仲が悪い?
「さて、みんなも知っているだろうけど、この学園のクラス分けは成績順だ。新入生は入学試験の順位で分けられている。そして、ここAクラスはもちろん学年の中で上の成績の者たちが集まるクラスだ」
アエラは腕を組みながらそう説明する。
「さらに、みんなの席順も成績の順番になっている。左側の一番前が入学試験一位だ」
アエラがそういった瞬間、クラス中の目が一斉にジャックの方を向く。対してジャックは特に気に留めていないようだった。
「要するに、みんなは現時点では成績優秀者ということだ。だが、それはあくまで入学試験での話であり、これからの努力次第では変動することも十二分にあり得る。だから、現状の結果に満足せず日々精進することが大切だ。分かったかな?」
『はい!』
アエラのその話に生徒たちは返事をする。ジャックはアエラの話を聞きながら、グリーズの面影を感じていた。
(性別は違うが、やはりグリーズの子孫だな。無駄に真面目なところが全く一緒だ)
グリーズ=シーヴァンドはどこまでも愚直に修業を行う男だった。元々、魔術の才能もあったのだが、それに驕ることなく一つ一つ積み重ねていった結果、最強の一角まで上り詰めた。そんな性質が受け継がれているようだ。
「よし、私の話はこれぐらいにして次に移ろう。次は自己紹介の時間だ。席を立って名前とクラスメイトに一言言ってくれ。それじゃあ……ジャックから始めようか」
一番最初に指名されたジャックはゆっくりと立って自己紹介を始めた。
「ジャック=ルーベルクだ。よろしく頼む」
それだけ言うと、ジャックは席に座った。少し短いような気もするが、これがジャックの普通なのであった。前世では毎回これで済ませていた。
「よし、じゃあ次だ」
「はい。私はリーナ=ストレシアと申します。私は……」
こうして自己紹介は恙なく進行して、三十分ほどでクラスメイト全員分の自己紹介が終わった。
「全員終了したな。これで今日やることは終了だ。あとは学校を見て回るなり、寮に行くなり、自由にしてくれ。ただし校舎内にいていい時間は決まっているから、それだけは守るように。それじゃあ解散だ」
本日の日程が終わり、クラスメイトたちはそれぞれ学校見学に向かったり、寮に向かったりしていく。
ジャックはどうしようか迷っていた。学園を見回っても、寮に行っても、どっちでも良かったからだ。
そんなジャックの元にステラがやってきた。
「ジャック、一緒に学校回ろ?」
ステラは首を傾けながらジャックに尋ねる。迷っていたジャックはすぐに了承の意を示した。
「ああ、いいぞ」
「やった!じゃあ行こ!」
ゆっくりと立ち上がったジャックの手をステラはグイッと引いて教室を出て行こうとする。
「ちょっ、引っ張るなっての!」
「早く行くよー!!」
ジャックの言葉などまるで聞かずにステラはどんどん進んでいく。そして、教室を出た丁度その時、その人は走りながらやってきた。
「ジャックーーー!!」
ピンク色の髪に燃えるような紅い瞳の女子生徒――マリア=ルーベルクは走ってきた勢いのままジャックに抱きつく。
「ね、姉さん!どうして、ここに!?」
実は今日、二、三年生は学校は休みなのだ。上級生がいるとすれば、入学式の進行をしていた生徒会か、部活動のある人間ぐらいなのだ。校舎に、まして一年生の教室になどいるわけがない。普通ならば、だが。
「どうしてって……もちろん、ジャックにこの学園のことを教えるためよ。ほら、まだ入学当日だから知らないことだらけでしょ?でも、安心して!お姉ちゃんがなんでも教えてあげるから……って、ジャック?」
マリアはそう言いながらジャックの顔を見上げる。ジャックは反応に困っているような、微妙な表情をしていた。
マリアはそんなジャックの様子を不思議に思っていると、横からマリアに声がかかった。
「あれ、マリアお姉様じゃないですか?お久しぶりですね」
「げっ……あなたもいたのね……」
ジャックには一つだけ懸念があった。それはステラとマリアの関係についてだ。
この二人は昔から仲があまり良くなかったと、ジャックは思っている。だから、あまり二人を会わせたくなかったのだ。しかし、今二人は対峙している。ジャックは謎の汗が止まらなかった。
「それにしてもお姉様、どうしてここに?今日は上級生はいないはずですけど……」
ステラはマリアと話すときは何故か敬語になる。理由が分からない。ゆえに、ジャックは怖かった。元最強の魔術師といえど、この恐怖には打ち勝てない。
「どうしてって……もちろん、ジャックを案内するためよ。姉として弟の心配をするのは当たり前でしょ?まあ、ついでにステラも案内してあげてもいいわ」
「あら、そうですか。なら、お願いしますね」
「分かったわ!それじゃあ行きましょう!」
そう言うと、マリアは歩き始めた。ステラもジャックの手を引いて、その後に続く。
(あ、あれ……?二人って……仲が良いのか?)
今回はジャックが懸念していたことは起こらなかった。それだけ二人が大人になったということなのだろうか。なにはともあれ、ホッと胸を撫で下ろすジャックなのだった。