クリスタ魔術学園
マリアの案内でまず二人がやってきたのは円形闘技場だった。円形闘技場は全校生徒が全員入れるくらい広く、学園の様々なイベントで使われている。ちなみに、王都の外れにも学園のものより大きな円形闘技場がある。
「いや〜、大きいねぇ〜」
「まあ、全生徒入れるらしいからな。それなりの大きさはあるだろ」
二人が話していると、マリアから改めて説明が入る。
「この闘技場は魔術闘技祭だったり、王国魔剣士大会に使われるわね。でも、この闘技場は基本は決勝トーナメントでしか使われないから、ここに立ちたいなら予選を勝ち抜く必要があるわ」
マリアの説明を静かに聞く二人。その後は外周をぐるっと一周して、次の場所へと向かった。
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「ここが武道場よ」
次に二人が連れてこられたのは武道場だ。武道場は第一から第五まであり、それぞれは同じ設計となっている。
「ここでは大会の予選が行われるわ。それに、普通に授業でも使ったりするわね。だから、授業が始まったら自然とここに通うことになるわ」
「ここではどんな授業するの?」
「そうね……。たとえば、魔術構築だったり、模擬戦だったり、実技系の授業全般で使われるかな。あと、最近では剣術もあったりするわね」
マリアの返答になるほどと頷くジャック。それに対してステラは何か疑問を持ったようだ。
「でも、建物内で実技をして大丈夫なんですか?もし、変な方向に魔術が飛んだりしたら建物が危ないんじゃ……」
「それは……」
「その点は心配いらないだろう。武道場には魔術用の結界が張ってあるみたいだから、よほど強力な魔術じゃなきゃ被害が出ることはないと思う」
ステラの疑問にマリアが答えようとすると、それを遮ってジャックが答えた。
「よく分かったわね!さっすが、私の自慢の弟!!」
「まあ、魔力反応を見れば一発だし、隠蔽されてるわけでもないからね。よく観察すれば誰にでも分かるよ」
「ふ、普通は無理なんだけどな……」
二人の会話に対してステラがそう呟く。彼女の言う通り、普通は新入生が魔力反応を見ることはできない。もっと言えば、上級生にもできない人は多くいる。それだけ魔力反応の感知というのは難しいのだ。
「ジャックの言う通り、ここには結界が張ってあるから魔術を使っても平気なのよ。それじゃあ次行くわよ!」
マリアは少し早足で次の場所へと向かった。ジャックとステラも顔を見合わせたのち、マリアの後を追うのだった。
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続いて三人がやってきたのは図書館だ。図書館は校舎内ではなく、校舎外に一つの建物として建てられている。
「ここの図書館はとても大きいのよ。蔵書数も王立図書館に次いで二番目に多いの。魔術の本から剣術の指南書、料理の本なんかもあったわね」
魔術の本と聞いてジャックの目が光る。家にあった本は内容が魔術初心者用だったため、ジャックには物足りなかった。それに比べれば、王国随一の学園の図書館ならジャックが求めるような魔術書もあること間違いないだろう。
「ここの本って借りることはできるの!?」
ジャックは少し興奮気味に尋ねる。マリアはクスッと笑いながら答えた。
「できるわよ。入学前に学生証が送られてきたでしょ?あれを受付で見せたらオーケーよ。ちなみに本の返却期限は二週間だから、それまでに返さなきゃいけないからね」
「おぉー!!」
ジャックのテンションの上がり具合にステラは驚く。これほどまでにテンションが上がったジャックは初めて見るようだ。
「それじゃあ中に入るわよ」
三人は図書館に入る。内装はほぼ木で出来ていて、なんとも温かみのあるデザインだ。当然だが、本の数はとても多い。壁には天井付近までぎっしり並べられているし、棚の数も百はゆうに超えるだろう。さすがの蔵書数と言ったところか。
「あら、マリアじゃない。ここに来るなんて珍しいわね」
図書館の受付にいた女子生徒が入ってきたマリアに声をかけた。
「今日は新入生の案内で来たの。こっちが弟のジャックでこっちが幼馴染のステラ=フォーグナーよ」
紹介されたジャックとステラは頭を下げて挨拶をする。マリアは続けて女子生徒の紹介を二人にした。
「彼女はダリア=ガーネット。図書委員をしてるの。ダリアとは三年間同じクラスだから仲が良いのよ」
ダリア=ガーネット
深緑色のショートヘアーでウェリントン型の眼鏡をかけている。まるで図書委員になるべくしてなったような人だ。
「よろしくね、ジャックにステラ。基本、私は図書館のどこかにいるから、図書館のことで分からないことがあったら聞いてね」
「はい」
「分かりました!」
それから三人は一通りぐるっと図書館内を回った。大体の本の場所を記憶したジャックは後で借りに来ることを心に決めた。
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それから、三人が校舎の中を全て回ったところで校舎を出る時間になった。
「まあ、大体の場所は今日で回れたわね。これなら授業で困ることはないと思うわよ」
「うん。ありがとね、姉さん」
「今日はありがとうございます、お姉様」
「気にしなくて良いわ。それから、二人とも何かあったら遠慮せずに相談するのよ?一人で抱え込む方がダメだからね」
マリアは人差し指を立てて、二人にそう言う。それは姉として、幼馴染としての、ただの心配だった。
二人は顔を見合わせてからマリアに頷く。
「それじゃあ寮に行くわよ」
こうして、ジャックとステラの学園初日が終わったのだった。