No.5 遙か彼方
「何?お客はん?勘弁しなはれ。これ以上人増えたら、やかましおしてしゃあない」
「センリ、こちらの宿舎にシャトランスからの生徒が入る。準備しておけ」
「分かってる。今見とった所や。パイロマンはん、今日はええ一日になりそうやな」
「パイロマン言うな。だが、来客には手厚いおもてなしをしなければな」
カレッジ・宿舎方面
ルビアさんに連れられ、生徒達が過ごす宿舎へと足を運ぶ。
「このカレッジには8の男子寮と10の女子寮があるの、空き部屋が多いし、自由に使って」
「ありがとうルビアさん、ねぇ、男子生徒に会いたいんだけどどうやったら会えるかな?」
「...引きこもりがいるの。案内するわ。あいつなら逃げないでしょ」
男子寮の一室、暗闇の中何かが蠢いている。
よく見れば布団を被った男の子のようで、ゲームをしているようだ。
「センリ、貴方と同じニホン人の女の子を連れてきたわ。貴方と話をしたいんですって」
「そうなん?よう分からへんけどええで、サギザワ・センリ言います。よろしなぁ」
そう言いながらも彼はこちらへと目を向けてくれない。
私よりも年下の15歳位に見えるが、着物を着ており不思議な雰囲気のある男の子だった。
「あの、センリ君ってセイレムの森は知ってる?魔法医薬学科の子達が被害を受けたって聞いて私達にも出来る事を探しているんだけど、情報が足りなくて。「千里眼」を持つ貴方なら何か知らないかな?」
そういうと、彼は布団から抜け出し静かに此方を見つめ笑みを溢した。
「うん、知ってんで。災難やったね、そやけど検死とか遺体が事件の真相を教えてくれるとか良く言うやん?俺なんかより現地で死んだ彼女達の方が手がかりを持っとると思うで?違う?俺に聞いてもしゃあないやん?」
「ねぇルビアちゃん、殴っていいかな?凄いムカつくんだけど」
「これでも話を聞いてくれるだけでマシなのよ。相変わらず傍観者決め込んでるわね。センリ」
「見たくて見てる訳やないんやで、勘弁してくれる?せやね、でもあんな化物どないする?拷問器具の使い手、殺人鬼どころか死刑執行人まである人やで?手強い相手やと思うよ?魔法でも皆殺しにされたんやで?あんたに、何が出来る?言うてみ?笑ってあげるやさかい」
穏やかな笑みを浮かべながら中身は腹黒いようだ。
まるで私達を試しているような素振り、引っかかる事がある。
「センリ君、君って本当に傍観者なんだね。君って人殺した事ないでしょ?私には分かるよ。だって、人が死んでる所を面白がって見てるんだもん。...本当に人殺した人間はそんな事しないよ。私の母親を殺した人だって少なからず罪悪感があったもん」
「何言うとんの?頭可笑しゅうなった?だったらあの殺人鬼に罪悪感があると思う?ないやろ、絶対。放し飼いにしけおけばええねん、そしたら甲高い声をあげる害鳥も駆除出来るやろ?一石二鳥とはこう言う事を言うんやで?」
「警告どうも、私のカラスが撃ち落とされないように気をつけるね。ルビアちゃん、もう行こう」
ルビアちゃんの精神状態的にもうこの場にいるのは危険だろう。扉を閉めた途端、彼女が怒りを表にした。
「何なの!?アイツ、私達を害鳥呼ばわりするなんて絶対に許さない!!焼き殺されればいいのに!!」
「拷問器具ってどう言う事?相手の武器が分からないのは厄介過ぎる」
そう考えていると冷静を取り戻したルビアさんが助言をくれた。
「カンナ、貴方「ファラリスの雄牛」って知ってる?ギロチンとか鉄の処女とか拷問器具の一種なんだけど」
「...人を簡単に殺せる道具って事?」
「違うわ、文字通り嬲り殺すのよ。鉄製の雄牛の中身でじっくりと体の水分がなくなるまで蒸し殺されて悲鳴が人の声ではなくなる。魔女に相応しい末路だとあの男は言っていたわ。吐き気がする」
「でもそれって火元がないと動かせないよね?まぁ、守護霊が自動でやってるのかもしれないけどさ」
「...ねぇ」
「どうしたのルビアさん?」
彼女を見た瞬間、顔面が蒼白になり冷や汗が流れているのが分かった。
何かに怯えながら、私の袖を掴んでくる。
「火、火よ。燃え上がってたの。森全体が燃え上がる火があったの!!可笑しいわ、だってあれは特別な力で動いているんでしょう?火元がなくても動くんでしょう!?」
「ちょっとルビアさん、落ち着いて!!」
「いるのよ、火を操る男が。センリはそいつと仲がいいの。アードゥル・ブレイズ。アイツらまさか!!」
再び室内に入るがそこにセンリ君の姿はなかった。
密室の状態で何処から逃げたしたというのだろうか?
「アイツ、ここに来る事が分かって自分を囮に使ったんだわ!!ルークを追わないと!!アイツがセンリを移動させたのよ「瞬間移動」で!絶対に捕まえてやるわ!行くわよ、カンナ!」
「えっ、ちょっと待ってよルビアさん!!」
No.5を読んでいただきありがとうございました。
次はNo.6「イタチごっこ」をお送りします。