青銅騎士団の証(9)
今回はキリの良い所で少し短めです。
2人とも限界が近かったのだろう。
お互いを睨みながらも、肩で息をしている。
それでも最後は姿勢を正して、騎士の礼で試合を終える。
本人たちは不本意だろうが、今回は決着をつけず、お互いの面目を保ったまま終わらせたようだ。
大人の判断という奴だろう。
そのあたりは、さすが騎士団の長であるルイス様とゲオルグ様だ。
さじ加減をこころえている。
「ねぇ、私、二人をねぎらいたいわ!」
無邪気を装って、私はあずまやから訓練場の方に駆け出した。
「これ! 待ちなさいシャーロット!」
ルイス様の制止をきかず2人の騎士の前まで行ったところで、私はまず二コラに手を差し出した。
「よく頑張ったわね! 二コラ」
「ありがたき幸せ」
二コラは私の手をとると、膝を折り、今朝と同じようにそっと自分の額をつけて、淑女に対する最高礼を示した。
「リカルド様も、本当に素晴らしい試合でしたわ」
「騎士として光栄に存じます」
今度は手袋を外して、リカルド様にそっと手を出す。
ルカルド様も正しく騎士の礼に則って、私の手をとった。
よし!チャンスだ。
指先からリカルド様の魔力流れを追って、彼自身のものでない魔力のありかを探す。
あった!
耳飾りだ!
ルカルド様の耳には、炎銀騎士団の紋章の入った耳飾りが小さく揺れている。
そこから流れ落ちる魔力が、おだやかにリカルド様をとりまいている。
そのあまりにも自然な魔力の流れは、よほど注意を払っていなければ本人自身の魔力と区別がつかないだろう。
リカルド様が顔を上げた瞬間に、私はわざとよろめいて、リカルド様の方に倒れかかった。
「だ、大丈夫ですか!?」
反射的に私を抱きとめるリカルド様。
近くで見ると、思った以上に顔立ちが整っている。
ふむ、いかにも貴族の好青年だ。
「シャーロット! 無事か? 無理をするからだ」
あわてて駆け寄るルイス様の前で、リカルド様が私を抱き上げた。
いわゆるお姫様だっこである。
「私がお運びいたしましょう」
「頼む」
リカルド様にしがみつくように腕を首にまわしながら、左の耳飾りに指をかけ、小さく、きゃぁ! と叫んで気を引いた隙に、耳飾りをかすめ取った。
よし、ばれていない。
というか、これ、すでに魔法使いの仕事の範囲を超えている気がする。
詰所の一室に運ばれ、そこで一刻ほど休ませてもらった。
私が横になっている間に、ルイス様とゲオルグ様との間で、また腹芸が繰り広げられていたようだが、そこまで私の知ったことではないので、寝たふりをして耳をふさいでおく。
「ありがとうございました! ゲオルグ様。
ご迷惑をかけてごめんなさい。でも今日は本当に楽しかったわ!」
「お体はもう大丈夫ですかな? お嬢様に騎士同士の戦いは、少々刺激がすぎましたか」
「いえ、そんなことはありませんわ! 本当にリカルド様の戦うお姿は素敵でした」
「それは大変よろしゅうございました」
うんうん、わかっております、と言わんばかりにうなずくゲオルグ様。
ルイス様にも意味深な目配せをおくっているようだが、ルイス様は失礼にならない程度にスルーしている。
私は、ルイス様の馬車で何事もなかったように訓練場を後にした。
袖に炎銀騎士団の耳飾りを隠したままで。
お読みいただきありがとうございます。
もう少し続きますので、お付き合いくださいませ~。
また、もしよろしければ、下記の☆で評価をいただければ幸いです。
☆の効果:私のやる気+1