海賊
しつこいオッサン騎士のロームステルを振り切り、辛くもサザンブリング王国を脱出した俺たち。ガヤガヤと談笑する船客を他所に海を眺めて黄昏ていると、船内を散策していたネージュが戻ってきた。
「先ほど船乗りの方にお聞きしましたが、オルロージュ帝国まで3日の距離みたいですよ」
「3日か。その間何もできないとなれば退屈で仕方ないなぁ」
「でしたら釣りをするのはどうでしょう? 釣った魚は少額ですが買い取ってくれますし」
ニコニコ顔のネージュが釣り竿を差し出してきた。
「準備がいいな。けど金には困ってないし、今はいいよ」
「そうですか? 経験値にもなりますし、肉体労働よりはレベルアップに繋がりますよ?」
「はは~ん、なるほど。楽して経験値を稼ぐのが目的か」
「……コホン。わたくしはその辺りで釣りをしていますね」
いそいそと釣り竿にエサを取り付けるところを眺めつつ思考する。俺自身もレベルアップは必要かもなと。
「バゥバゥ!」
「ま、待ってくださいウル、これはあなたのエサではありませんよ」
「バゥ~?」
メリーに頼りきりだと、いざって時に何も出来なかったりするもんな。よし、時間も有り余ってることだし、俺も釣りをするか。
「ネージュ、すまんが俺にも――」
「ひっさし~、嬉しい情報よ~♪」
上機嫌のメリーがすっ飛んできた。
「お前今までどこ行ってたんだよ」
「船長のところ。予定よりもかなり早い出航で乗客の多くが抗議してたのよ。面白そうだから様子を見てたんだけど、オルロージュ帝国とサザンブリング王国とで行き交いしてる交易船が海賊に襲われたんだって」
「それのどこが嬉しい情報なんだ?」
「最後まで聞きなさいって。なんでも出航を早めた理由がね、海賊と一戦交えるためらしいのよ」
「はぁ!?」
客船が海賊と戦うだぁ? そんなん聞いたことねぇ!
「そんな話、他の乗客は猛抗議だったろ?」
「まぁね。だけど国からの正式な要請だから断れなかったって船の所有者が言ってるみたい。それに護衛船を二隻も伴ってるのはこの客船だけらしいから、手遅れになる前に救出に向かうんだって。どう? 海賊を捕まえて好き放題できるって考えたら素敵な情報でしょ?」
お前にとってはな。
「つってもよ、もう襲われた後なんだろ? 言っちゃ悪いが、今ごろ駆け付けても救出なんて無理ゲーだろ」
「それなら大丈夫。王国側の竜騎士がアジトを突き止めたらしいから、この船もそこへ向かってるわ」
おいおいどうなってんだ? こちとら乗船に1人金貨1枚だぞ? 言うなれば豪華客船だ。その船が海賊のアジトに突っ込むとか正気の沙汰じゃねぇ。
「それにね、護衛船の船員は血の気の多い退役軍人揃いって話で、それを聞いた乗客たちは納得して声援を送ってるわ。すでに海賊討伐ツアーとか言い始めてるし、気持ちの切り替えって大事よね」
「手のひら返しが凄まじい!」
乗客の殆どが納得してるならどうあっても覆らないし、メリーの活躍に期待しよう。
――ってな訳で、1日半かけて海賊のアジトがあるらしい岩場が密集してる所にやって来た。入り組んでるし陰になる場所も多いから、隠れ家にはもってこいの場所だな。
しっかし……
「ふぁ~あ……。なにも早朝の5時に着かなくてもいいじゃねぇかよ……」
「何言ってんのよ。真夜中よりも夜明けが一番気が緩みやすいのよ? 攻め込むなら絶好のタイミングじゃない。ほら、護衛船が先に行っちゃったし、私たちも続きましょ」
万が一を考えてネージュとウルを船に残し、俺とメリーだけで空から護衛船を追った。空中で女の子にぶら下がる奇妙な野郎だと乗客からは見られただろうがな。
「ってかよ、ここって海賊のテリトリーだろ? どこかに潜んで不意打ちを仕掛けるとか、連中にとっては朝飯前じゃないか?」
「バカね。海賊にそんな知能があると思ってんの? 無いから海賊なんかやってんのよ」
「それはそうなんだが……」
メリーの意見には大きく賛成したいが、悪知恵は働くと思っていい。迷路のような場所のためか護衛船は海賊を見つけられてはいないようだし、こうなると客船の方が心配だ。
「メリー、一度引き返そう。どうにも嫌な予感がする」
「ここまで来て?」
「向こうだって竜騎士の追跡には気付いてるはずだ。ご丁寧にアジトを教えるようなヘマはしないだろ」
「しょうがないわねぇ……」
一応は納得したらしいメリーが急上昇し始める。高すぎる高度のため下を見ないようにしていた俺の代わりに、メリーが客船を見つけ……
「うげっ! アンタの言った通り、海賊船が客船を囲んでるわ。くぅ~ぅ、海賊のくせに私をコケにするとは良い度胸じゃない。全員ギッタギタにしてやるわ!」
まるでジャイ○ンのような台詞を吐いて客船へと急降下を始めるメリー。その下では今まさに海賊共が客船へと乗り込んでいるところだった。
「こらそこーーーっ! 勝手なことしてんじゃなーーーい!」
――――ズバババッ!
「「ギャァァァ!」」
「な、なんだ一体? 何が起こったんだ!」
「おおおお頭ぁ、空から女の子が!」
「ひっ、コ、コイツ……笑ってやがる!」
着地と同時に何人かの首を跳ねてニヤリと微笑むメリーを見た海賊たちは、その異様な雰囲気に圧されて後ずさる。
「フフフ、生きの良いモルモットがこ~んなに沢山♪ じっくり味わってあげなきゃ可哀想よねぇ」
ザスッ――ザスザスザスッ!
「「「ギェェェ!」」」
更に数人の腕を斬り落としたため海賊全員に動揺が走り、乗客は乗客で飛び散る血吹雪に腰を抜かし、船の上は恐慌状態に。
「ひぇ~~~! ば、化け物だぁ~~~!」
「これって本物の血液だよね? 作り物とかじゃないんだよね!?」
「ちょ、ちょっと止めてよ、私は海賊じゃないんだか殺さないでよね!」
「婆さんの若いころにそっくりじゃわい」
乗客全員にはメリーの手にした草刈り鎌が死神の鎌に見えてることだろう。もうこれじゃどっちが海賊なのか分かんねぇぞ。
「ちょっと久、サボってないでアンタも戦いなさいよ」
「俺もか?」
「あったり前でしょ! 腰に差してる剣は飾りなの?」
メリーが指したのは、勇者の孫であるリーザから貰った魔剣アゴレントだ。
「つってもお前、この剣は――」
「くそぅ、なめやがってぇ!」
すぐ横からも新手が乗り込んできた。
呑気に考えてる場合じゃねぇ! そう思い腹を括ってアゴレントを手に取り――
『アハッ♪』
「…………っ!」ゾクッ!
な、何だ今の? 誰かの声が頭の中に響いたぞ!? それにとんでもない寒気まで感じてきたがそれは些細なことで、俺の意思を無視して身体が勝手に動いたんだ!
ドチュ!
「――ゲ……ァ……」
気付けば海賊を一突きにしていた。狙いを定めてすらいないのに正確に心臓を貫き、刺された男は声にならない声をあげて絶命する。
「なぁんだ、やればできるじゃない。心配して損したわ」
俺が自力でやったと思ったのか、メリーは満足そうに頷くと海賊の殲滅に専念し始め、俺の方も次々と海賊を斬り伏せていく。
「ちっきしょう! 負け戦なんざやってられねぇ。死にたくねぇやつは引き上げろ!」
半数以上が血溜まりに沈み、たまらず海賊の頭が撤退を命じる。残りの海賊も我先にと逃げ出したのを見て剣を鞘に収める――
「逃がすかぁぁぁ!」
――なんてことは無く、俺は海賊船へと飛び移った。
いやいや、待て待て待て待て! 何で勝手に追撃かましてんだ!? しかも海賊を後ろから斬りまくってるし、俺はいったいどうしちまったんだ!
「ヒィィィ! わ、悪かった、俺が悪かった! だから命だけは助けてくれぇぇぇ!」
最後の一人となった海賊の頭が命乞いを始める。俺が百戦錬磨の剣士にでも見えたんだろう。
だが俺であって俺じゃない何かが勝手に動かしてるんだ。頭の言うことに耳を傾ける訳もなく、そのまま剣を振り下ろし――
ガキン!
「はいストップ」
「メ、メリー?」
振り下ろした剣はメリーの草刈り鎌によって弾かれ、その瞬間急激に身体が軽くなった気がした。
「せっかくの生け贄なんだから簡単に殺しちゃダメよ。ほら、ちゃんと鞘にしまって」
「あ、ああ……」
不思議なことにメリーがアゴレントを手にしても、何も影響してはいないようだ。
「あ、ありがとう御座いますぅぅぅ!」
「な~に喜んでんのよ。これからアンタを拷問するんだから、せいぜい良い声で泣いてみせなさい」
「ひぃぃぃぃぃぃ!」
海賊は殲滅した。だが不安は拭えない。アゴレントを手にした直後、確かに俺は変わったんだ。あれはきっと、魔剣であるアゴレントの意思が俺を乗っ取ったに違いない。そう結論付け、メリーと共に客船へと引き上げていく。
「お帰りなさい。久さん、今回は大活躍ですね」
「バウ!」
「うん、まぁ……な」
ネージュやウルは何も感じていないか。だが下手すると2人を襲う可能性すらあることに、俺の不安は増すばかりだった。




