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追跡者

「よし、通っていいぞ」

「ありがとう御座いや~す」


 ロッカでの買い出しを終えて出発できたのは昼下がりで、次のパルドーソの街まで1日じゃ着かないから最低でも一回は野宿する必要がある。それでもメリーがいるからまったく問題は無いように思えるな。

 ホント今さらだが、メリーがいなかったら俺の異世界生活は序盤で魔物に殺られてるという悲惨な幕閉じだったかもしれない。


「今日も良い天気ですね~。夜にはお星様が見えるかしら」

「どうせなら盗賊や魔物がいいわ。最近手応えが無くてつまんないんだもの」

「バウ!」


 ま~たフィルンの前で余計なことを。

 それにウル。威勢よく吠えてるけど、お前はメリーにやられた側だろうが。


「フィルンちゃん、メリーちゃん、前から馬車が来ますよ。道を譲りましょう」


 ネージュに言われて端へと寄る。そこへ煌びやかに装飾された馬車が通りすぎて行く。


「いかにも貴族が乗ってそうな馬車だな」

「無駄に装飾してるのは貴族の典型よね。もっと機能性を重視すれば速くなるのに、バカなんじゃないかしら」


 同意するがフィルンの前で言っちゃダメだろうと思いチラリと視線を投げ掛けると、思った通り顔を青ざめさせていた。


「すまんフィルン。メリーは口が悪いからすぐに本音が」

「誰の口が悪いってのよ!?」

「現にお前のせいでフィルンが――」

「久さん、メリーちゃん、急いでここから離れてましょう!」

「「「え?」」」


 思いがけない台詞にフィルン以外の全員が驚く。


「ど、どうしたんだフィルン? やっぱりメリーの言ったことが……」

「そうではありません。あの馬車に乗っていた人物、私の顔を見て驚いてました。今頃ロッカで話しているかもしれません」

「そりゃマズイ! 走れみんな!」

「バウ!」


 フィルンが行方不明だって話が広まってるのかもしれない。気付いた貴族が味方とは限らないし、ここで捕まるのも避けたいところだ。



 ――ったんだが、残念ながらロッカの騎士団が騎馬隊まで編成して駆けつけてくれちゃったんだよ。


「そこの者共止まりたまえ。顔とギルドカードを改めさせてもらおう」


 騎士の一人に呼び止められ、仕方なく顔を見せる。が、思いがけないことに……


「む? どうやら人違いのようだ。すまなかったな」


 困惑気味の騎士たちが更に先へと進んでいく。そういやメリーには幻要(イリュージア)があったんだ。緊張して損したぜ。


「しっかしアレだな。もう少し情報が欲しいとこだよなぁ。何とかしてフィルンを狙ってるやつの情報を掴みたいところだ」

「ありがとう御座います久さん。ですがあまり深入りし過ぎるのも危険かと存じます。お二人には王都まで護衛していただくだけで、それ以上は……」

「つっても既に関わっちまった以上もう手遅れな感じだし、今さら気にすんな」

「そうね。私としても危険な奴らの方がやり甲斐があるし、気にしないでいいわよ」

「わたくしも同意ですよ」

「バウ!」

「皆様……」


 フィルンが感動して瞳を潤ませているが、メリーのやり甲斐は殺り甲斐と書く。敵対した奴らは御愁傷様ってやつだ。



 それから何事もなく二日が過ぎ、あまりにも平和すぎてメリーが欲求不満を募らせてきたところでパルドーソの街に着く。

 いつも通りメリーの幻要(イリュージア)を使い門を通ろうとするが、この時ばかりは勝手が違った。


「おい、なんだか物々しい雰囲気だぞ? 門番以外にも多数の兵士が待ち構えてやがる」

「何か有ったのでしょうか」

「聞いてみなきゃ分からんが、注意は必要かもな。頼むぞメリー」

「言われなくても分かってるっての」


 まるで指名手配犯を探してるかのように一人一人を入念に調べている。そのせいで入場まちの列がズラッと出来上がってる状態だ。

 目の前の様子を見て不安にかられた俺は、ソッとメリーに耳打ちをする。


「通過時に見せるギルドカードだが、メリーの時はそのまんまレインボーで見せてくれ」

「なんでよ?」

「冒険者ランクだよ。俺たちはまだ依頼を達成してないから、最低のままなんだ。それなのにブラックウルフっていう強めの魔物をテイムしてたらさすがに不自然だろ?」

「ふ~ん、まあいいけどね」


 これでよし。


「よし、次の者」


 おっと、俺たちの番か。キョドらないように落ち着いていれば大丈夫なはずだ。


「ギルドカードを拝見しよう――ふむふむ、4人と一匹の冒険者パーティか。それにお前、カードがレインボーじゃないか。その歳でなかなかやるなぁ」

「レインボーだと? それは本当か!」


 門番がチェックしている最中に、一人の騎士が割り込んできた。

 ――ってコイツ、よく見たらフィルンを探してた騎馬隊の一人じゃねぇか!


「お前たち、これはどういうことだ? 先日の昼間、私が確認した時は4人ともホワイトだったはずだ」


 ヤベェ、完全に裏目に出ちまった。


「ですが騎士団長、カードに記されてる顔にも異常は見られません」

「だからこそ余計におかしいのだ。お前たち、詰め所まで来てもらおうか」

「はい……」


 フィルンとネージュにはすまんって感じに無言で頭を下げ、騎士たちに連行されていく。


『ったく、なにやってんのよ。アンタのせいでややこしくなったじゃないの』


 念話でメリーに怒られた。

 ホンットすまん! こればっかりは俺の責任だ。


『でもなってしまったものは仕方ないわ。今のうちに次の手を考えておきなさい。幻要(イリュージア)をかけ続けていられるのは長くても1時間よ。それまでに解放されなければバレてしまうわ』


 そりゃそうか。永久的にかけてられるなら現世の幽霊も苦労しないもんな。

 それからあ~でもないこ~でもないと思考をめぐらせてるうちに、騎士団の詰め所に着いてしまった。こうなりゃぶっつけ本番でどうにかするしかない。


「ロッカの騎士団長――ロームステルだ。単刀直入に聞くが、お前たちは何者だ?」

「冒険者パーティですよ」

「見れば分かる。私が聞きたいのはホワイトのギルドカードが数日でレインボーに変化した理由だ。着いた時間からロッカからパルドーソまで歩いて来たというのは分かる。しかしその間には街も無ければ村も無い。当然冒険者ギルドも存在しない。この意味は分かるな?」

「…………」


 ランクアップは冒険者ギルドでしかできないもんな。もちろん知ってますよ~。だからこそ返答に困ってるわけでして。

 つ~かわざわざ他所の街からご苦労さん。もっと手を抜いてもバチ当たらんのに。


「……どうなのだ?」

「あ、あの~、それよりもどうしてロッカの騎士団さんがパルドーソに? 管轄が違うんじゃないかな~なんて……」

「質問を質問で返すか? まぁいい。わざわざ管轄外に出向いたのは、サザンブリング王国の王女であるフィルン様が目撃されたからだ。何でも数日前から行方が分からなくなってるそうでな? 見つけたら保護するようにと仰せ付けられてるのだよ」


 やっぱり行方不明扱いか。


「そこでお前たちだ。ギルドカードの不審点に気付けたのは幸運だった。何か特殊なマジックアイテムかスキルを使用しているのだろう。それにそちらの少女。名前そこ()()()()()となっているが――」

「ブフッ!」


 ちょっ、幻要(イリュージア)でそんな風に見えてんのかよ! おもっクソ似てるじゃねぇか!


「しかも髪の色が違うだけで、顔はフィルン様ソックリときた。これはどういうことだ?」


 おいおい、もうバレてんじゃんよ。幻要(イリュージア)でも万能じゃないってことか。こりゃもう強行策でいくしかねぇ。


「ウル!」

「ガルルルル!」



 がぶっ!



「ぐわぁ! おのれ曲者めぇ!」


 俺の意図を理解したウルが騎士団長の足に噛みつく。その隙に全員で外に出るとフィルンとネージュの手を引いて走り出した。後からウルもついてくる。


「すまねぇ。結局こうなっちまった!」

「大丈夫です。久さんは悪くありません」

「それよりどうすんのよ? このまま外にでるの?」

「いや、一旦スラムで巻こう。門は深夜にでも強行突破するさ」

「うおおおおお――待てぇぇぇぇぇぇ!」


 くっそ~。あの騎士団長、足を負傷させたはずなのにどこまで追ってくる気だ!? しかも後ろに何人も続いてるし。


「ええぃ、とにかく逃げ回るぞ」


 それから1時間近く。休んでは走り、休んでは走りを繰り返し、スラムにたどり着いた時には騎士団の姿は見えなくなっていた。どうやら完全に巻いたらしい。


「まったく、これじゃ宿を探すのも大変じゃない」

「すでに日も落ちてきましたし、どうしましょう……」

「ホントに面目ない……」


 余計なこと言わなきゃよかったと後悔したところでもう遅い。今日のところはその辺の空き家に泊まって――



 ジャリ……



 ん? 厳つい顔した男たちが物陰から出て来やがった。スラムの住人か――と思っていたが、それよりももっとヤバイ連中だってことに気付かされた。


「そこにいるのはフィルン王女だな。どうやったかは知らんが、俺たちの仲間を殺りやがったのは間違いないな?」


 深夜に襲撃してきた他国の工作員だ。


「仲間を失った上に任務まで失敗とあっちゃ面子が立たんのでな、貴様らには悪いが死んでもらうぞ!」

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