村一番の狩人の証(5(最終))
このお話は一旦ここで完結です。
少し長くなりましたが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
仕立てた首飾りを渡すために、エレ=ミアを探して広場に戻る。
広場は宴の準備が整い、あとは日が落ちるのを待つばかりとなっていた。
この宴では、活祭の捧げものとなった獲物をご馳走として食べるのが習わしだ。
すっかり枝肉に切り分けられた狼が火にかけられ、じぶじぶと美味しそうな音を立てている。
広場の中央で、すでに麦酒をあおっている6人を見つけた。
今年の復活祭の功労者たちである。
エレ=ミアは村一番の狩人として他の5人にかこまれ、次々に注がれる麦酒を豪快に飲み干していた。
「おまたせしたかしら?」
「をぉ!魔法使いか!」
酒器を手にしたまま、エレ=ミアが私を手まねく。
私は、仕立てあがったばかりの首飾りを、エレ=ミアの首にそっとかけた。
「どう?気に入ってもらえると良いのだけれど」
蜂蜜色に輝く魔石が、彼女の首を飾る。
「ほう、今年は黄色か」
「よく似合っているぞ、エレ=ミア」
「これでまた一段と良い獲物が狩れるようになるな」
みんなそれぞれに村一番の狩人の証を身につけたエレ=ミアを、ほめたたえている。
「よく似合っているわ」
「ありがとう、魔法使い」
エレ=ミアはぐっと麦酒をあおると、空になった酒器をつきつけてこう言った。
「だが、私は来年、もう一度お前に新しい首飾りを仕立ててもらうつもりだ。よろしくたのむ」
気のはやい来年の勝利宣言に、他の5人が一斉に異議をとなえる。
「いや、次こそは俺がとる!」
「今年は負けたが、次に栄誉を得るのは俺にきまっているだろう!」
「来年はまだ無理かもしれませんが、いつか必ず勝ちます!」
「大きさでは俺の猪の方が立派だった!次は俺の獲物を森が認めるに決まっている」
「来年もおまえに勝たれては、俺が困る」
最後の言葉はアダンのものだ。
それに喰いついたのは、当のエレ=ミアだ
「なぜ私が勝っては困るのだ?そもそもお前は!」
新しい麦酒を注ぎながら、エレ=ミアはアダンに絡みだした。
どこかで見た光景である。
「そもそも、私の獲物にお前の矢が刺さっていることが気に入らない!」
「仕方がないだろう。そうしなければ、お前の魂が森に還ることになっていた」
「そんなことはわかっている!だが、もし、おまえの矢が狼を射殺していたら、村は来年の冬が越せなくなったんだぞ!」
「その話は何度も聞いた。もういいじゃないか。お前は無事で、俺も森の怒りに触れずに済んだ」
「それが気に入らないと言っているんだ!」
エレ=ミアはだんっ、と酒器を持った手を膝に叩きつけた。
「私は村一番の栄誉をもう一度明かして見せる。今度は他人の矢傷を受けていない、本当の私自身の獲物でだ!」
アダンをキッ!と睨みながらエレ=ミアが酒をあおる。
「だから!それでは俺が困るのだ!」
と、今度はアダンが自分の酒器に火酒を注ぐと、一気に飲み干し、エレ=ミアを睨みかえした。
「お前は群れを率いる狼は、ひとりで狩ってはいけない、という教えを学んでいないのか!
お前は栄誉を焦って、老猾な狼に狩られるところだったのだぞ!また来年もあのような危ない狩りをするつもりなのか!」
突然のアダンの剣幕に、あたりが静まりかえる。
普段、おだやかな人物が声を荒げるときの迫力は半端がない。
アダンは、新しい火酒を注ぎ入れると、(それ、水で割ってない奴だ。多分)それを一気にあおった。
「俺は、村一番の狩人の栄誉を明かしたら、おまえに結婚を申し込むつもりだったのだ!」
衝撃の告白である。
いや、薄々はしっていたけど。
「エレ=ミア、お前は美しくて強い。
狩人としてすばらしい腕をもっている。
だから、俺はお前より狩りの腕が良いことを示して、お前を妻に迎えたいのだ。
だが、収穫祭の狩りとはいえ、こんな無謀なことをしていては、そう遠くないうちにお前の魂は森に還ることになるだろう。
そうならないうちに、俺はお前を妻に迎えたい。
2人で共に狩りをしたい。
共にいれば、森の危険からお前を守ることができる。
お前と2人なら、いしにえの魔獣でさえ狩ることができるだろう。
そのために、俺は栄誉を明かさねばならないのだ。」
アダンは空になった酒器をぐっと握りしめたまま、今度は黙り込んでしまった。
次に口をひらいたのは、アダンの熱烈な告白をじっと聞いていたエレ=ミアだ。
「私は、来年の収穫祭での栄誉を、誰にも渡すつもりはない」
アダンの顔が曇った。
周囲の人々が、心配そうにアダンの方に顔を向ける。
「だがアダン、私は今年、村一番の狩人となってその強さを皆の前で明かした。そうだろう?」
エレ=ミアは、にやりと笑いながらこう言った。
「アダン、私はお前に求婚するぞ。私の伴侶となれ!」
「……なっ!」
アダンが、握りしめていたはずの酒器をとり落とした。
事態がのみこめずに狼狽しているアダンに、エレ=ミアがたたみかける。
「お前はさっき、『お前より狩りの腕が良いことを示して、お前を妻に迎えたい』と言った。
なら、私はお前より狩りの腕が良いことを示したのだから、お前を夫にしたい、と言ってかまわんのだろう」
「いや、それは……そうだが」
困惑しているアダンに構わず、エレ=ミアは自分の言葉をつづける。
「アダン、お前は強くて良い狩人だ。
この村で、お前ほど矢を早く射ることができるものはいない。
私が獲物を追うときに、雷の速さで矢を射るおまえが傍にいれば大きな助けとなるだろう。
私が狩りで自分を失ったとき、お前の知恵が私を戻してくれるだろう。
お前が共にいれば、私はいにしえの魔獣どころか、北の竜でさえ倒してみせる。
私は今年、村一番の狩人であることを明かした。
だから、アダン、私と結婚してくれ」
エレ=ミアの清々しすぎる求婚に、アダンだけでなく、他のものたちも言葉を出せずにその場で固まっている。
エレ=ミアだけは、何事もなかったかのように自分の酒器に麦酒を注くと、
「なんだ?私と結婚するのが嫌なのか?」
「そんな訳はないだろう!」
「では、求婚を受けてくれるのだな」
「お……おぅ」
「ならば婚約は成立だな!」
エレ=ミアが花の咲くように破顔した。
おめでとう!エレ=ミア!
がんばれ!アダン。
この日の夜は、復活祭の宴とともに、アダンとエレ=ミアの婚約を祝う場となり、村中が大いに盛り上がった。
村長のアダ=ァランが2人の婚約を認め、アダ=リェルが若い二人を祝福する。
振舞われた狼の肉は脂が少なく、私の口にはすこし硬かったが、噛めば噛むほど滋味のあふれる美味しい赤身の肉だった。
エレ=ミア曰く、腹を刺したりせず、きちんと首を切って血ぬきをすれば狼の肉はもっと美味しくなるらしい。
来年も美味い狼を喰わせてやる、と言うエレ=ミアに、それは俺の役目だ、とアダン。
アダンとエレ=ミアの2人は、来年どちらが狩りに勝つか、宴の最中もずっと言い争っていたが、婚約したばかりの二人を見守る村人たちの目は暖かだ。
来年、オルテに来るときには、二人の結婚を祝う品を用意しなけれればいけないだろう。
美味しい狼をいただくために。
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ええ、そうです。
今、お客様がお求めになられたその首飾り。
エレ=ミア嬢の狩った狼の腹から出てきた貴重な魔石の1つでございます。
オルテの森の魔獣の力を宿したその魔石。
青いものは、とうに売れてしまいましたので、それが今年最後の1つでございました。
そうですね、オルテの森は気難しゅうございますから、魔石が1つしかとれない年もございます。
次に手に入るのはいつになるのか、私にも分かりかねるところでございます。
お客様は大変運がよろしゅうございましたね。
はい、それではたしかにお代は頂戴いたしました。
当店をご利用いただき、誠にありがとうございました。
そちらのアイテムが、お客様の旅のお役に立ちますことを願っております。
では、またのご来店を心よりお待ちいたしております。
お客様にどうぞ良き風が吹きますように。
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アイテム名:村一番の狩人の証
効 果:ATK+2
復活祭の捧げ物として、一番の獲物を狩った者に与えられる証
古の魔獣の牙が狩る者に力を与える
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最後までお読みいただきありがとうございました。
他のアイテムの逸話も不定期にUPしていきたいと考えています。
その節はどうぞまたよろしくお願いいたしますね。