適性検査
翌日、ジャックは武道場に来ていた。どうやら今日はここで適性検査というものを受けるらしい。
適性検査とは、魔術属性の適性を調べるための検査だ。基本的には学園に入る前に調べているが、学園に入ると必ず一度は受ける。記録しておくためだ。
なぜ適性を調べるのか。それは、適性がある魔術属性は使えて、逆に適正がない魔術属性は使えない、と一般的に言われているからだ。
しかし、それは事実ではない。適正があろうとなかろうと、使おうと思えば誰もがどの属性でも使える。が、適性があるかないかでその属性の上達の速度が違う。適性があればそれだけ早く、なければ遅い。その速度が適性がなければないほど遅すぎるせいで使えないと言われているのだ。
(まあ、適性なんか調べなくてもいいんだけどな)
適性の有無が関係ないことはジャックも知っていた。しかし、これも授業の一環。受けなければならないから一応受ける。
「よーし、じゃあ席順で一列に並べー!」
アエラの呼びかけでジャックたちは一列に並ぶ。席順なので一番最初はジャックだ。
「じゃあジャック!そこの水晶に魔力を流してくれ」
ジャックは前方にあったバスケットボールサイズの水晶の前まで行く。この水晶は魔結晶という希少な鉱石を加工して作ったものであり、世界的に見ても数は少ない。そのため、なかなか自分の適性を知ることはできない。
ジャックは水晶に手を当てて魔力を流す。すると、水晶が白く光り始めた。
「な、白だと……!?」
「これは珍しい……」
それを見て、アエラや記録係の先生、クラスメイトたちもざわざわし始める。対して、ジャックはなんのことかイマイチ分かっていなかった。
それには理由がある。ジャックの前世――グリムの時代では、現在と適性を調べる方法が違ったからだ。
昔は、適性は魔術を使うことで調べることが普通だった。魔結晶は魔道具を作る素材として使われていた。それが何故か今では魔結晶製の水晶を使って測定されている。
(こっちを使った方が何か得なことでもあるのか?まあ、とりあえず結果を待つか)
結果は最後に一斉に配られるらしい。ジャックはクラスメイト全員が終わるまで気長に待つことにした。
「ジャックさん、少しよろしいですか?」
ジャックが武道場の隅で適性検査が終わるのを待っていると、リーナが隣にやってきた。
「いいけど……どうかした?」
「ジャックさんは光属性に適性があるんですね」
リーナの言葉にジャックは腕を組みながら首を傾げる。ジャックは適性検査は別に要らないことが分かっているため、今まで受けないでいたのだ。だから、詳しく知らないのである。
「あら?もしかして……」
「ああ、悪い。俺は適性検査のことはあまりよく知らないんだ。教えてもらえると助かる」
「ふふッ、いいですよ。そうですね……適性の判別方法を教えましょうか。その人がどの属性の適性を持っているかは水晶が発する光の色を見れば分かります。たとえば、火属性の適性なら赤色、水属性の適正なら青色とかですね」
「なるほど、だから白色の光だった俺は光属性の適性があるって分かるのか」
「そうです。そして、光属性と闇属性の適性持ちは少ないんです。だから、ジャックさんはすごい人なんですよ?」
リーナは笑顔でそう言う。リーナの説明を受けてジャックはうんうんと頷いていた。
「理解した、説明ありがとう」
「いえ、お役に立てて良かったです。それでその……」
リーナが少し頬を赤らめながら何か言おうとすると、ルードが叫びながら二人の元へ走ってきた。
「リーナ様ぁぁぁぁ!!!」
ルードはその勢いのまま二人の間に割って入った。
「貴様ァ!なに軽々しくリーナ様と話しているんだ!!」
「ちょっ、ルード!」
「いや、別に俺から話しかけた訳じゃ……」
「うるさいッ!同じことだッ!」
ルードの圧に押されて思わず黙ってしまうジャック。その様子を見ていたリーナはさっきまで赤くなっていた頬を今は膨らませながらルードを怒った。
「ルード!昨日も言いましたよね。人にきつく当たるのはやめなさい、と」
「う、す、すみません……」
リーナに怒られたことでルードは下を向いて反省する。だが、その目はしっかりとジャックを睨みつけていた。
(なぜ俺が睨まれるんだ……)
その視線に気づいていたジャックはそう思いながらそっと目を逸らした。こういうのは付き合わないのが賢明だろう。
「ジャックー!」
どうにもいたたまれない気持ちになっていたジャックの元にステラがやってきた。彼女も適性検査を終えたのだろう。
「あ、王女様。こんにちは」
「こ、こんにちは、ステラさん。えっと、私のことは王女様じゃなくてリーナって呼んでいただけると……」
「分かったよ、リーナちゃん!」
「はあっ、あ、ありがとうございます……!」
リーナはなぜか胸に手を当てて、キラキラした目をしながらお礼を言った。その様子を不思議に思ったジャックは事情を知ってそうなルードに尋ねた。
「なあ、大丈夫か、おたくの王女さん。異様に嬉しそうなんだが」
「……リーナ様は立場上、同年代の友達がいなかった。それで昔はずいぶん寂しい思いをされたからな。自分のことをしっかり名前で呼んでくれることが嬉しいのだろう」
「なるほどね」
ルードの説明にジャックは納得する。王女という立場ではやはり周りは距離を置くのだろう。当たり前といえば当たり前なのかもしれないが、それでは割り切れないこともあるのだ。
「だからといって、別に貴様が仲良くする必要はないぞ。リーナ様ならすぐにクラスメイトとも打ち解けるだろうしな」
「いや、俺もクラスメイトなんだけど……」
「お前以外の、だッ!」
ルードはジャックを指差しながら叫ぶ。なぜかジャックに対してだけ攻撃的なルードにまたまた首を傾げるのだった。