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精霊憑き



「精霊って勇者伝説の?」


 ダリアが尋ねる。


「ああ、そうです」


 勇者伝説とは、この時代に伝わる歴史を少し脚色した小説のことだ。魔族の侵攻を四人の勇者がその身を挺して食い止めて世界を救ったというのが大まかな内容である。当然、ジャックも既読済みだ。


 この話の中に水の精霊を従えた魔術師が登場する。ダリアはその精霊のことを言っているのだ。


「その精霊がレミアに憑いたんですよ」


 ジャックの言葉にレミアは首を傾げる。


「でも、あれってお話の中の世界じゃないの?」


「そんなことはない。精霊はいろんな場所にいるぞ?」


 さらっとそう答えるジャックに疑いの眼差しを向けるレミア。


「疑うなら実際に見てみるか?」


「え、見れるの!?」


「ああ、然るべき手順を踏めばな」


 ジャックはそう言うと、その手順について説明を始めた。


「まず前提として、精霊は使役するものじゃない。対等に接することが必要だ。だから、まず呼びかけなきゃいけない」


「呼びかける……」


「難しく考えなくてもいい。ただ、目を閉じて心を込めるだけでいいぞ」


 レミアはそっと目を閉じて心の中で精霊を呼ぶ。純粋な彼女はジャックに言われたことをそのまま行った。




 そして数分後……。


「ね、ねえジャック。全然精霊が現れないけど……本当に合ってるの?」


 少し心配そうにダリアが尋ねる。


「大丈夫ですよ。今、レミアは心の中で精霊と話してるはずです」


「私たちには見えないの?」


「それにはもう少し時間がかかりますね。精霊を具現化させるには、精霊と親しくならないといけませんから」


「そういうものなのね……」


 ダリアはまだ微妙に疑問を持ちながらも納得する。すると、何かを思い出したかのようにポンッと手を叩いた。


「そうだ、まだ聞いてないことがあった」


「なんですか?」


「なんで精霊はレミアの魔術発動の邪魔をしたの?」


 水の精霊が元凶ならそうした理由があるはずだ。精霊の仕業も聞いた時、ダリアはまずそれが思い浮かんだ。


「ああ、そのことでしたか。簡単なことですよ。その精霊はただ……」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 一方、その頃……


「ここは……」


 レミアは自分の心の中、精神世界とでも言うべき場所にいた。普通なら自分の心の中に入るなど出来ないが、今は精霊が絡んでいるので可能になる。


 だが、そんなこと知らないレミアは内心焦っていた。絶対に図書館じゃない場所にいきなりいたからだ。


「どうしよう……」


 そう迷っていると、どこからともなく声が聞こえた。


『こんにちは』


「えっ!」


 聞いたことがない声に驚くレミア。周りを見回すと、宙に浮かぶ女性を見つけた。


『こうして話すのは初めてね。私は水の精霊リステール。よろしくね』


 リステールは笑顔で自己紹介をする。スラッと伸びた青い髪とエメラルドの瞳が水の精霊感を引き立たせているように見える。


「あ、えっと、私は……」


『名乗らなくてもいいわよ〜。あなたのことはよく知ってるから』


 レミアはキョトンとした顔になる。彼女の中では精霊は厳格で人が嫌いな存在になっていたからだ。


「あの、なんであなたは私に憑いたんですか?」


『それはね、ここが心地いいからよ。透き通った水の魔力が満ちてる。あなたみたいな人間に会うのは久しぶりだわ』


「あ、ありがとうございます……?」


 よく分からないけど褒められているような気がしたので、一応礼を言っておく。


『うふふ、私は本音を言っただけよ〜。それで、聞きたいことはそれだけかしら?』


「ま、まだあります!どうして私の魔術の発動の邪魔をするんですか?」


 レミアが一番聞きたかったことを尋ねる。どうして魔術発動の邪魔をするのか。この疑問は精霊が自分に憑いた理由を聞いて、さらに深まった。


『邪魔?私は邪魔なんてした覚えはないけど……』


「え?いや、だって、私が魔術を発動するタイミングで私に魔力を注いでたって……」


『……あ』


 どういうことだか分からず、困惑するレミア。一方、リステールの方は何かを察したようだ。


『えーと……もしかして魔術が暴発しちゃった?』


「は、はい!そうです」


『……ご、ごめんなさい!完全に私の不注意だったわ』


「え、ど、どういうことですか?」


 急に謝られたことで、レミアは困惑する。リステールは下げた頭をそーっと上げながら話し始めた。


『私は一応、お礼のつもりであなたの魔術に魔力を加えてたの。ここに居座らせてもらってるからね。でも、ここ数百年くらいは誰にも憑いてなかったから、暴発のことをすっかり忘れちゃってたのよ』


 完全なうっかりミスにレミアも言葉を失う。


『本当にごめんなさい!』


 リステールの必死な謝罪を見て、レミアはふうっと息を吐く。


「もう、いいですよ。意地悪されてなかったって知れただけでも良かったです」


 レミアはニコッと微笑む。その姿を見て、リステールはわなわなと震え出した。


「えっ……だ、大丈夫で……」


『もうッ、なんて良い子なのかしら!!こんなにすぐに私の失態を許してくれるなんて!それに最後の笑顔!可愛すぎでしょ、もう〜〜〜!!』


 リステールのあまりの変化に、レミアはまた声が出せなくなる。登場時の高貴さっぽいものはどこへやら。


「あのー、えっと……」


『ねえ、レミア!私と契約しましょ!』


「け、契約……?」


『そう!レミアが私と契約してくれたら、レミアは思う存分私の力を使えるわ。それに私もずっとレミアの元にいることができる。悪い話じゃないと思うけど……どう?』


 普通なら今ここで決めるべきではない。まずは精霊のことを知っているジャックに相談をするべきだ。


 だが、リステールの、精霊の力を存分に使える。この言葉でレミアの答えは決まった。


「分かった。私、リステールと契約する。私は強くなりたい。もう、誰にも心配をかけないくらい……」


『ふふっ、そうこなくっちゃ。じゃあ早速契約を始めましょうか』


「契約ってどうすればいいの?」


『レミアはそこに立ってるだけで大丈夫よ。あとは私に任せて』


 リステールはそう言うと、呪文を唱え始めた。それと同時に二人の足元に魔法陣ができる。



 リステールが呪文を唱え終わると、魔法陣は消えた。


『これで契約は完了よ。これからもよろしくね、レミア』


「よ、よろしくお願いします、リステールさん」


『リステールでいいわ。それと敬語も禁止ね』


「わ、分かったよ、リステール」


『そうそう、それでいいのよ』


 レミアが少しぎこちなく話す様子を見て、リステールはとてもニコニコしている。


「じゃあ私、そろそろ戻りますね」


 なんとなく居心地が悪くなったレミアはここから退散しようとする。だが、それには問題が……。


「あ、えっと、どうやって戻るんでしょうか……」


『ここに来る時と同じよ。目を閉じて「戻れ〜」って念じれば戻れるわ』


 レミアは言われた通り、目を閉じて念じる。すると、意識がだんだん遠のいてくる。


『そうそう、言い忘れてたけど、私の力を使いたい時は心の中で呼びかけて。すぐに飛んで行くわ』


 その声を最後にレミアは意識を失った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 レミアはゆっくりと目を覚ます。そこは先ほどまでの精神世界ではなく、図書館だった。


「お、起きたか」


「レミア!どうだった?」


「う、うん。精霊と話してきたよ」


 その言葉を聞いて、ダリアは驚く。やはり半信半疑だったようだ。


「それでどうなったの!?」


 ダリアは少し前屈みになりながら聞く。


「あー、うん。魔術の暴発のことはもう大丈夫。それと契約もしてきたから」


「な、契約したのかッ!?」


 レミアの契約したという言葉に声を上げるジャック。それもそのはず、通常は精霊と契約するのに時間を必要とする。今日存在を認知して、すぐに契約なんてあり得ないのだ。


「ど、どうかした……?」


「……いや、大丈夫だ。なんでもない」


「そっか、ならいいんだけど」


 ジャックはそう言いつつも、不審に思っていた。


(どういうことだ……?精霊が自ら憑いたとはいえ、こんなすぐに契約するなんて……。あり得るのか?先例がないだけという可能性もあるが……考えすぎだろうか。なんか最近考えてばかりだな。よし、一旦やめよう)


 色々と考えるジャックだが、最近の考えグセを危惧してストップする。



(それに、あの様子を見てたら、とやかく言うのもな……)


 そう思うジャックの視線の先には少し涙ぐみながら笑いあう二人の姿があった。


 


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