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突然の出会い

「んん……あれ? どこだここ……」


 目を覚ますと、辺り一面が白っぽくボヤけた見知らぬ空間だった。ここがどこなのかと不思議に思っていると、目の前にスッと真っ白な影が現れる。


「気が付いたようじゃの」


 驚いたものの不思議と恐怖は感じない。声からしてお爺さんのようだが、俺が困惑しているのが分かると、軽く咳払いをしたあとに場所の説明をしてくれた。


「見ての通りここは天界じゃよ。つまりは死後の世界じゃな」

「はぁ」

「……なんぞ反応が薄いようじゃが理解しておるか?」

「いいえ、まったく」


 突然現れてここは死後の世界だとか言われたところで納得できるはずがない。反応が薄いのは当然だろう。薄いのは爺さんの頭の方だっつうの。ボヤけてて見えんけど。


「初対面でワシの頭を指摘するなぞ失礼なやつめ。せっかく転生の手助けをしてやろうと思ったが止めようかの」

「転生っ!?」


 それって異世界で生まれ変わって新たな生活をスタートさせる的な!?

 ってことはあれか。魔法使ったり剣振ったりで冒険できたりするんだな!


「うむ。概ね合っとる」

「やっぱり! ――す、すんません、薄らハゲとか思ってマジでごめんなさい! つ~か心の中読めるんスね!?」

「もちろん神じゃからな。一応名乗っておくが、ワシはオルド。天界に住まう神の一柱じゃ。ちなみに薄らハゲは余計じゃぞ? 今は頭髪が冬眠しているにすぎん。そこを間違えるでないぞ?」

「はい、さ~せん!」


 そっかそっか、これで俺も転生者か。

 あれ? そういや俺、なんで死んだんだっけか?


「ショックで覚えとらんのか? まさか自分が誰か分からんとまで言うまいな?」

「いや、そんなことは……」


 俺は16歳の高校生で、名前は足利久(あしかがひさし)。夏休みを利用して肝試しをするため、心霊スポットの1つとして有名な山に入ったんだ。

 友達と一緒に登り始めたところまでは覚えてるんだが、その後が思い出せない。


「なるほどな。ならばこれで思い出すじゃろう――――ほれ」


 ポン!


 オルドが杖らしきもので俺の頭を小突く。するとモヤモヤとした黒い気体が俺の中から沸きだし、やがて人間の子供と同じくらいのサイズになったところで、顔と手足と胴体とが浮かび上がってきた。


「ふ~~~ぅ、やぁっっっと出られたぁ!」


 黒いワンピースの幼女――とまではいかないが、小学生くらいの女の子が爽やかな顔で浮遊していた。

 それを見た瞬間、俺はようやく思い出す。


「コイツだぁぁぁ!」

「へっ? 何々!?」


 そう、俺が死ぬ原因となったのは、目の前にいるクソガキなんだ。

 思い出した俺は反射的にクソガキを掴み、ガクガクと揺すってやった。


「お前のせいで死んだんだろうがぁぁぁ! どうしてくれるんだテメェ!」

「ちょ、離せ変態!」

「誰が変態だ! テメェが俺を殺したんだろうが! だいたい男の9割は変態だ!」

「開き直ってんじゃないわよロリコン! そもそも私は悪霊なの、悪霊なんだから取り憑いて殺そうとするのは当たり前じゃない! それにちょっと恐怖心を刺激しただけで発狂死したのはアンタの方でしょ? アンタこそ耐性が低すぎんのよ、この早漏! 文句言うならまた発狂死させるわよ!?」

「うっ……」


 喧嘩してるうちに恐怖心が甦ってきた。早漏といえば聞こえはいいが(←よくはないじゃろ。byオルド)、コイツに取り憑かれた直後にショック死したのは事実なんだ。死ぬ間際に見せられた狂気に歪んだ顔は一生忘れられそうにない。


「アハッ! どうやら思い出したようね? ま~た恐怖に怯える顔が見れるかと思うと楽しみだわ!」

「だ、だが俺は異世界転生を果たすんだ。お前とはこれでオサラバ――」

「――にはならないみたいよ?」

「……は?」

「アンタが死ぬのが早すぎたせいで、私は離れる隙がなかったのよ。だからアンタに引っ張られてここに来ちゃったってわけ。転生先でも一緒ってことね」

「はぁぁぁ!?」


 そんなバカな! そう思いオルドの方へと向き直るが、ボヤけつつもウンウンと頷いてる様子がハッキリと伝わってくる。


「そ、そんな……まさか悪霊と一緒に転生しなきゃならないなんて……」

「それだけじゃないわよ? 一緒に転生するんだから、転生した瞬間に私との耐久レースが始まっちゃいま~す♪」

「なんだよそれ?」

「あれ~? 分っかんないかな~? 悪霊の私がすることなんて1つしかないじゃない。もう一度発狂死させてやるに――」

「ひぃぃぃぃぃぃ!」


 なんてこった! 転生先でも殺しにくるとか、コイツとことん悪霊じゃねぇか!


「今度はどれくらい持つかしらね~。せめて1日くらいは持ってほしいかな~。できれば1ヶ月くらいかけてジワジワと衰弱させたいところだけど、手加減してもアンタなら一週間も持たなそうよね~」

「くっそぉ、調子に乗りやがってぇ……」

「な~に? 必死に歯を食い縛っちゃって~。そんな態度とってていいの~? アンタが生きるか死ぬかは私にかかってるんだからね~。キャハハハハハ!」

「ぐぐっ……」


 最悪だ。バラ色の異世界生活のはずが、処刑台へのカウントダウンじゃねぇか。

 転生前から絶望しかない!


 ――と感じてたが、オルドの一言により一転することに。



「盛り上がってるところ悪いが娘っ子よ。この少年が死ぬとな――」




「お主も消滅するぞぃ?」




「……は?」




「はぁぁぁあああ!? 消滅ってどういうことよ!?」

「そのままの意味じゃが? お主はこの少年と一心同体になってしまったからの。依り代を失えば消えて無くなるのは当然じゃろ」

「ふ――」



「ふざけんじゃないわよ! せっかく転生できるってのにコイツと一心同体? 冗談じゃないわ! 何とかしなさいよ、この薄らハゲ!」

「お主ら、揃いも揃って口が悪いのぅ。ワシはハゲではないと言うとろうに」

「なんでもいいから何とかして! こんな可愛い女の子が消えちゃってもいいの!?」

「悪霊じゃしな。特にデメリットはないじゃろ」

「だいいち可愛い子は自分で可愛いとか言わないもんな」

「――って、アンタは黙ってなさいよ早漏野郎め!」


 こんな感じでしばらく言い合いが続いたが、オルド曰く俺の肉体と魂の双方に完全に重なってるらしく、引き剥がすのも無理だとか。

 しかし俺が死んではこのクソガキも死んでしまう(正確には完全消滅)ため、結局は俺が生きていくのをサポートしなきゃならない。言うなればパートナーってやつだな。


「はぁ……。もう分かったわよ。アンタだけは殺さないであげるわ」

「いや、キチンとサポートもしろよ? 俺がいることでお前も存在できるんだからな」

「……調子に乗るんじゃないわよ? アンタが私のサポートをするの。死なないように頑張って生きつづけなさい。途中でヘマして死ぬんじゃないわよ? 死んだら呪い殺すからね! いい!?」

「結局死ぬのかよ!」


 だいいち一般人の俺が悠々自適に生きていけるほど異世界生活は甘くないだろ。魔物や賊がいるだろうし……。


「な~に頭抱えてんのよ。どうせチートな能力とか貰えるんでしょ? それ使ってどうにかしなさいよ」


 そっか。異世界転生だもんな。特殊能力の1つくらいは貰いたいところだ。


「なぁオルドの爺さん。俺にも――」



「無いぞ?」


 無情の一言である。


「悪霊と一体化することの方が特殊じゃからな。そんな娘っ子が憑いてるだけでもイレギュラーじゃとは思わんかね?」

「それってつまり……」

「転生特典はその悪霊じゃ。上手く助け合って生活するがいい」

「「えええええっ!?」」


 声をハモらせて驚く俺たち。何が楽しくてこんな悪霊(クソガキ)と生活せにゃならんのか。

 だがこの時の俺はまだ知らない。この悪霊がトンでもなくチートな存在だということを。


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