青銅騎士団の証(8)
まだ続いてますよ~。
奉納試合を想定して、試合で使用されるものと同じ型の革鎧と木盾、そして剣が準備される。
二コラの相手はアルター伯のご子息、リカルド様。
シャーロット嬢の婿候補……らしい。
どうやらゲオルグ様が気を利かせたようだ。
だが、こちらにとっては好都合だ。
この2人は奉納試合で実際に対戦することになりうる組み合わせだ。
炎銀としては、たとえ模擬試合とはいえ負ける訳にはいかないだろう。
であれば、何か手を使ってくる可能性が高い。
他の騎士たちも訓練を中断し、皆集まってきた。
この場の誰もが、青銅対炎銀の試合を見逃すまいとしている。
「では、ただいまより、青銅騎士団及び炎銀騎士団による模擬試合を行う!
両者! 前へ!」
掛け声とともに、同じ鎧姿の二コラとリカルド様が前に進み出た。
背丈や体つきは二コラの方が大きい。
リカルド様はどちらからといえば、細見で剣よりは細剣の方が似合いそうだ。
二人は向かい合うと、お互いに剣を胸元に掲げて、騎士の礼を交わす。
この場にいるすべての人が2人の一挙一動を注視しているようだ。
「両者! はじめっ!」
開始の合図とともに走りだしたのは二コラだ。
一直線に向かったかと思えば、剣の間合いの直前で左踏み込んで向きを変え、そのままリカルド様の腹を狙う。
リカルド様は盾で二コラの剣を受け流すと、剣に振られて無防備になった二コラの右肩に剣を振り下ろすが、それを二コラは見事な体捌きでかわしていく。
2人とも、強い。
騎士同士の真剣勝負に緊張感が張りつめる。
だが、私が見るべきは彼らの騎士とのしての能力ではない。
魔法の関与の有無だ。
この試合が始まってから、能力強化の魔法を能動的に発動した形跡はみあたらない。
だが、かすかに違和感、この場にそぐわない魔力の気配を感じる。
二合、三合と打ち合いが続く。
剣同士のインパクトの瞬間にも魔法が発動した形跡はない。
攻撃をトリガーにする受動型の魔法でもないようだ。
さきほどから漂っている薄い魔力を探る。
実は魔力というもののは、万物に宿っている。
訓練場に生えている雑草や土、あるいは金属のかたまりである剣にいたるまで、すべての物質はほんの僅かだが魔力をもっているのだ。
そんな多様な魔力が複雑に満ちている中で、ほんの僅かだが、先ほどまでこの場に無かった魔力を感じる。
二コラの剣が、リカルド様の右の肩口にヒットした。
避けきれなかった剣をまともに受けて、リカルド様が体を崩した。
鎧の上からとはいえ、これは相当なダメージが入っているはずだ。
隙を与えずに追撃する二コラ。
だが、その剣をリカルド様は、右手に構えなおした剣で見事に受け流した。
……右手?
なんともない?
リカルド様は全くダメージを感じさせない動きで、二コラの追撃を打ち返す。
そして今度は、深追いしすぎて腕の開いた二コラの脇腹に、リカルド様の剣がヒットする。
よろめく二コラ。
だが、倒れずに堪えた。
身体を崩しながらも後ろに距離をとり、体制を立て直す。
見ているこちらの息が詰まりそうだ。
だが、1つ分かったことがある。
リカルド様の動きにあわせて、ゆらりと動く魔力があるのだ。
先に炎銀の騎士同士の訓練を見ていなければ、リカルド様自身が持つ固有の魔力と思い込んでいただろう。
しかし、比べればわかる。
リカルド様が、先ほどとは異なる魔力を身にまとっているのは確かだ。
あとは、その出処と正体をつきとめなければ。
リカルド様に触れることができればよいのだが。
お互いに一歩も譲らぬまま、ただ、剣戟の音だけがあたりに響く。
幾合も打ち合う間に双方とも息はあがり、体力的にも限界が近いように見える。
「どうだい? シャーロット」
ルイス様が私の隣でささやく。
「本気で戦う騎士様は、こんなにもたくましくお強いのですね!
さっきとは全然違うわ!
まるで魔法みたい!」
私の返事を聞いたルイス様は、ゲオルグ様に目配せをする。
ゲオルグ様は何を勘違いしてくれたのは知らないが、それはようございました。と、私に話しかけると、訓練場に合図を送った。
「双方! そこまで!」
ゲィンッ! と剣が打ち合ったところで時間が止まった。
思ったより長編になっておりますが、まだまだ続きます~
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