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忘れられた鎖鎧の記憶(3(最終))

 お待たせしました。

 このアイテムのお話は、ここで完結します。


 最後までお楽しみいただければ幸いです。

 

「みなさん、集まってもらってありがとう!

 私はヴェルサイドの西の森に住む魔法使い。フェネル様の依頼でこの家を調べにきた魔法使いです」


 なるべく遠くまで聞こえるように、大声を張り上げる。

「まずはみなさんに、これを見てほしいの! 」

 私の隣にいたフェネルが、件の鎖鎧を大きく広げ、みんなによく見えるよう高くかかげた。


鎖鎧チェインメイルか?』

『随分と古いな』

『あれが呪い? 呪われた鎧なのか? 』


 集まった者たちが口々にささやく。


「みんな、良く見て! これはおそらく先々代の戦いのものよ。さすがに傷んではいるけれど、それにしても見事なつくりだわ! 」

 私が指先で軽く鎖鎧をはじくと、シャラリと美しい音がした。

「この丁寧な鎖の編目を見て! きっと腕のある職人が作ったのよ! それにこの守り石! これだけふんだんに使われているなんて、よほど人望のある人物が使っていたに違いないわ! もしかしたら名のある騎士様のものだったかもしれないわね! 」

 ひたすら鎧をほめつづける私を、集まった者たちはただぽかん、と見つめている。

 そうしているうちに、筋道の読めない話にしびれを切らした一人が、耐えきれずに口をひらいた。

「凄いのはわかったけどよ、で、その鎧が呪いの正体なのかい? 」


「……呪い、ですって? 」


 私はわざとをあけて、あたりをくるりと見回し、そして意味深げに微笑む。


「呪いだなんてとんでもない! 違うわ! これは大いなる護りの鎧よ! 」


 私は、より大きな声で宣言する。

 大いなる? まぁ、その辺は適当である。


「この鎧は並外れた護りの力を宿しているわ。でも、その力が強すぎたのね」

「どういうことだい?」

「つまりね、この鎧は護る力が強すぎて、本来護るべき持ち主が亡くなった後も、その力で主の住んでいたこの家を護っていたのよ」


 集まっていた大工たちが小さくどよめく。


「……鎧が? 家を?」

「そうよ。この鎧は大事な主の家を壊そうとするあなたたちから、この家を護ろうとしたの」

「鎧が人じゃなくて家を護るなんて……そんなことがあるのか? 」

「現にあったでしょう? ねぇ、そこのあなた! 足を怪我しているようだけど、どうしたの? 」

 事前にフェネルから聞いていた、斧で足をきった大工とは彼のことだろう。

「あぁ、こいつは、その家を壊そうとしたら手から斧がすっぽ抜けたんだ。そしたら、それが自分の足にざっくり刺さって……」

「それは大変だったわね。あと、そこのあなたも頭を怪我しているようだけど? 」

「俺もこの家にのこを入れたら、急に刃が動かなくなったんだ。で、力任せに押し込んだら突然刃が折れて、そいつが頭にあたったんだよ……この家の呪いのせいじゃないのか? 」

「ええ、呪いじゃないわ。むしろその逆。この家に強い護りの力……言い換えるなら、この鎧の加護があったから、壊すことができなかったのよ」

 当人たちにとって、それは呪いとも言えなくはないが、そこは印象を肯定的な方向に誘導する。


「それじゃこいつはどうすればいいんだ? 壊せないんじゃないか? 」

「いえ、この家はもう大丈夫。 今からそれを証明するわ。 だれか、私に斧を貸してくれない?」


 積極的に呪いに関わりたくないのだろう。大工たちは黙ったまま互いに顔をみあわせている。


「俺のを貸そう」


 そう言って斧を差し出してくれたのは、さきほどの足に怪我のある男だ。

 私は軽く礼を伝えて斧を受け取ると、くだんの家に近づき、玄関の張り出しを支えている柱に力任せに斧を振り下ろした。

 ガッという鈍い音をたてて、斧が柱に食い込む。

 足で柱をおさえながら斧を引き抜いて、もう一度斧を振り下ろす。

 そうやって五回ほど斧を振り下ろしたところで柱が折れ、支えを失った張り出しがぐらりと傾いた。

 残っているもう片方の柱にも、同じように斧を打つ。

 少し慣れてきたのか、さっきよりも上手うまく斧が入るようになり、今度は三回ほど斧を振るったところできれいに柱が折れた。

 二本の支えを失った張り出し屋根はメリメリとたわんだかと思うと、ほどなく重さに耐えきれなくなり、ドサリ大きな音をたてて地面に落ちる。


「ほら? なんともないでしょう? 」

 様子を見守っていた大工たちから、おぉ! と小さな歓声があがった。


「斧を貸してくれてありがとう。お礼をさせてもらえるかしら? 」


 そう言って私は足元の鞄から布張りの箱をうやうやしく取り出し、皆の前でそっと開く。

 中身は昨夜私が徹夜で作った御護チャームだ。

 古美色の鎖に、あざやかな色を残す守り石があしらわれた御護チャームが箱の中に整然と並んでいる。


「これは、あの鎧から作ったものよ」

 私は箱から御護チャームを1つ取りだすと、借りていた斧の柄紐の通しに御護チャームをとりつけた。

「この御護チャームは、あの鎧のもつ護る力をやどしているの。 こうやって斧につけてれば壊れにくくなるし、身に着ければその身を護ってくれるわ」

 御護チャームをつけた斧を持ち主に返す。

 その際に、ついでに、と、私は持ち主の足の怪我に治癒魔法をかけた。


 それを見ていた大工たちが、羨ましげな目で御護チャームのついた斧とその持ち主を見ている。

 別に治癒魔法と御護チャームの力の間に特別な関係性はないのだが、この御護チャームが本当に効果のあるものだと印象づけられたようだ。

 まぁ、それを狙ってたんだけどね。


「あ~! おっほん! 」

 フェネルが咳払いをして皆の注目を集める。

 まぁ、少々わざとらしいことには目をつむっておこう。


「魔法使い様、その御護チャームですが、私にも譲っていただけませんか? 」

「ええ、かまいませんよ」

 私は箱からチャームを1つ取りだし、うやうやしくフェネルに渡そうとした。

「いえ、違うのです」

 私を手で制するフェネル。

「その箱の中にある御護チャームを、すべて譲っていただきたいのです」

「対価をいただければ、別にかまいませんが……」


 じっとやりとりを眺めていた大工たちがざわつく。

 きっと、あとで(チャーム)を買い求めようとしていた者たちがいたのだろう。


「それでは魔法使い様、その御護チャームを、ここにいる者たちに与えていただくようお願いしたいのです」


 フェネルの話に、今度はをぉぉ!と、大きな声がもれた。


別荘マナーハウスが完成するまでには、まだまだ時間がかかります。その間、ここにいる者たちがこれ以上怪我をせぬよう、どうかその御護チャームをお与えいただきたいのです」

「ええ、わかりました。今回のご依頼主であるフェネル様の願いです。喜んでお譲りいたしましょう」


 フェネルの言葉に満面の笑顔で応え、それからその場にいた大工たち一人ひとりに御護チャームを手渡した。

 もちろん、頭を怪我していた男にも治癒魔法をサービスすることを忘れない。

 たしかもう一人、呪いで怪我をした者がいるはずだが、と訊ねてみたが、それはどうやら材木を運ぶときに軽く腰を痛めた男が、呪い騒ぎに便乗して仕事をさぼっていただけのことらしい。

 追及するとなんだか色々面倒になりそうだったので、ついでにそいつにも治癒魔法をかけてやることにした。


 大工たちは上機嫌でそれぞれの持ち場に戻っていった。

 残っていたこの家も、最初に怪我をした二人の大工が中心になって、その日のうちに手早く取り壊しを終えてしまった。


 さて、これで呪い騒ぎは一件落着。

 めでたく依頼達成である。


 帰りはヴェルサイドに戻るというフェネルの馬車に同乗させてもらうことにした。

 馬車に乗り込み、中でフェネルと目が合うと、おもわず二人で笑い出した。


「いやぁ、本当にありがとうございました」

「みなさんに喜んでいただけてよかったですね」


 御護チャームの話である。

 実は、この御護チャームを大工たちに配る話は、事前にフェネルと打ち合わせをしてあったのだ。


 呪いを祓うという行為は、単にマイナスをゼロにもどすだけの話だ。

 みんなが信じているマイナスの話を、どうせならゼロではなくプラスにしてやろうという私の提案に、フェネルは喜んで乗ってくれたのだ。

「これで大工たちは喜んで仕事をしてくれるでしょう」

「それはフェネルさんがちゃんと彼らの分の御護チャームの代金を支払ったからですよ」

「いえ、大工たちの信用や士気というのは、お金を出したからといって簡単に得られるものではありません。今回のことで、彼らは私のために力を尽くして働いてくれるでしょう。ただ呪いを祓うまねごとをしてもらうだけでは、こうはいかなかった。感謝します」

「こちらこそ、喜んでいただけてなによりです」


 西の森に近い街道で馬車から降ろしてもらい、フェネルと別れることにした。

 フェネルは、約束した対価より、少し多めの銀貨を私に支払ってくれた。

 また、鎧の残りも私がもらえることになった。

 たしかに下手に扱えば面倒なものだし、この手のアイテムは売るにしてもその道の伝手つてがないと難しいだろう。

 私はそれをありがたく頂戴するかわりに、最後に1つ残っていた御護チャームをフェネルの上着の裏に結び付けると、彼の仕事がうまく行くように魔法使いの祝福をかけた。

 現実主義者のフェネルには無用なものかもしれないが、まぁ、そこは気持ちという奴である。


 それから季節が廻り、次の年の春。

 青い鳥がフェネルからの手紙を運んできた。

 あれから仕事は順調に進み、大きな事故や怪我もなく、夏までに十分な余裕をもって別荘マナーハウスが完成したらしい。

 手紙には、もし可能であればあの御護チャームをもうひとつ送ってほしいという内容とともに、銀貨が一枚同封されていた。

 あの時に私がフェネルに渡したものは、できあがった別荘マナーハウスの屋根裏にそっと置いてきたのだという。


 フェネルのために新しい御護チャームを作る。

 そして、できたての御護チャームに、仕事の無事完成を祝う手紙をつけて青い鳥に託す。

 これからも彼の仕事が良きものとなりますように。


 さて、実はもののついでに、と、御護チャームを作りすぎてしまったが、どうしたものか。

 今度ヴェルサイドの街にでも、もっていくことにしようか。

 この御護チャームを必要とする人がいるなら、きっと導かれて求めにやってくるに違いないから。


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 そうですか、お弟子様が独立なさるのですね。

 ヴェルサイドを離れて、故郷の村で工房をお持ちになるのですか? それはおめでとうございます。

 ええ、そうですね。

 それでしたら、お祝いに贈る新しい道具箱の中に、ぜひこの御護チャームをお加えください。

 道具が長持ちいたしますよ。

 ええ、もちろんお弟子様は親方であるお客様からの贈り物を喜んで、きっと長く大切にお使いになることでしょう。

 こちらは少しばかりそのお手伝いができる品に間違いございませんから。


 はい、お買い求めいただきありがとうございます。

 お弟子様の新しい門出に、どうぞ良き風が吹きますように。


 ――――――――――

 アイテム名:忘れられた鎖鎧の記憶

 効果:装着対象物の耐久力+1

 先の大戦で戦ったある騎士の鎖鎧の一部。

 主人を護った記憶を宿し、忘れられた今も側にあるものを護り続けている。

 ――――――――――

    挿絵(By みてみん)


  アクセサリーの世界には、チェインメイル技法というものがあり、その名前から思いついたお話でした。 

 金属の輪を組んで、複雑な形のアイテムが出来上がる様は、見ていて本当に不思議な気持ちになります。

 機会があれば是非実物をご覧になってくださいね。


 ここまでお読みいただきありがとうございました。

 またそう遠くないうちにお会いできるよう頑張ります。

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