稽古の見学
翌日、ジャックは朝9時に家の庭に出ていた。もちろん、エリックの稽古を見学するためだ。
「よし、まずは素振りからだ。とりあえず百本いくぞ!」
「はい!」
まずは素振りからスタートした。素振りは剣術においてとても重要で、必要不可欠なものの一つだ。素振りを怠る者には剣術は一生身に付かないだろう。
(うん。エリックはなかなか筋が良いな……)
ジャックは前世の家が剣術の家系だったため、剣術に関しては心得がある。というか、元々魔術よりも剣術の方が得意であった。
そうしてエリックは素振り百本を終えた。ジャックはエリックにタオルを渡す。
「はい、タオルだよ」
「ああ、ありがとう」
エリックは爽やかスマイルでタオルを受け取る。
(わー、イケメンだなぁー)
ジャックは素直な感想を心で述べる。実際、エリックはイケメンだ。それも俗に言う塩顔イケメンである。まあ、エリックがイケメンなら兄弟のジャックもイケメンなのだが。
それからエリックはまた稽古へと戻っていった。ジャックもウキウキしながら稽古の見学を続ける。
いくつか剣術の基礎に関する稽古を終えた後、最後に恒例である模擬戦を行うこととなった。
「いつも通り全力で狙いに来い!」
「はい!」
エリックは言われた通り全力で攻める。ダグラスはニヤッと笑いながら、エリックの攻めを受け止めていく。
「くっ……はぁぁぁ!!!」
エリックは声を上げて気合を入れる。心なしか剣を振る速度も上がったかのように思える。
だが、ダグラスはまだまだ余裕そうに相手している。そして「フンッ」と息を吐きながら振るった一撃でエリックは吹っ飛ばされていった。
「うわぁぁ!!」
ダグラスは剣をしまい、エリックの元に向かった。
「エリック。今日はよかったぞ。なんせ剣に気合が乗っていた。やはりジャックが見ていたからか?」
「ま、まあそうだね。ジャックには兄として見せておきたいものが……」
「ふっ、お前もそういう年頃か……。ま、これからも頑張れよ。兄として、な」
ジャックはそんな二人の会話をまったく聞くことなく先ほどの模擬戦について考えていた。
(エリックの踏み込みは悪くなかった。だが、やはり体格差だな。完全に受け止められていた。あそこはフェイントを入れるか、逆に小さいことを利用して回り込むか。俺ならフェイントを入れるが……)
「ジャック!何してるんだ!中に入るぞ!」
「あ、はーい」
集中すると周りがまったく見えなくなってしまうジャックなのだった。
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午後はオリヴィエによる魔術の勉強の見学だ。エリックは火魔術が得意らしく、今日も火魔術を重点的に勉強するようだ。
「ジャックも何か気になることがあったらどんどん聞いてね」
「分かったよ、母さん」
ジャックは少し後ろで椅子に座りながら聞くことになった。
(さて、この時代の魔術がどんなものか……楽しみだな)
ジャックは今日一番のキラキラした目をしながらオリヴィエの話を聞き入った。
「まずは前回の復習からしましょうか」
「分かった」
エリックは簡単な火魔術を発動する。それは手のひらに小さな火を起こすというものだ。
「うん、完璧ね。じゃあ次はもう少し大きくしてみて」
「任せて」
そうしてどんどん魔術の勉強は進んでいき……
「はい、よく出来ました!今日はこのぐらいにしておきましょうか」
「ふぅ……やっぱり魔術も疲れるな」
「ふふっ、お疲れ様。ジャック、今日はどうだった?」
「う、うん、とっても面白かったよ」
「そう?なら、よかったわ!」
ジャックは少し引きつった笑みで答えた。何故引きつっていたのか、それは見学していた勉強の内容にあった。
エリックが今習っていたのは千年前とそう変わらない、もっと言えば千年前より少し遅れてるぐらいの内容だったのだ。
これでは千年後だとどれだけ魔術が発展しているのかワクワクしていたジャックにとって、なんとも微妙な結果なのである。
(はぁ……なんで進歩してないんだよ。まさかあの時代で発展は終わったのか?)
ジャックは色々と考えるが、どれが正しいのかは今となっては分からない。だから、ジャックはこれからどうするかを考えた。そして、一つ良いことを思いついた。
(そうだ、この時代が前の時代よりも遅れているというなら……俺がこの時代を発展させてやろう。そして前の時代なんて比にならないくらいまで発展してやる!)
ジャックは決意した。この時代を発展させると。そしてそのために必要なことを考えた。
(まずは俺が強くならなきゃいけないな。とりあえずあと十年くらいで前世の俺ぐらいにはなるか)
生まれた時から魔力を成長させ続けたジャックはあと十年もすれば、前世の頃の魔力を超えるだろう。改めて魔力を成長させておいてよかったと感じるジャックであった。