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青銅騎士団の証(7)

 まったり続いております~。

 訓練場では、軽装ではあるものの十数名の騎士が整列し、儀礼の訓練を行っていた。

 王都での式典を想定した儀礼の一糸乱れぬその動きは、炎銀パイロス騎士団が、ただ貴族の子息を集めただけのお飾りではないことを示しているようだ。


「皆! よく聞け!」


 炎銀パイロス騎士団長のヴァイス伯ゲオルグ様の声が訓練場に響き渡る。


「今日はこちらに青銅ブロンズ騎士団長であるセルドア伯ルイス殿がおみえである!」


 ルイス様は流れるように抜剣すると胸元に捧げ、騎士の礼をとる。

 それに呼応するように炎銀パイロスの騎士たちも一斉に抜剣し、ザッ! という足音とともに誰一人乱れることなく剣で返礼した。


「よろしい! また、今日はこちらにルイス殿の御令姪、シャーロット嬢もおみえになっておられる!

 ただいまから実戦にむけての訓練を行うが、我ら炎銀パイロスの実力をルイス殿にみていただだく、またとない機会だ!

 皆! 心して励むように!」


 ゲオルグ様の号令で炎銀パイロスの騎士たちは一斉に散会すると、今度は2人1組での模擬戦闘が始まった。

 剣と剣がぶつかり合う音が訓練場に響く。


「今、正面にいるのが今年奉納試合に参加する2名です。

 手前がギュンター男爵の長男セルジオ殿、そして奥がアルター伯の次男、リカルド殿ですな」

「ほう、どちらも立派な騎士に成長しておられる」


 じじい同士の会話を無視して、2人の戦う様子を観察する。

 剣の合わせる様子は2人とも互角、いや、リカルド様の方が押しているか。


 だが、2人が互いに剣を交わすところに魔法の気配は感じられない。


 他の騎士たちにも同様だ。

 少なくとも、この場になんらかの魔法が発動している気配はない。


「どうだ?シャーロット。

 炎銀パイロスの騎士はみな素晴らしいだろう?」

「ええ、ルイスおじさま!

 みなさま騎士として・・・・・とてもお強い方ばかりですのね!」


 無邪気な小娘が騎士たちから目を離せないていを装って、じっと観察を続けるが、やはりどこにも魔法の気配はない。

 このままでは埒があかない。


「ねぇ、ルイスおじさま!」

「なんだい? シャーロット」

「おじさまの青銅ブロンズ騎士団の騎士と、炎銀パイロスの騎士の方々では、本当はどちらがお強いのかしら?」


 じじい2人が驚いてこちらを見る。


 おそらく、このまま炎銀パイロス同士の訓練では魔法を使うことはないだろう。

 なら、外部の騎士団との戦いになればどうだ?

 せっかくのわがまま娘の設定だ。

 十分に活用させていただこう。


「突然何を言い出すんだ?シャーロット!」

「だって、おじまさはいつも青銅ブロンズ騎士団がヴェルサイドで一番強いとおっしゃっているではありませんか。

 でも、炎銀パイロスの騎士様方も、みなさんとてもお強くて素敵だわ。

 青銅ブロンズ騎士団と炎銀パイロス騎士団が戦ったら、本当はどちらがお強いのかしら?」


 無知で無遠慮な貴族の娘に見えただろうか?

 ひきつる表情筋を抑え込み、全力で笑みを浮かべているが、胃がキリキリと痛い。


「はっはっは! これは素直なお嬢さんだ」

「ゲオルグ殿。これはとんだ失礼を」


 いやいやと軽く手を振ると、ゲオルグ様は私にむかって話しかけてきた。


「シャーロット殿、騎士たるものは、誰もが自分の騎士団が一番強いと信じております。

 まして団長であれば、己が率いる騎士たちの強さを信じぬものはおりません」

「でも、戦ってみれば本当はどちらが強いか、すぐにわかることでしょう?

 ねぇ、二コラ! あなた今から炎銀パイロスの騎士様と戦ってよ!」


「これ、シャーロット!失礼にもほどがあろう!」

「いえいえ、当騎士団はかまいませんよ」


 諫めるルイス様を制したのは、当のゲオルグ様だ。


「こんな可愛いお嬢様の頼みとあれば、炎銀パイロス騎士団としてお断りするわけにはまいりません。

 そちらの二コラ殿でしたか……たしか今度の奉納試合に参加されるとか。

 どうでしょう? ルイス殿さえよければ、一度双方の騎士同士で手合わせをいたしませんか。お互いの力を知る、よい機会になりましょう」


 ゲオルグ様は、にこやかにルイス様に話しかける。

 言葉は穏やかだが、その端々に平民上がりの青銅ブロンズ風情が、貴族に勝てるわけがないという驕りが透けて見えている。


「恐れながら」


 これまで後ろで控えていた二コラが、ルイス様の後ろでひざまづく。


「許す」

「この度のヴァイス伯ゲオルグ様のご提案、お許しいただけるのであれば是非お受けいたしたく存じます」

「ほう」

「私は領主様とルイス様に過分な恩寵を賜り、騎士の末席に名を連ねるものでございます。

 本来であれば貴族の方々と並ぶことのない身であればこそ、かの炎銀パイロス騎士団の方々とお手合わせをいただける機会、騎士として逃したくはございませぬ」

「なるほどな」


 ルイス様は、私と二コラを一瞥したあと、思案するふり・・をしている。

 十分に間をとったあと、ルイス様はゲオルグ様に一礼した。


「重ねてのぶしつけに寛大な対応をいただき、感謝の言葉のございません。

 うちの騎士もこう申しておりますゆえ、この度は炎銀パイロス騎士団の胸をお借りさせていただきましょう」

「いやいや、こちらも実戦に強い青銅ブロンズ騎士団の方とのお手合わせは願ってもないことです。

 若い騎士たちにとってよい経験になりましょう」


 装備を整えるために、二コラはゲオルグ様の従者に連れられてあずまやを出る。


青銅ブロンズ騎士団の名を汚さぬようにな」


 二コラを見送るルイス様の声が、私の心に重かった。


 これを書いてる頃にファンタジー小説サンドイッチ論争がありました。

 ちなみに私はハヤカワ・朝日ソノラマ世代なので、料理や景色を細かく書き込む方が好きな派です~。


 もしよろしければ、下記の☆で評価をいただければ幸いです。

 ☆の効果:私のやる気+1

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