてたら他の乗客にぶつかっちまった。
「おい、どこ見て歩いて――」
「ああ、すみませんね」
「――い、いや……す、す、すすす、すまねぇ。おおお俺が悪かった!」
オッサンは顔を真っ青にして走り去っていく。もうね、めっちゃ怖がられてんのが分かったと思う。
こんな状態が下船の時まで続いたわけだが、ふと乗客の1人がこんなことを言い出した。
「ア、アンタまさか、例の怪盗グッドマンじゃないだろうな?」
「グッドマン? なんだそりゃ……」
「最近オルロージュ帝国の都市部を騒がせてる怪盗で、不気味な笑い声をあげながら住民を襲ってる輩さ」
「その怪盗なら私も聞いたことがあるわ。真っ白な化粧に赤っ鼻で、ピエロみたいな外見なんですって。そんな格好で人々の前に現れては奇妙な質問を投げ掛けてくるそうよ? 例えばこんな感じに――」
【ホッホホホホ! 汝が欲するは赤き名声か? それとも青き希望か?】
「そ、それってどういう意味なんです?」
「そんなの知らないわ。けれど間違った答えや全然関係ないことを話した場合はその場で惨殺されてしまい、翌日には建物の壁や街灯なんかに吊るされてるって話よ」
メリーに負けず劣らずなサイコパスだな。
「少なくとも俺は違うぞ? オルロージュ帝国には初めて行くし、人を吊るす趣味はない」
「いや、分かっちゃいるんだが、どうにも怖くて……」
――というのが下船直前の1コマで、下りた後も当然のようにメリーが食いついてくる。
「興味深い奴ね。是非とも捕まえて、解剖してみたいところだわ!」
「解剖じゃなくて拷問だろ」
「どっちも似たようなものよ」
「いや違うから……」
ったく、少しでもおかしな奴を見つけたらすぐ手に入れようとする。だいたいそんな奴がいるんなら、真っ先に俺が斬り殺してやらないとな。メリーが仕留める前に――
パシッ!
「いでっ!?」
「ちょっと久、聞いてるの?」
メリーに頬をぶたれて正気に戻った。
「それにその手。戦闘中じゃないんだから剣から手を離しなさいよ」
「うおっ!? す、すまん」
気付けばアゴレントに手をかけてるじゃねぇか。妙に殺気立ってたし、今後は気をつけないと。
「まぁいいわ。善は急げって言うし、さっそく酒場や冒険者ギルドで情報を集めましょ!」
この場合の善とはメリーにとっての善。つまり新しい玩具を見つけたようなもので、普段ならスルーしている酔っ払いにも積極的に絡んでいった。
そこで得た情報を宿に持ち帰ってまとめると……
・見た目が道化師(これは←乗客が言ってたのと同じ)
・不気味な笑い声で問いかけてくる(←これも同じ)
・声はオッサン、もしくは初老の男くらい
・夜中に1人でいるところに出現する
・質問の答えが正しいと、「グッドですよ~」と笑いながら告げるため、グッドマンと呼ばれるようになった。
・被害者から金品を巻き上げてると思われ怪盗と呼ばわりされていたが、実は盗んだりはしていないと最近分かった。
以上が判明している情報だ。
「う~ん、聞けば聞くほどグッドマンの目的が分かんねぇな。いったい何のために活動してやがんだ?」
「確かにそうですね。盗みをしているわけでもなく、単に人を殺めてるだけにしか……」
俺とネージュが腕組みをしてると、何で分かんないのと言いたげなメリーが驚くべき事を述べた。
「理由なんか必要ないじゃない」
「え……必要ない?」
「呼吸するのに理由なんか必要? 生きるためと言えばそれまでだけど、私にとっちゃ人を呪い殺すのに理由なんかいらないもの。グッドマンの奇行が本人を満足させるって言うなら、それだけで充分なのよ」
妙に感心してしまった。サイコパスな行動に理由は必要ないってのは非常に分かりやすい。
コンコンコン!
「すみませんお客様。冒険者ギルドの職員さんが面会を求めてらっしゃいますが」
「冒険者ギルドから?」
「はい。何でも怪盗グッドマンから予告状が出たとかで、力を貸して欲しいと」
「へぇ……」
まさか向こうから出てくるとは。もう一度アゴレントにも血を与えなきゃならねぇし、こりゃいいカモだ――
パシッ!
「あでっ!?」
「久、またボーッとしてるわよ? これからグッドマンと遭遇するんだから、しっかりしなさいよ」
「おう、わりぃ……」
マズイマズイ。どうにも頭ん中がモヤモヤして意識が飛びそうになる。生死に関わるんだし正気を保たなきゃな。
★★★★★
職員によると、現在俺たちが滞在している街で――コメルシオという大商人が居るんだが、この人物がグッドマンからの予告を受けて冒険者ギルドに護衛を依頼したんだそうだ。
そこで昼間に訪れたメリーがレインボーのギルドカードだったのを思い出し宿に凸。メリーも乗り気なため、依頼を受けることにした。
で、日が沈みつつある中、ネージュとウルを宿屋に残して依頼主の豪邸へとやって来たわけだが……
「おいおい、まさかこんなガキが護衛か?」
「金に釣られてやって来た乞食だろ」
「テメェみてぇな雑魚ガギは目障りだ。さっさと帰りやがれ!」
他の冒険者から見れば戦力には見えないからな。当然な流れでメリーの襟首を掴もうとした男だったが……
シュン――――ザシュ!
「ヒッ!?」
「あら残念。思ったより頑丈なアーマーじゃない。正確に狙えば真っ二つにできるけど……どうする?」
「わ、わ、悪かった。アンタの実力は確かだ。文句は言わねぇ……」
俺以外はメリーに触れることができないため、瞬時に草刈り鎌を取り出してズバッって感じだ。これを見た他の冒険者も顔を青くして俺たちから距離を取る。
そんなことがあったとは露知らず、執事の爺さんが俺たちのいる客間へとやって来た。
「おっほん! 本日は依頼を受けていただき誠に感謝致しますぞ。知っての通り、怪盗グッドマンは愚かにもコメルシオ様の命を狙ってきました。今日の深夜に首を求めると予告してきたのです。コメルシオ様には朝まで二階の寝室に隠っていただきますゆえ、皆様方には外と屋内の二手に分かれて待機していただきたい。ではよろしくお願い致しますぞ」
言うだけ言って、爺さん執事は退出していった。残された俺たちは誰が言い出すまでもなく、各自で待機しやすい場所へと移動する。
俺とメリーは外で待つことにしたんだが、その際に近くにいた冒険者のオッサンから声をかけられた。
「なぁ、キミたちはどう思う?」
「どうって……何がです?」
「予告状だよ予告状。怪盗グッドマンが予告状出したという話は聞いたことがない。わざわざ捕まりにやって来るなんておかしいと思わないかい?」
「それは……確かに」
俺たちが得た情報にも予告状の話は無かったはずだ。
「もしかして偽者……」
「ま、可能性だけどね」
「確かに偽者かもしれないけれど、だったら何で依頼を受けたのよ?」
「ハハッ! そりゃお金になるからさ。偽者だろうが本人だろうが、予告して現れた奴を撃退すればいいんだよ。あわよくば捕えるって風にね」
「それもそうね」
そんな感じにのんびりとした雰囲気が流れてたんだが、突然の爆発音によりそれはかき消された。
ドゴォォォォォォン!
「な、なんだ!?」
「邸の中よ!」
「中って、外には俺たちがいたんだぞ!? いつの間に!」
「きっと冒険者の中にグッドマンが紛れてたのよ。急ぐわよ久!」
「ああ!」
急いで戻ると邸の中は濃い煙が充満していて、視界ゼロの状態で冒険者たちがパニックを起こしていた。
「ど、どこだグッドマン!? そこか!」
「おいバカ! 俺だよ俺!」
「いってぇ! 壁にぶつかった!」
「ちきしょう! 出口はどこなんだよ!」
こりゃ下手に動けないなと足踏みしたが、メリーには障害にならないようで――
「グッドマン、奴は今ごろ二階ね。こっちよ!」
メリーに手を引かれて二階へと駆け上がる。幸いにして二階には煙が少なく、何とか周囲が見える。
「奥の部屋から話し声がするわ!」
ドガッ!
メリーの言葉で今まさにコメルシオがグッドマンに問いかけられてるんだと思い、ドアを蹴り開けて中になだれ込んだ。
「っ!」
「チッ」
部屋には小肥りの男と黒装束の男の二人いた。黒装束の男は軽く舌打ちしやがったし、どっちがグッドマンかは聞くまでもない。
「アンタがグッドマンね!」
「――――死ね!」
メリーの問いかけには答えず、ダガーを片手に突っ込んでくる黒装束。しかし――
スカッ!
「なにっ!?」
「はいざんね~ん! 私に物理攻撃は効かないのよ!」
ザスッ!
「ギャァァァ!」
安定の物理不通により男のダガーは空を切り、逆に鎌で斬り倒していた。
それとは逆に小肥りの男はハッとなり、倒れた男を指して捲し立てる。
「そ、そいつだ、そいつがグッドマンだ、早く捕まえるのだ!」
傷が深くて起き上がりそうにないが、年のためにキツめに拘束しておく。一方の小肥りの男に名前を聞くと、やはりコメルシオで間違いないとのこと。
そうこうしてると、執事や使用人やら外にいたオッサン冒険者が集まってきたので、グッドマンの捕縛を伝えた。
「ご苦労様です、皆々様。やはり冒険者ギルドに依頼して大正解でした」
「うむ。諸君らのお陰でグッドマンを捕えることができた。改めて礼を言うぞ」
「いいわよ別に。大して苦労しなかったから。それじゃ私たちは帰るわね」
「お、おいメリー?」
メリーのやつ、あれだけモルモットが欲しいとか言っといて、捕えたグッドマンは置いてくのか?
「おや、お帰りですか?」
不思議に思いながらも部屋を出ようとすると、例のオッサン冒険者に呼び止められる。
するとメリーはチラッとだけオッサンの顔を見て……
「ええ。偽者には用がないもの」
そう告げて階段を下り始めた。
何の事だか分からなかったが、次の日には驚愕の事実を知ることになる。




