No.7 屍の盾
「逃げるな!八咫烏さん、縮小して!」
剣を投擲するもののその先に的はいない。消えたのだ。
「チッ」と舌打ちした後、頭脳の回転を加速させる。
厄介だ、かれこれ20分以上戦闘しているのにショットガンしか攻撃が届いていない。
それによって相手の警戒心が高まり更に攻撃が通らなくなっている。
遠距離攻撃が理想だ、ファラリスの雄牛はジャッチの手元で展開される。女性狙いなら前線に行くのは危険過ぎる。
慎重に行動しなければ...
前線を下げ、草むらで警戒しているとシュン君が銃を持ちながら近づいてくる。
「カンナさん、今の時点で有効打は俺のショットガンだけだ。俺以外撤退した方がいい、相性が悪すぎる。殺傷能力じゃ彼方の方が精度が上だ」
その言葉にある手を思い付いた。
武器単体での威力は彼方の方が上。
なら組み合わせて使ったら?
相性はあるだろうが試してみる価値はある。
ヴィクトリアさんがいるなら尚更だ。
剣をヴィクトリアさん目掛けて投擲する。
「カンナさん!何をしてるんだ!仲違いしてる場合じゃ!」
「ヴィクトリアさん!そのバットで打って下さい!」
「了解した。剣を打つのは初めてだ。あまりにもアナログな手立てだがいいだろう!!」
「カキンッ」と金属音と同時にバゴンッと何かの破壊音がする。武器で防御されたが隙は作れそうだ。
「ヴィクトリアちゃん、激しいね。俺は好きだよそう言うの。次は僕の心臓を撃ち抜いてくれると嬉しいかな。君は特別だからね」
「言われなくとも分かっている。その忌々しい体にドデカい風穴を貫いてやる。覚悟しろ」
その言葉に背中を押され、森林から抜け出し屍の山へ向かう。
「ブル、可愛い女の子が来てくれたよ。閉じ込めてあげようね」
「そんな事絶対にさせない!...ごめんなさい!許して!」
使える物は全て使う。そうしなければこれ以上の物を失うかも知れない。
山の中から小柄な女の子を引き摺り出し、雄牛の中に放り込む。屍の盾。その名がしっくりくる。最低な戦法だ。
「...っ。八咫烏さん戻ってきて!ジャッチ、お前にこれ以上殺させない。貴方が焼かれる番だ!地獄の業火に突き落としてやる!」
「...ははっ。良いね、君。良いよ、俺と同じ匂いがする。その肉刺だらけの手で何人殺したのかな?でも、ごめんね。ポートマン君、転移して」
「了解」
「逃がすか!」
ジャッチの腹部目掛け、剣を捩じ込む。
するとどうだ?目の前には大空が広がっている。
足に力が入らない。入らないんじゃない、入れられないのだ。
「カンナちゃん!!」
タマミちゃんの声がする、そんなに遠くない。
「あーあ、バレちゃった。一緒に落ちようか?抱きしめてあげるよ。ほぉら、怖くないよ。私がいるからね」
「じゃあ、私を庇って死んでくれますか?私の先輩は庇って死んでくれましたよ?」
「えっ、誰?そんな馬鹿な死に方する人?女の子?勿体ないな、俺が殺してあげた方が良かったんじゃない?誰が殺したの?それ?人殺しの才能ないよね?」
その言葉に怒りを通り越して侮蔑の感情しかなかった。
あまりにも冷静で冷酷な言葉が私の口から発せられる。
「私ですよ。殺したの。私は人を上手く殺せないんです。美しく、綺麗に殺してあげられない。芸術作品のように命を作品として表現出来ない。苦しめながら殺すしか出来ないんです。だから、苦しみながら死んで下さい。
首の骨を折って、臓物をぶち撒けて、呼吸困難になって鮮やかに派手に死んで下さい。素敵だとは思いませんか?」
「うっわ、趣味悪。流石に引くわ。ポートマン君、彼女を相応しい所に連れて行ってあげてよ」
その言葉の後、彼が現れ、首を羽交い締めにされる。
「離して下さい、このまま一緒に落下しますよ!」
「有り得ないんですよそんな事。魔女は魔女らしく火刑に処されて下さい。仲間の所に連れて行ってあげますよ」
そのあと、目の前が真っ暗になる。
何処だ?何処に移動した?
「それでは、さようなら。くたばって下さい。貴方にお似合いですよ」
「待って!!」
彼を追い、何かを掴んだ。
人間の手だ、しかし温度が感じられない。
「...何?どうなってるの?...怖い。い、嫌だ!!八咫烏さん、戻って来て!!」
『バカンナ、不味いぞ!!ここから離れろ!!死体の山に火をつけられるぞ!!』
そのあと、目の前の視界が開かれる。
「カンナちゃん、良かった!大丈夫!?」
「...タマミちゃん。...ありがとう、凄く怖かった」
目の前には犠牲になった女の子達が散らばっている。
自分が死体の山の中にいた事に気づき、先程の異常な温度や異臭の正体に怖気付いた。
優しい風に包まれ、彼女の元へと引き寄せられる。
タマミちゃんに庇われながら後ろを向き直ると、ブレイズさんが睨みながら死体の山を燃やしている。
なんでそんな簡単に亡骸を葬れるのだろうか?
私の所為なのだろうか?
命を粗末にするから?
その時、何かが壊れてしまったような気がした。
「カンナちゃん。後は私達が追い討ちをかけるから下がってて」
「ダメ、私がやる。私に殺させて?良いでしょ?殺したいの。自分にはこれしかないから」
「...ラントユンカー君。カンナちゃんをお願いねー。車から出て来ないようにロックしておいてね」
「行くぞ、カンナ。もういいだろ。限界だ、下がれ」
「嫌だ!!やめて!!お願い!!」
No.7を読んでいただきありがとうございました。
次はカンナちゃんが余り出て来ないので三人称視点でお送りします。
次はNo.8「追い討ち」をお送りします。