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味方

 パルドーソの街を脱出した後、二度の野宿を経てついに王都ブレンヒルドへと到着した。警戒はしていたがこの間の襲撃はなく平和そのもの。若干拍子抜けしたが、運が味方したと解釈していざ王都の中へ――と思ったんだが……


「こっちもダメね。顔とギルドカード、それに全ての荷物がチェックされてるわ」


 透明になったメリーが三ケ所ある城門を見てもらったんだが、どこも厳しい検問が行われていた。幻要(イリュージア)でどこまで誤魔化せるか不透明だし、正面から乗り込むのは避けたいところだ。


「やっぱフィルンの失踪が影響してるっぽいな。こうなると別ルートを探すべきなんだろうが……」

「まさか上空からとか考えてませんか?」

「やっぱ無理?」

「ダメですよ。敵の飛兵や魔物対策で至るところに砲台が設置されてるんです。城下に入ろうものならすぐに撃ち落とされちゃいます」


 浮遊できるメリーにこっそり運んでもらおうと思ったが、かなり危険そうだ。


「というか長時間は無理よ? そもそも王都の周りは堀で囲われてて、中に水まで溜められてるじゃない。どうせ夜には跳ね橋が上げられちゃうんだし、城門を強行突破する方がよっぽど簡単だわ」

「じゃあ地下からのルートを探すしかなさそうだ」

「「「地下?」」」


 全員が首を傾げる。


「バカね。土方みたいに地面掘ってくつもり?」

「ちげぇよ。王都みたいに巨大な都市には大抵裏ルートってもんがあるんだよ。ほら、闇ギルドとかが使ってそうなやつさ」

「ふ~ん。……で、どうやって見つけるつもり?」

「それをこれから考え――」


 バコン!


「いっでぇ! お前いま草刈り鎌で殴っただろ!?」

「刃を立てなかっただけ有り難いと思いなさい。だいたいね、これから考えてる余裕なんてないでしょ? いつまでも街道でタラタラしてたら、それこそ怪しまれるじゃない」

「いや、そうなんだけどさ……」


 じゃあどうするかと頭をフル回転させていると、ちょうど城に向かっていく兵士たちが追い越していき、今まさに願ってもないことを仲間に告げた。


「すまん、ちょいと小便してくから先に戻っててくれ」

「了~解」


 1人の兵士が街道を外れて茂みへと入っていく。この降って沸いたチャンスを生かさない手はない!


「メリー、頼んだ」

「なるほどね。ニッシシシシ♪」


 意図を理解したメリーが兵士の後を追っていく。すると間も無く、「ヒッ!?」という小さな悲鳴が聴こえ、兵士に憑依した状態のメリーが戻ってきた。


「ほら、望み通り兵士に取り憑いてやったわよ」

「サンキュー、メリー。つ~か男の兵士が女の台詞とか違和感有りまくりだが……」

「細かい野郎だなぁ。これでいいか?」

「おぅ、上出来。後は城門まで駆け足で向かって、急ぎの案件だとか言って強引に入れてもらうんだ。緊縛さが伝われば聞き入れてくれるだろ」



 急な思いつきだったが案外上手くいき、難なく王都の中へと入り込むことに成功した。

 だが安心できる状態ではない。何故ならメリーが憑依できるのも半日が限界で、兵士を解放すると騒ぎになる可能性が高いからだ。

 それまでにフィルンの味方となってくれる人を探さなきゃならないんだが……



「上手く入れましたが、これからどうしましょう。父である国王を始め、敵味方の区別ができないと……」

「仲の良い兄弟姉妹はいないのか?」

「私は歳の離れた末子のため、兄や姉たちとは親しくないんです。寧ろ厳しくあたってくることの方が多く、嫌味を言われることが多々あります。ですが7つ上の兄――グレンモーゼ兄様は多数の習い事を強要してくるので、他のお兄様やお姉様とはちがうベクトルで苦手ですね」


 エリート教育の押し付けってやつか? けどグレンモーゼだけは他とは毛色が違い、厳しいながらもキチンとした指導をしてるように思える。まずはそっちから調べてみよう。


「何とかしてグレンモーゼと接触できないかな」

「城に忍び込むのですか? 王族のみが知る隠し通路ならありますが」

「それ、俺たちに教えて大丈夫なのか? バレたら口封じされるとかじゃ……」

「バレなければなんともありません」

「いや、確かにそうなんだが……」

「も~ぅ、ウジウジとうっさいわねぇ。フィルンがいいって言ってんだからいいじゃない」

「そうですよ。メリーさんがいればきっと大丈夫です」


 なんかメリーの影響を受けて楽天的になってないか? フィルンの私生活にまで影響を及ぼさなきゃいいんだけどな。


「分かった。その隠し通路を使おう。案内してくれ」

「はい!」


 こうして難なく城内へと侵入。警備の巡回が来ない家畜小屋に身を潜めると、メリーが憑依している兵士の甲冑を身に付けてグレンモーゼの邸へと向かうことに。


「息苦しいかもしれないが、ここで待っててくれ」

「分かりました。幸いグレンモーゼ兄様の邸はこの納屋の裏手ですので」

「分かった」

「それから……」


 何を思ったか、フィルンが身につけていたペンダントを外して手渡してきた。


「兄様が信用できるようでしたら、これを見せてください。オーダーメイドですので世界に二つとない品です」

「じゃあ一時的に借りとくぜ。メリー」

「もちろん一緒に行くわよ。アンタに死なれちゃおしまいだもの」


 メリーも憑依を解いてついてきた。透明になった状態でな。素っ裸の兵士は納屋に置いてきたが、半日は目を覚まさないから大丈夫だとか。

 なら安心ってことで足早に邸へと向かい、不審に思われないように堂々と正面から乗り込んでみた。


「止まれ。一般兵がグレンモーゼ様のお邸に何の用だ?」

幻要(イリュージア)

「……あ、ああ、すまない。既にアポを取っていたな。通っていいぞ」

「し、失礼します……」


 透かさずメリーの幻要(イリュージア)によって都合よく解釈してくれた。後はグレンモーゼと接触しないと……


「グレンモーゼ様、今日も一段と荒れてるわねぇ」

「ここしばらくあんな感じよ。今朝なんか用意した紅茶が熱すぎたみたいで、口をつけた途端その場にいた給仕が睨まれたんですって」

「うっそ~? かわいそ~ぅ」


 メイドたちが話しながらすれ違っていく。もしかしなくても最悪のタイミングなんじゃ……


「こうなったのもフィルン様がいなくなってからよ。早く見つかってくれないかしら」

「それまでは近付かない方がいいわね」

「今は中庭にいるから早く離れましょ」


 中庭にいるのか。メイドが来たのはこっちの方だったから…………あった、中庭だ。


「フン! ――ハァ! ――――テヤァ!」


 うっわぁ……豪快に剣を振り回してるよ。近くにいる護衛も目を合わさないようにしてやがる。

 だがこれはチャンスかもと思い、護衛に対して小声で話しかけてみた。


「ちょっとすまない。城からの伝令で、グレンモーゼ様とお話ししたいのだが……」

「え、マジで? そりゃ助か――じゃなかった、それなら仕方ない。少しの間外してるから、終わったら呼んでくれ」

「お、おぅ……」


 護衛の男もよほど息が詰まっていたらしく、その場を俺に押し付けるようにして去っていった。

 んで、肝心のグレンモーゼだが……


「セィヤァァァ!」



 ズバァァァン!



 木製の柱をキレ~イに斬り落としちゃったよ。もしかしなくても剣の達人だな。返答しだいで首チョンパもあり得るし、下手なこと言えねぇぞ……。


「ん? お前は……この邸の兵ではないな?」

「は、はいぃ!」


 ヤッベェ、緊張して声が裏返っちまった。おもいっきり怪しいやん! 何とかして誤魔化さないと!


「す、凄い腕ですね。その……さ、殺気が籠ってるように感じましたよ、ええ」

「殺気か。まぁ間違いではないな。末子のフィルンが行方不明になったのだ。もしも誘拐犯が目の前にいたら、この手で叩っ斬ってやるところだ」


 俺を見ないで俺を見ないで! 神に誓って俺は違うから!


「こうなることを恐れ、フィルンの魔法の才を伸ばしてやろうとしたのだが、残念ながらそれは叶わなかったようだ。せめて俺が狙われたのなら返り討ちにするくらい造作もなかったのだが…………クソッ!」


 これは本心か? グレンモーゼは本気で悔やんでるように見えるな。

 だが演技の可能性もあるし、本心を見抜ければいいんだが……


『コイツは本音で語ってるみたいよ』


 メリー!?


『ついさっきグレンモーゼに憑依したのよ。憑依中は依代の発言が嘘か本当か判別できるの。凄いでしょ!』


 そいつは有り難い。これでグレンモーゼは味方だと思っていいな。


「グレンモーゼ様、こちらをご確認ください」

「なんだ? 貢ぎ物なら受け取らん――いや待て、このペンダントは!」

「はい。フィルン様のものです。今は城内の納屋で隠れてもらっています」

「どういうことだ? てっきり誘拐されたものだと……」

「いえ、誘拐されたのは確かなんです。実はですね――」


 これまでの経緯を省略しつつ説明した。特にメリーに関しての情報は秘匿しなきゃならないからな。

 一通り話し終えてから納屋へと向かうと、退屈そうに寝そべっているウルに背中を掛けているフィルンとネージュの姿が。




「フィルン、無事だったか!」

「グレンモーゼ兄様!?」

「案ずるな、俺はお前の味方だ」


 フィルンが不安そうに俺を見てきたので、グレンモーゼは大丈夫だという意味を込めて深く頷いてみせた。


「事情は全てヒサシから聞いた。すまなかったな、お前を護ってやれなくて」

「私は大丈夫です。こうして戻って来れましたので。もちろん久様の助力のお陰です」

「そうか。妹が世話になったな。何か褒美を取らせたいところだ。が、その前にもう1つ頼まれてはくれないか?」

「頼み……ですか?」

「ああ、実は……」



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