青銅騎士団の証(3)
お忘れかもしれませんが、このシリーズは当店のアイテムの紹介文でございます。
もういっそ台紙にQRコードを入れたほうがいいかもしれません。
ファンタジー感台無しですがw
翌朝は早めに腹ごしらえをすることにした。
ちょっと奮発して、朝から挽肉団子と香草のスープ、豚の串焼をパンにはさんだものでお腹を満たす。
それから昨日の反省を踏まえて、乾果と木の実の沢山入った保存がきく麺麭をひとつつみ。
さて、本当なら昨日終わらせるはずだった買い出しのために、占い小道に向かう。
占い小道は、魔法使いや辻占い師など、この街では少々肩身の狭い職種のものたちが集まってできた通りなのだが、そこにある店と品の質は、まぁ、なんというか玉石混合にもほどがあると言ってよいだろう。
まっとうな店もあることにはあるが、ヴェルサイドの人々が魔法に疎いことを逆手に、あやしげな商売をするものも少なくない。
森では手に入りにくい特殊な触媒を探して通りに入ったところで、昨日の旦那様をみかけた。
旦那様は、いかにも怪しげな露店で怪しげな薬瓶を手に思案されている。
手にしているのは素性の悪い薬。
遠目に薬から漏れている魔力を読み解くと、効果は肉体強化のようだが、同時に精神にも強く作用する性質のものだ。
問題は、込められている力が不可逆だということ。
おそらく、これを使えば狂戦士となり、己自身を失うかわりに肉体が強化される。
効果は間違いないが、使ったものは二度と元には戻れなくなる性質のものだ。
これは、回避できない危機に遭遇した冒険者が、全滅よりはましと、誰かを犠牲に血路をひらく時につかう薬であって、少なくとも、まともな騎士が使うものではない。
魔法の世界では、自分自身がその力を見極められないものに手を出してはならないのが鉄則だ。
己の理解を超えたものを扱うときは、結果として発生するすべての出来事を受け入れる覚悟がいる。
それがどんなに高い代償でもだ。
普段なら世の理を知らぬものの愚行と、そのまま放っておくのだが、この時、うっかり旦那様を心配していた奥様の顔が頭をよぎってしまった。
余計なおせっかいとは思いながら、声をかける。
「旦那さまでしたら、薬にたよらずとも十分お強いのでは?」
背後からの声に驚き、旦那様がこちらを振りかえる。
「そのようなもので、いくらお強くなられても、愛する奥さまや騎士団のことがわからなくなってしまっては、意味がないのではありませんか?」
先ほどとは異なる驚きで、旦那様は露店の店主……擦りきれた魔導師のローブに、フードを深くかぶった男につめ寄った。
「それは本当なのか!?」
「これは体中をお強くする魔法のかかった薬、と申し上げたとおりでございます。
ええ、体中に効きますので、もちろん頭の中身も『お強く』することでございましょう」
悪びれた風もなく、魔導師風の男が飄々と答えた。
「それは一体どういう意味なのだ?!」
さらに騒ぎ立てる旦那様。
あぁ、もう。
これだから魔法を知らないものは嫌なのだ。
「あ? おぃ、まだ話が」
私は魔導師風の男に銅貨を1枚なげ渡すと、旦那様の手を引いて強引にその場を離れた。
銅貨を置いていくのは彼の商いの邪魔をした詫びと、相手によってはこっちが呪われるのを防ぐおまじないのようなものだ。
まだ何か言いたげな旦那様だったが、私が本気で怒っている様子をみると、黙って手をひかれるままに後についてきた。
段平通りへ出たところで、旦那様の手を放す。
「理性を無くした狂戦士になりたくなければ、あのようなものに手を出さないことです」
「おまえは昨日の……」
「はい、旦那さまのお屋敷にお邪魔していた魔法使いでございます」
膝を軽く曲げ、貴族への礼をとる。
「奥さまから、旦那さまは奉納試合を控えた大切な時期だとうかがっております。
あのようなものに軽率に手を出して、騎士の名誉を傷つけぬよう、くれぐれもお気をつけくださいませ。
奥さまを悲しませるようなまねは、どうかお控えください」
とりあえず言いたいことは伝えた。
急いでこの場から立ち去ろうとしたところで、今度は旦那様の方が私を呼びとめた。
「ま、待ってくれ!」
「……なんでございましょう?」
面倒事の気配がする。
これ以上関わると、どう考えても良くないことに巻き込まれる予感しかない。
逃げよう。
「旦那さまのお邪魔をいたしたことでしたら、どうかご容赦くださいませ。
それでは、先を急ぎますので」
「少し待ってくれ、と言っている!」
今度は旦那様にがっつり腕をつかまれた。
逃げ切れなかったようだ。
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