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盗賊ホイホイ



〜さらに五年後〜


 月が見え隠れする曇り空。夏が近づいて少し暑くなった夜に男たちの笑い声がこだました。


「ギャハハハハハハ!!上手くいったなぁ!」


「ああ、上手くいきすぎて困るぐらいだ!ハハハハハ!!」


 男たち数十人は倉庫らしき場所で酒を飲んで騒いでいた。ここは山の中。どれだけ騒いでも民家は遠いので誰にも聞こえない。


「あーあ、まさかあの王女を誘拐できちまうとはなぁ」


「これもボスが練った計画のおかげですよ」


「だろ?やっぱ俺様って天才だな!ガハハハハハハ!!」


 ボスと呼ばれた男がチラッと見た先には手足と口を縛られた少女がいた。彼らの話から推測するに彼女が王女だろう。


「むーむー!」


「は!残念だったな、王女様。ここは山の中だ。叫んだって誰も来ないし、騎士団がここを見つけるのも時間がかかる。要するにお前は助からねえってことだ」


 おそらく彼女はどこかへ売り飛ばされるのだろう。王女という身分だけあって彼女の価値を分かる者はいくらでもいる。もしかしたら男たちは一生遊んで暮らせる金が手に入るかもしれない。


「それにしてもボス、よくこんないい場所見つけましたね」


「おう、つい二週間前くらいに偶然見つけてな。今回の計画に使えると思ったんだ」


「さっすがボス!」


「ははは!そうだろそうだろ?」


 男たちの笑い声が響く。それを聞いた王女――リーナ=ストレシアは涙が出そうになった。


(もう、私のバカッ!あの時、お父様たちのそばをなければ……)


 リーナは退屈していた。毎日毎日王女としての勉強やら人付き合いやらに。だから王都で開催されたお祭りではしゃいでしまい、一緒に来た父たちの元を離れ一人で行動してしまったところを誘拐されてしまったのだ。


 ちなみに男たちのボスが練った計画というのは、王都のお祭りでは国王が必ず参加するので、付いてくるであろうリーナを隙を見て誘拐するというなんとも杜撰な計画だった。今回成功したのは偶然なのである。本当、ちゃんと計画を練る人に謝ってほしいくらいだ。


「そういや、ボス。知ってますか?盗賊狩りの話を」


「あ?なんだ?初めて聞いたなぁ」


「最近、盗賊だけを狙ってる賞金稼ぎがいるらしいんすよ。でも一つ不思議なのが、捕まえた盗賊を騎士団に突き出すだけ突き出して賞金は受け取らないらしいんすよね」


「ふんっ、ただ正義感を振りかざしたいだけの奴がやってるんだろう。まあ、もし今来たとしても俺が返り討ちにしてやるよ」


 ボスは自分の脇に置いてある大剣を掲げながら呟く。その時、男たちにとって聞き覚えのない声が倉庫の中に響いた、


「へえ、じゃあやってみろよ」


 その声はまだ成人していない少年の声のようだった。声の主は律儀に倉庫の入り口にいた。


「あぁ?お前が盗賊狩りか?」


「そうだが」


「ぷっ、あはははは!!!何言ってんだ、お前。ガキは大人しく家に帰んな!」


 ボスはシッシッと手を払う。その少年――ジャックはため息を一つついてから言葉を放った。


「はぁ……やっぱり盗賊程度じゃ実力差は分からないか」


「あ?」


 ボスはジャックを睨みつける。手下の男たちも騒ぎ始めた。


「なんだ、てめぇ!!馬鹿にしてんのか!」


「そうだ!ガキは黙ってろ!」


「ボス、このガキに分からせてやりましょうぜ!」


「ああ、そうだな。ガキ、調子に乗りすぎだ。少しお仕置きしてやらねぇとなぁ」


 ジャックは再び大きなため息を吐いた。そしてニコッと笑いながら一言。


「雑魚は大人しく捕まっとけ」


 ボスからブチッと音が出そうなほど血管が浮かび上がる。どうやら本気でキレたようだ。


「死ね、ガキ」


 ボスはジャックに近づき、手に持った大剣をジャック目がけて振り下ろした。それは残念ながらジャックに当たることなく空を斬った。


「おいおい、どこ狙ってんのさ。こっちだよ、こっち」


 ジャックは既に入口から離れた場所におり、これまた鮮やかな挑発を決めた。


「調子に……乗ってんじゃねえぞ、ガキがぁぁぁぁ!!!」


 ボスは大剣を今度は横に薙ぎ払った。ジャックは軽い身のこなしで後ろに跳んで躱した。


「くそがァァァ!!お前ら、やれぇ!!!」


「「「承知ッッ!!」」」


 ボスの声で手下たちは全員ジャックめがけて攻撃を放つ。それは剣による斬撃や魔術による攻撃など様々だ。


 それに対してジャックは腰に携えた剣を抜き、身体強化の魔術を使用しながら全てに対応した。剣が来れば弾き飛ばし、魔術が来たら斬り裂く。


「な!?こいつ、べふぅ!」


「魔術を斬ってる、ぎゃふぅん!」


「だとぉ!?ぐへぇ!!」


 ジャックは攻撃に対応する合間に近くの手下たちを身体強化の乗った拳で殴っている。その一撃はとても重く、食らった手下たちはもれなく動けなくなっている。


「あ、ありえねぇ……。何者だ、あのガキ」


 ボスはジャックの動きを見て呟く。それも仕方がないだろう。ジャックの動きはおよそ子供が出来るものではなかったから。


 その間にもジャックは手下たちを吹き飛ばし、ついに剣で戦っていた者は全員ジャックに殴り飛ばされた。残ったのは魔術を使っていた数人とボスだけだった。


「お前ら、俺の援護を頼んだぞ」


「わ、分かりましたぜ、ボス」


「気を付けてくだせぇ」


 ボスはしっかり大剣を構える。どうやらジャックを本気を出す相手と見なしたようだ。


「全力でいくぞ。俺たちに本気を出させたことを後悔するんだな」


 ボスは魔力を高める。その間、手下たちが魔術でジャックを牽制する。


(はぁ……遅いな。これなら牽制があっても十回は斬れるぞ)


 ジャックは魔術をバシバシと斬りながらそんなことを考える。対人戦において準備に長時間必要な魔術は適していない。そんなことも分かっていない盗賊たちに呆れるが、これも()()なので待つことにした。


 飛んでくる魔術を斬りながら待ってると、ボスがニヤッと笑った。どうやら準備が終わったようだ。


「くらえッ!『暴風斬撃(テンペストスラッシュ)』!!」


 ボスの大剣から大きな風の刃が放たれる。それは床を巻き上げながらジャックの元へ寸分違わず飛んでいく。


 ジャックは左手を開けた状態で前に出す。すると、目前まで来ていた風の刃が一瞬で霧散した。


「な、何ッ!?『暴風斬撃』が!?」


 ボスは自慢の魔術があっさり消え去ったことに驚きを隠せない。


「今度はこっちの番だな」


 ジャックは持っている剣に魔力を込めて一瞬で解き放った。指向性を持ったそれはボスと残りの手下に牙を剥き、後方へと吹き飛ばした。


「がはっっ!!」


 勢いよく壁にぶつかった彼らは見事に全員意識を失った。それを確認したジャックは剣を鞘へとしまい、リーナの元に向かった。


「大丈夫?今外すから待ってて」


 ジャックはリーナの手足と口の拘束を解く。


「あ、ありがとう」


「どういたしまして。それで君は誘拐されたのかな?」


「うん。でも、これからどうしよう……」


「家に戻らないの?」


「ここがどこか分からないの。多分お家からは遠いと思う」


「君はどこに住んでるの?」


「王都だよ」


(王都住まい……侯爵家とか伯爵家の子かな?)


 王都に住み、尚且つ誘拐されるほど裕福な家庭の子といえば上の爵位の貴族くらいだ。


「分かった。俺が王都まで連れてってやるよ」


「え?で、でもどうやって」


「ちょっと目を瞑ってくれるか?」


 リーナは言われた通り目を瞑る。ジャックはリーナの手を取り魔術を発動した。


「よし、もういいぞ」


 リーナが目を開けると、そこはさっきまで二人がいた倉庫ではなく丘のような場所だった。そして眼下には夜なのに煌びやかに光る街――王都アマルナが見える。


「え!?しゅ、瞬間移動したの?」


 リーナはとても驚いたのか、大きく目を見開いている。ジャックは微笑みながら話した。


「まあ、そんなところかな。頑張れば君でも使えるようになるよ」


「ほ、本当!?」


「うん、本当だ」


「やったー!!私、頑張るね!」


 その時、少し遠くから足音が聞こえた。ガチャガチャと鎧が揺れる音も聞こえるので、おそらく武装した騎士団だろう。


(お、来たか)


 実はジャックは騎士団がいる場所の近くに転移したのだ。すぐに彼女を保護してもらえるように。


「どうやら騎士団が近くにいるみたいだ。早く保護してもらいな」


「う、うん。分かった。じゃあ最後にお名前を教えてくれる?」


「俺はジャックだ」


「ジャックね。私はリーナ。それで今からちょっと……」


 騎士団の足音が近くまでやってきた。もう離れないとジャックは騎士団に見つかってしまうかもしれない。


「っと、騎士団が来たから俺はもう行くよ。それじゃあな」


 ジャックはまたしても一瞬で消えてしまった。


「あ、ちょっと……も、もう行っちゃった」


 リーナはさっきまでジャックがいた場所を見る。思えばピンチなところを颯爽と現れ、助けた後はすぐにいなくなる。それはまるで物語のヒーローのようだ。


「カッコ良かったなぁ……」


 リーナは自分で呟きながら頬を紅く染める。首を振って元に戻そうとするも、すぐにジャックの顔を思い出してまた紅くなってしまう。


「また会えるといいな」


 そうボソッと呟き、リーナは騎士団のところに向かった。こうして王女誘拐事件は無事解決したのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ふぅ……やはり転移は疲れるな」


 ジャックは再び倉庫に戻ってきていた。気絶させた盗賊たちを縛って騎士団に受け渡すためだ。


(それにしても、やはりこの場所を作ったのは正解だったな)


 ジャックは強くなるための特訓の一環として対人戦を考えていた。だが、子供ゆえに大人は本気を出さない。


 どうしようかと考えていた時、最近盗賊が多いという噂を聞いた。それで思いついた。


 まず山の中など盗賊がいそうな場所に小屋や倉庫――盗賊をおびき寄せるものなので盗賊ホイホイと名付けた――を作り盗賊をおびき寄せる。


 盗賊がホイホイに住み着いたら手頃な時期に襲撃を仕掛ける。そこで勝利したならあとは騎士団に渡せば完了という作戦だ。


 実際、この方法でジャックは三回ほど盗賊を叩きのめしている。だが、盗賊狩りという名が広まっているのでもうこの方法は使えないだろう。


(また何か考えなきゃな)


 ジャックはそう思いながら、また王都に転移するのだった。



 この時のジャックはまだ知らない。今回の誘拐事件には裏があることを。そして、彼がこれからその裏に巻き込まれてしまうことを。


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