No.2 調査
生徒総会も終わり、ひと段落ついた11月の事。
私達10期生はイギリスの首都ロンドンに向かう飛行機の中にいた。
真剣な表情で日程表を見つめる私に近くにいたタマミちゃんとシュン君が心配そうにこちらを見ている。
どうやら二人でコソコソ話をしているようだ。
「カンナちゃん、凄い楽しみにしてるのかなー。なんだか話かけづらいよねー?旅行を全力で楽しむタイプなのかなー?」
「カンナさんがあんな表情をしているのを初めて見た気がする。いつも笑ってるか悪い表情をしているからな。新鮮だ」
「…二人共、話聴こえてるんだけど?」
タマミ&シュン「あっ」
そのあと、機体が一瞬揺れたが無視した。
私が怒り飛行機が揺れたのは2人のせいだ。
自分のせいじゃない。
「はぁ…。二人を責めるつもりはないけど現地には凶悪は殺人犯がいるんだよ?それを私達は捕まえて被害を食い止めないといけないの。わかる?ちゃんと自覚してる?」
「わかってるよー。でも、初日は自由行動だしカンナちゃんだって本当は疲れてるんでしょ?ゆっくりしてもいいと思うなー」
「タマミさんの言う通りだ。心身の疲れを今後に残していたら仇も取れない。あの人から逃れられたと考えたらコッチの方が安心出来る」
その言葉で私は勿論、2人も目を伏せる。
敵はもう決まっている。後は協力者を募るだけなのだ。
今、ママがいない中で出来る事がある。
あの人は同行してくれている。話を聞き出さなければ…
「ごめんね。私、緊張状態が中々解けてないのかもしれないね。今はイギリスに旅行出来る事を楽しみにしてるよ」
その言葉に2人は笑ってくれたので安心した。
そのあと、シートベルトの装着指示が入りロンドンへと到着した。
初日に泊まる予定のホテルでチェックインを終え、ロビーで彼を探す。
「ペルケレ先生、少しお話したい事があるんですけどよろしいですか?」
ソファに座り、新聞を読む彼は手を止めこちらに目を向けてくれるが何故か恐怖を覚え、唾を「ゴクン」と飲み干す。
もし、私の考えが合っているのなら穏やかな笑みの中に狂気を持っている可能性があるからだ。
ペルケレ先生はジャッチと同族なのか?
それを確かめなければいけない。
その上で私は…
「構いませんよ。大事な話なら尚更。それで?そのあと私をどうするつもりですか?私を捕まえますか?恨みますか?」
「それは又今度にします。今したいのは悪魔との契約です。私達の仲間になっていただけませんか?」
その言葉の後、訝しげにこちらを見つめてくるがため息をつきながら新聞を畳んだ後、近づいて来た。
「自分の母親を殺した奴に協力を要請するなんて魔女は見る目が違いますね。あの女をこの世から消滅出来るなら何だってしますよ。契約は成立ですね。こき使って下さい」
「…ありがとうございます。ペルケレ先生」
本来ならママを殺したペルケレ先生を逮捕するなり、殺すのが正しい反応なのだろう。
しかし、それを私しないし出来ない。
当時の事を知るペルケレ先生が居なくなってしまったら母の尻尾を掴む事も不可能になるからだ。
話が話なだけに、ホテルの外に出て当時の話を問いただした。
「…どうして母を殺したんですか?」
「そんな風に静かに聴かれるとは思いませんでした。理由は一つ、邪魔だったからです。出世にも研究にも。元々、女嫌いなのは知ってますよね?あのカレッジに通うようになって女性の汚い部分を知るようになりました。男女間の対立が激しいのがあのカレッジの特徴ですから」
西の方角を見ながら言っているのをみるにそちらの方角にカレッジがあるのだろう。
「ペルケレ先生は父より良く見ていたんですね。母の事を」
「そう言われると複雑な気分になりますがそうでしょうね。あの人は自分がする事が正義で他の事は罪と捉える人ですから。一見正しい事を言っているようで、その中には冷酷さがある。悪を許す慈悲がない」
「母は今でも自分が犠牲者だと思っています。自分が正義だからどんな悪の犠牲があっても構わない」
「なんでもそうですが、この世に正しい正義と悪は存在しません。ただ、多い方が正義。少ない方が悪と言われているだけです。だから私達は正義なんですよ?カンナさん」
「仲間が多いから」
「御名答です」
そんな話をしながら歩いていると、見知った顔を見つける。
一人はルイスさん。一人は知らない人。一人はタオユン先生に写真を見せてもらった人だ。
当たり前のように危機感もなく、テータイムを楽しんでいる。
「幸運ですね。初日でメアリ氏を見つけるとは思いませんでした」
「本当ですね…。ペルケレ先生、帰ってもいいですか?」
「ダメです。スケジュールは予定通り行いますよ」
「そんな…」
落胆し頭を垂れていると、先刻降っていたロンドン特有の霧雨を弾きながら足音が聞こえてくる。
「ペルケレ先生、ご無沙汰しています。カンナも久しぶりだな。ロンドンは良いところだろ?...というか、なんでここにいるんだ?幻覚してる訳じゃないよな」
「その言葉をそのままお返しします。はぁ、メアリ先生を探す為にロンドン(ここ)に来たのにこんなあっさり見つかるなんて...」
その言葉に合わせ、ルイスさんが彼女の方をみやる。
「は?あぁ、なるほどなメアリ先生は有名だから居なくなると騒ぎになんのか。しかもシャトランスまで届いてるとはな。凄い下らない理由だぜ?家庭の事情で家出してるだけだから心配すんな。な、ジェームズ先生」
「そう言うなルイス君、彼女にとっては重要な事なんだろう。しかし、君の話通りだったとはな。守護霊を扱う者がいるとは思わなかった。実に興味深い。ハノーヴァー・エリザベス氏やホプキンス・ジャック氏も君達の仲間だろう?」
「ペルケレ先生、エリザベスさんやジャックさんって…」
「えぇ、ヴィクトリアさんとジャッチの本名です。お詳しいんですね。ジェームズさんは」
「本当に趣味だけどな。ジェームズ先生は俺達家族のかかりつけ医みたいなもんでな、幼い頃からお世話になってんだ。霊感はねぇけど興味はあるらしい。そんで?カンナ達はこれからどうすんだ?ロンドン観光か?」
「えぇ、えっと…」
「はい、異文化を学ぶ事は大事ですから。…それと出来ればジャッチを拘束したいですね。明日、ロンドン塔に行きましょう。ヴィクトリアさんとも合流したいですしね」
「BIG7を食い止めるには同じ存在の協力が必要という事ですね。行きましょうヴィクトリアさんの所へ」
そして明日の昼、私達10期生はロンドン塔に向かった。
No.2を読んでいただきありがとうございました。
次はNo.3「ロンドン塔の女」をお送りします。