村一番の狩人の証(1)
魔導装具取扱店か~まの店(時々Michelの館)という屋号で、アクセサリー製作:販売をおこなっております、か~まいんと申します。
普段は製作したアクセサリーに、装備効果とフレーバーテキストを添付しているのですが、3㎝×4㎝のアクセサリー台紙に書ききれないストーリーをこちらに纏めることにいたしました。
私がアイテムをエンチャントするときには、こんなことが頭を中を渦巻いていると思っていただければ幸いです。
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アイテム名:村一番の狩人の証
効 果:ATK+2
復活祭の捧げ物として、一番の獲物を狩った者に与えられる証
古の魔獣の牙が狩る者に力を与える
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オルテは、森の恵みと狩猟に生きる村だ。
遠い昔にelfの血が混じった者達が集まってできた隠里と言われているが、豪快に酒を飲み、肉を喰らう村人の姿にその面影は薄い。
ただ、卓越した弓の技術を持つ者、また、齢が100をこえる者が数多くいることが、伝承があながち偽りではないことを示している。
「あ!魔法使いだ!」
「魔法使いが来たよ!!」
私の姿を見つけた子供たちが、我先にと近づいてきた。
1年振りに訪れた村は何一つ変わることなく、穏やかな活気にあふれ、色づき始めた落葉樹に差し込む陽の光もあいまって、牧歌的な一枚の絵のように見えた。
『今年も森で茸がとれました』
この短い手紙を青い鳥から受けとると、私はオルテに向けて旅にでる。
私の住む森からオルテまでは、歩くと10日はかかるのだが、今年は運よく街道を行く旅団にもぐり込むことができたので、約束の日になんとか間に合った。
「ねぇねぇ、街のお話を聞かせて!」
「お菓子は?お土産のお菓子はまだ?」
「はいはい、お土産もお話も村長にご挨拶をしてからね」
子供たちに囲まれながら、オルテの広場の奥にある村長の家に向かう。
家の前では、すでに子供たちの声を聞きつけていたオルテの長、アダ=ァランが出迎えてくれていた。
『貴きオルテの神聖な祀事にお招きいただき、心よりの感謝を申し上げます』
『忘れられた我らオルテの為に、遠き道程をよくぞ訪ねてくれた。世の理を知る魔導師よ』
古い時代の言葉としきたりで、お互いに挨拶をかわす。
と、儀礼はここまで。
「今年もなんとか間に合ってよかったわ」
「あんまり遅いので、明日の満月までに着かないのかとひやひやしたぞ!」
それまでいちおう威厳を保っていたアダ=ァランが様相をくずし、バンバンと私の背中をたたいた。
正直、痛い。
体格差に少しは配慮して手加減していただきたい。
「それじゃ今夜のうちにできることをやっておきますね」
「よろしく頼む。みんなお前がくるのを楽しみにしていたからな」
「期待にそえるようがんばります。でも、本当に楽しみにしていたのはこちらの方なのでしょう?」
外套の隠しから、お菓子の入った小さな包みを取りだすと、待ちかねていた子供たちからわっと歓声があがる。
油紙に包まれているのは最近街で流行っている煎豆の蜜がけだ。
煎豆に青や赤の極彩色に着色された蜜をかけて固めたお菓子なのだが、子供たちは包みを開くとその鮮やかな色に驚きながらも、物怖じすることなく次々と口に運んでいく。
子供たちはお菓子に満足すると、赤や青に染まったお互いの舌を見せあっては笑いながら、森に駆け出して行った。
アダ=ァランに招かれ、彼の家に入る。
そこで待っていたのは、彼の祖母で、オルテの占い師、アダ=リェルだ。
彼女と再会の抱擁を交わすと、勧めらるままに窓際の椅子に腰かけた。
「森のご機嫌は如何?」
「今年はいつもより実りが多い。特に西の林檎は沢山採れた。でも、どれも小さい」
「じゃぁ新しい枝を少し切った方がいいかもしれないわね」
「井戸の底が深い。今年は冬になる前に水が枯れるだろう」
「一緒に井戸にいって、水の精霊の加護を願いましょう」
アダ=リェルは今年で180歳になる。
オルテの人々の中でも一番の長寿で、みんなから尊敬をあつめる占い師だ。
村人は、彼女の占いをもとに、冬の支度をおこない、森の恵みに感謝をささげる。
私はある報酬と引き換えに、この村で、ほんの少しだけ彼女のお手伝いをしているのだ。
彼女の手を引きながら二人で村の中を巡り、魔法を必要としている所にあるべき力を注いだり、ちょっとした魔石や加護のついた飾り物を各々の家に配りながら歩く。
オルテの村が無事に冬を乗り越え、次の1年も森の恵みが豊かであることを願いながら。
まずは当店に関心をお持ちいただき、ありがとうございます。
この章が終わるまでは、毎日更新の予定です。
どうぞ最後までお付き合いをいただければ幸いに存じます。