村一番の狩人の証(2)
このシリーズはすべて当店のアイテムの紹介文なのですが、なぜか完売アイテムのからのスタートとなっております。
あかんがなw
オルテでは年に一度、復活祭とともに村一番の狩人を決める勝負が行われる。
その年、村で初めてヤマドリ茸が採れた日の次に訪れる満月の夜。
……つまり、それが今夜なのだが、日が落ちてから昇るまでの間に、復活祭の捧げものとして一番立派な獲物を狩った者が、その年の村一番の狩人として認められるのだ。
立派な獲物というのはいちがいには難しいのだが、猪であれば大きい物ほど良いとされ、狼であれば、大きさに加え毛皮の色の良いものが立派とされている。が、それを決めるのは『森』自身なのだ。
また、一晩に1人が狩ることが許される獲物の数は3頭まで。
これはとても厳格な決めごとで、守らぬ者がいれば森の恵みが半減し、次の年の冬を越すことが難しくなるのだという。
「狩りに良い日になりましたね」
「今年は誰が一番の栄誉をえるのかしら」
「やっぱり今年もクル=トが勝つんじゃないか」
「いや、ボルンの娘、エレ=ミアも、若いがなかなかの使い手だぞ」
「早打ちのアダンはどうだ?」
「奴は瞳が黒いから、夜の狩りでは不利だろう」
森の西の林檎を剪定しながら、今夜の勝者を予想して下馬評が飛び交う。
復活祭は、神聖な祀事であるとともに、オルテの村では貴重な娯楽の1つだ。
村中が今夜の勝負を心待ちにして、どこか浮足立っている。
昼を過ぎる頃になると、人々は広場にあつまり、復活祭の準備をはじめる。
山盛りの塩と香草。
皮を鞣すための小刀や肉をつるすための麻紐。
この祭で狩られた獲物は、冬を越すための貴重な食糧になるのだ。
日が陰りだす頃には、獲物を吊るす柵をとりまくように6つの篝火がたかれ、さらにそれを取り巻くように村人たちが集まってくる。
今年、復活祭の狩りに参加する者は6人
いずれも弓に覚えのある若者で、皆、それぞれに意匠をこらした弓と矢筒、そして良く研がれた小剣をたずさえ、狩りの始まりを静かに待っている。
村長のアダ=ァランが6人の前に立ち、一人ひとりの名を呼び、彼や彼女らが正当な参加者であることを宣言する。
そして、次にアダ=リェルが加護と祝福のために復活祭の祈りを捧げる。
彼女の祝福は古い言葉……かつてはelfの言葉であったものが長いあいだに少しずつ変化し、言葉より韻律として残されたものだが、それが彼女の声を介して広場にあつまったすべてのものに響いている。
謳うように紡がれる祈りには、森の恵みをもたらす大地の復活への願い、祖先への感謝、祭に携わるものすべてへの祝福。
そして、狩りに向かう6人の若者たちを暗闇から護り、その魂が闇に惹かれぬよう、正しき森の導きがあるようにとの願いが込められている。
祈りが終わると、再びアダ=ァランが前に進みでて、復活祭のはじまりを高らかに宣言する。
「森の許しをえて、これより狩りをとりおこなう!」
「おぉう!」
いらえと同時に、6人は一斉にそれぞれの思う狩場へと走りだしていった。
アダ=リェルが6つの篝火に、《ミミズクの目》の魔法をほどこす。
すると、揺らめく焔の中に、6人のそれぞれの視界が像として結ばれた。
焔の中には、枝から枝にわたる者、尾根を走り抜ける者、涸れ谷をさかのぼる者など、それぞれが己のめざす狩場にむけて目まぐるしい速さで移動している姿が映しだされている。
「ほほう、クル=トは猪狙いじゃな」
「あの谷の向こうは、たしか鹿の群れがいたな」
「もう東の沢を超えた!さすがエレ=ミアだ。身が軽い」
広場にいるものたちは大変な盛りあがりようだ。
自分の身内など、ひいきの者を応援する声がとぎれることがない。
「アダンが仕留めたぞ!」
わっと歓声があがる。
「鹿だ!」
「大きいぞ!」
声のあがった篝火の方を見ると、立派な角のある鹿が矢を受け、よろめく姿が焔のなかにあった。
間髪をあげず二の矢、三の矢がつぎつぎと放たれ、矢を受けた鹿が完全に倒れたところに、すかさずアダンがとびかかる。
と、アダンは手にした小剣で、鹿の喉元を手際よくかき切り、とどめを刺す。
そうして、アダンは獲物が完全に息絶えたことを見とどけると、次の獲物をもとめてさらなる森の奥へと駆けだしていった。
アダンに親しい者たちが、獲物の回収にむかう。
森を知りつくしているオルテの人々にとって、鹿がしとめられた場所がどこなのか皆わかっているようだ。
「クル=トは猪だ!」
「こっちもでかいぞ!」
子供の背丈ほどもある猪が、頭に幾本もの矢を受けている。
クル=トの弓は、薄板を幾重にもはりあわせた強弓で、力のないものは矢をつがえることさえできない。
その強弓から放たれる矢は、毛皮の硬い大きな猪の骨までもしっかりと貫いているようだ。
追われていたはずの猪が、突然向きをかえ、クル=トにむかってくる。
慌てることなく落ち着いたさまで弓を引きしぼると、クルトは猪とすれ違いざまに矢を放つ。
矢は見事に眉間につき刺さり、猪は頭を大きくひとふりすると、2、3歩進んだところで縺れたように倒れ込んだ。
どぅっ!と聞こえぬはずの地響きの音を感じる。
クル=トは倒れた猪に近づくと、注意深くひざで頭を抑え込み、喉に小剣を突きたてとどめを刺した。
広場にひときわ大きな歓声が上がる。
こうして、復活祭の狩りは夜を徹して行われるのだ。
ぼちぼち続きます~