Cafe Shelly 奪う者、満たす者
「愛してる、あなただけなの」
この言葉を何人の人に伝えただろう。この言葉を伝えるだけで、私は多くのものを手に入れてきた。お金、アクセサリー、洋服。大きなものではマンション、そして車。モテるって、こういうことよね。
男を手玉に取るのは簡単。ありがたいことに、私には美貌がある。そしてグラマラスな体型。これを維持するには努力が必要である。しかも、並大抵の努力ではない。ジムに通い、エステに通い、精神的な部分を鍛えることも忘れてはいない。
そうして手に入れた自分を武器にして、私は生きている。世に言う「魔性の女」である。これは私自身がそれを自覚している。
「美沙、君は美しい。君を手に入れたい」
こんなセリフを何人の男性から言われただろう。けれど、私は生まれてから三十二年間、一人の男性に縛られることなく生きてきた。これは私が恋愛に対して物心ついた中学生の時からそうだった。男性の方が勝手に私に寄り添ってくるのだから。勝手に私にいろんなものを与えてくれるのだから。私はそれをありがたく受け取っているだけに過ぎない。
大人になってから、医者、弁護士、実業家など多くの人が私に近づいてきた。中には大物政治家もいる。
だが、その多くは既婚者。つまり私は遊び相手であり、相手の欲を満たすだけの女。だから私は、相手の男から私の欲を満たしてもらっている。ギブアンドテイク、私の人生はこれで成り立っている。
中には結婚しようと言ってきた男もいる。若い時はその熱意に惹かれて、そのつもりになったこともある。
けれど、この先この男と一生暮らすことを考えると、なんだか急に熱が冷めてしまった。それなりの収入がある十歳上の実業家だった。が、仕事一筋に生きてきたこの男と結婚すると、私はただの家政婦に成り下がるのは見えていたから。相手は私が欲しいのではない、自分の面倒を見てくれる便利な女性が欲しいんだ。それを感じてしまったから。
だから私は結婚というものに興味がなくなった。相手の男性は結婚することで、タダで自分の生活、そして欲求を満たしてくれる相手を見つけたいのだ。それが結婚の真実じゃないかと感じた。
「美沙はいつまで独りでいるの?結婚はしないの?」
仕事仲間で、大手企業の秘書課で一緒に仕事をしている同僚の美久。私より三つ若い、もうすぐ三十を迎える女性。彼女はすでに結婚していて、本人曰く幸せな生活を送っているということらしいが。
「結婚ねぇ。私も考えた頃はあったけれど、今の生活で満足しているし」
美久は私の男関係のことは知っている。そして私の生活のことも。
「美沙、今はいいけれど歳をとってからはどうなの?いつまでも男性が寄り付くようなことってないでしょ」
「そうは思わないわ。世の中には美魔女なんて呼ばれている女性もいるし。結婚して一人の男性に縛られるのって、なんだか窮屈に思えるし」
「まぁ、考え方は人それぞれだからいいんだけど。でも、家に帰ったときに独りって、寂しくない?」
家に帰ると独り。確かに寂しい。だからこそ、出来るだけ男と会ってその寂しさを紛らわせている自分がいる。そもそも、男というものは自分の寂しさや不満を女で紛らわせたいために、私に寄ってきているんだから。私がそこを利用させてもらって何が悪い。
そもそも、この人なら一生一緒にいられるというような男性は、私の前には現れてくれない。私が一緒にいてもいいという条件は、それなりの年収があって、私を束縛せずに自由にさせてくれて、そして当然ながらカッコよくて。近い男性とは何人も付き合ってきたが、どれも既婚者だったりしたし。これといった男がいないのも現実だからなぁ。
「柏崎くん、ちょっといいかな」
「はい、社長」
ある日、社長に呼ばれて社長室へと向かった。といっても、こういうのは珍しいことではない。残念ながら社長は堅実な人なので、私の恋愛対象外である。
「私の恩人の息子さんが、今度会社を立ち上げることになってね。それでパーティーが開かれるんだ。だが私は出張で出席できない。悪いが君が代理で出席してくれないか」
「かしこまりました」
こういう業務も、秘書課の仕事である。秘書課は社長秘書の仕事以外にも、社長を始め役員の方々の色々な業務の代理をこなすこともある。代理といっても、今回のように代わりに何かに出席する、といった類のものがほとんどである。
社長から言われたパーティー、恩人とは社長がこの会社を立ち上げる時に大変お世話になった方とのこと。その息子さんは三十七歳で新しい会社を立ち上げるらしい。写真を見せてもらったが、とりたててカッコいいわけではない。それに会社を立ち上げたばかりなら、まだまだ収入も不安定だろう。残念ながら私の恋愛対象外だな。
こういった財界系の催し物には、かつての恋人の姿を見ることもある。が、ここはお互いに挨拶程度で済ませるのが大人の付き合い方だ。
さて、どこかにいい男はいないものか。そういう目線で社長の代わりに挨拶をして回る。もちろん、このパーティーの主役である新社長にもご挨拶。
「初めまして。私、サンプライズの社長、桜崎の秘書をやっております柏崎と申します」
こういう場面では、ビジネスライクに徹する。だが、相手社長は私の顔と名刺を見るなり、突然こんな言葉を発した。
「柏崎美沙って、ひょっとしてミサちゃん?昔、錦町に住んでいた?」
「えっ、えぇ、実家は錦町ですけれど」
「うわぁ、やっぱりそうだ。懐かしいなぁ。覚えていないかな?オレだよオレ、チーにぃだよ」
オレだよオレって、オレオレ詐欺?でも、チーにぃという言葉の響きには懐かしさを感じる。一生懸命記憶をたぐるが、なかなか出てこない。
「まぁ忘れるのも無理はないか。ミサちゃん、お兄ちゃんがいたろう。五歳上の」
確かに私には五歳上の兄がいる。小さい頃は両親が共働きだったため、兄がよく私の面倒を見てくれていたものだ。そういえばそのとき、兄の同級生ともよく遊んでいた記憶がある。えっ、その時の同級生がチーにぃじゃなかったっけ?
「あーっ、兄の同級生の?」
「それがオレ。小学生の頃はよく一緒に遊んでいたよなぁ」
チーにぃのこと、徐々に思い出してきた。確か、よく私に駄菓子を分けてくれた人だったなぁ。兄はどちらかというと独り占めする方な上に、ケチんぼでおやつを奪う方だった。けれど、チーにぃは自分のおやつを私にくれていた。さらに、遊びの時も小さい私におもちゃを与えてくれたり、鬼ごっこの時もわざと負けてくれたりと、兄よりも兄らしい人だった。
けれど、チーにぃのところって、そんなに裕福じゃなかった記憶がある。うちの社長はチーにぃの父親にお世話になったとのことだが。
「チーにぃ、すごいね。でも、お父さんとうちの社長が知り合いだって聞いたんだけど」
相手がチーにぃと分かった途端、急に馴れ馴れしい言葉遣いをしてしまう自分がいる。私、今までも恋人になった人とはこんな感じだった。表ではビジネスチックに、裏では甘えるというギャップを見せるのが私流の恋愛のやり方だから。
「そうなんだよ。父はコンサルタントをやっていてね。オレが二十歳になった頃にようやく日の目を見ることができて。私塾なんかも開いて、社長さんはその時の塾生だと聞いているよ」
なるほど、チーにぃってもともと金持ちのボンボンってわけじゃないのか。なんか安心したな。
「ところでミサちゃんは結婚は?」
「えー、私?まだ独りなんだよね。チーにぃはもう結婚してるんでしょ?」
「いや、これがまだなんだよ。仕事、仕事に明け暮れて、彼女をつくる時間もなかったからなぁ」
そうなんだ。ここで今までの私だったら、ちょっと金持ちの独身社長を恋人にでもしようかという考えが湧くのだが。なぜだか今日はそんな気になれない。相手がチーにぃだから、というのもあるのだろうけれど、今までとは違う感情が湧いてきている。何、この感情は?
残念ながらチーにぃとの時間はここまで。別の人から呼ばれて、挨拶回りに勤しむチーにぃ。そりゃそうだ、今日は新会社設立のパーティーなんだから。私が主役を独り占めするわけにはいかない。
チーにぃが新しく立ち上げた会社は、介護分野に特化したコンサルティングと人材育成の会社。そこに派遣業務もついてくるという。これからの時代に必要とされる会社なのは間違いない。介護分野に特化したというのは、なんだかチーにぃの人柄が出ているな。
翌日、社長に昨日のパーティーの報告をしたが、先方の社長が兄の同級生で幼馴染であったことはあえて伏せておいた。
「彼はやり手だから、関係は持っておきたいな」
チーにぃと関係を持っておきたい。社長のその言葉に私は別の意味を感じていた。昨日、チーにぃが突然私に聞いてきたこと、それは「結婚をしているか?」。これはどういう意味だったのだろう?
チーにぃは独身だという。つまり、結婚相手を探しているのは間違いない。でも、いきなり再会した、自分の妹みたいな女性にそんな意識を持つだろうか?単なる社交辞令的な意味合いで、このことを聞いてきたのだろうか?私の頭の中がグルグルと回り始めた。
今まで何人もの男性と付き合ってきた。自分で言うのもなんだが、私は恋愛の達人、スペシャリスト。どうすれば男性にモテるのか、どんな対応をすれば私の言いなり、奴隷になるのか、そういったテクニックを駆使して今まで生きてきた。その結果、私にいろんなものを貢いでくれる男たちがたくさんいた。私はその見返りに、彼らに至福のときを与えていた。
じゃぁチーにぃに対しても、それができるのか?いや、できない。これはどうして?自分でもわからない。
「美沙、今日はなんだか変よ。どうしたの?何か悩み事でもあるの?」
同僚の美久からそんな言葉をかけられた。私の迷いが周りにもわかっているようだ。私、一体どうしたの?
そんな状態に陥っている私。こういうときは無性に飲みに行きたくなる。誰か誘える人はいないかな。この思いを誰かに吐き出してみたい。
でも、誘える女性はいない。今まで自分の時間は、ほとんど男性と過ごしてきたから。唯一話せるのは同僚の美久だけだが、彼女は家庭持ちで夜付き合えるような感じではない。
じゃぁ、誰か男性を誘えばいいじゃないか。そう思うんだけど、これもまたいないのが実情。だいたい一人の男性と付き合い始めると、他の人とは遊びに行かない。そのせいで、たまに独りぼっちの時期がある。こういうときは行きつけのバーに出かけて、男性あさりをすることもあるのだが、なぜかその気になれない。
ふと気がつけば、私って本当に独りぼっちなんだな。私の人生、こんなのでいいのだろうか?
「美沙、ホントに大丈夫?」
美久にだけは話してみようかな。でも、今はまだ仕事中だし。私は仕事とプライベートはきちんと分けている。職場にプライベートは持ち込まない主義。でも、モヤモヤした気持ちはおさまらない。
「ねぇ、少しだけ聞いてもらってもいい?」
美久になら話せるかな。でも、デスクじゃダメだから会社のランチルームへと移動して話をすることにした。
我が社のランチルーム、ここは単なる社員食堂とは違う。社長が働く人に居心地の良い場所を与えたいということで、カフェテラス形式になっている。お客様との打ち合わせもここでやっているが、とても評判がいい。あとはここで飲むコーヒーの味がもっとよければいいのだが。
「で、どうしたの?」
「うん、実はね…」
美久に昨日のパーティーのことを話した。そしてチーにぃのことも。
「でね、なんだか変な気持ちなの。これってなんなんだろう」
すると美久、ふふふと笑い出した。
「なによ、急に笑い出して」
「いやいや、恋愛にかけては右に出る人がいないと言われるくらい、様々な男性とお付き合いしてきた美沙が、ようやく本物と出会ったのかと思うとおかしくて」
「本物に出会ったって、どういうことよ?」
「美沙、まだ自分で気づいていないみたいね。あなた、やっと本当の愛に目覚めたのよ」
「本当の愛ってどういうことよ?美久も知っていると思うけど、私は今までたくさんの男性と恋愛をしてきたのよ。愛なんて何度も経験したわ」
すると美久、人差し指を立てて左右に振る。
「チッチッチ、それは愛じゃないの。今まであなたがやってきたのは恋なのよ」
「恋と愛って違うの?」
愛と恋の違い、そんなことを考えたこともなかった。そもそもそれって同じじゃないの?そう思っていた。
「私の高校の時の先生がその違いを教えてくれたんですよ。あ、そうだ。その先生のところに行ってみませんか?」
「先生って、私が高校に乗り込むわけにはいかないでしょ」
「実はその先生、今喫茶店を開いているんです。とても面白い喫茶店ですよ。ちなみにその先生、私の後輩になる女の子と結婚しちゃったんです」
「へぇ、さぞかしカッコいい先生なんだね」
「いやいや、実は四十代半ばで、完全なおじさんなんですけどね」
美久は笑いながらそう言う。でも興味が湧いてきた。そんなおじさんが美久よりも若い女の子と結婚しただなんて。よほどその先生に魅力があるに違いない。実はそっちの意味で興味が湧いたのは確かだ。
「カフェ・シェリーっていう喫茶店なんです。土日も営業しているから、ぜひ行ってみるといいですよ。私から先生に連絡しておきましょうか?」
そこまでは、と一瞬迷ったが、見ず知らずのお客さんよりも知った人を経由した方が相手とお近づきになりやすいのは確かだ。
「じゃぁ連絡お願い。今度の土曜日にでも行ってみるから」
「はい、わかりました」
カフェ・シェリー、どんな喫茶店でどんなナイスミドルが待っているのだろう。頭は完全にそちらの方に向いてしまっている。
そうして迎えた土曜日。美久に教えてもらったお店に足を運んでみた。
「ここか」
入り口には黒板の看板が立っている。そこにはこんな文句が書かれてあった。
「奪うよりも与えることができると、本当の幸せにたどり着きます」
奪うよりも与える?私は多くの男性に愛を与えてきたつもりだ。でも、まだ本当の幸せにはたどり着いていない。これ以上、何を与えればいいのよ。
そう思いながらビルの階段を上っていく。お目当のカフェ・シェリーはここの二階にある。
カラン・コロン・カラン
扉を開くと、心地良いカウベルの音。同時に漂ってくるコーヒーの香り。その中に甘い香りも含まれて、なんだかいい気持ちになれる。
「いらっしゃいませ」
聞こえてくるのは若い女性の声。少し遅れて渋くて低い男性の声でも同じ言葉を耳にする。あ、この人だな、美久が言っていたのは。私はすぐに声の方を向く。
カウンターに立っていたのは中年の男性。私が思っていたのとは違っている。もう少し背が高くて、スラリとした感じを思い描いていたのに。実際はガッシリした体つき。
「期待してたのとは違うな」
心の中でそうつぶやいた。
「あの…柏崎美沙といいます。会社の同僚の美久から紹介されて来たのですが」
すると、先に反応したのはとても可愛らしい女性店員の方だった。
「あ、美久先輩の。聞いてますよ。ぜひカウンターへどうぞ」
とてもハキハキした、いい感じの女の子だな。私とは違うタイプで、これはこれでモテそうな感じがする。
「いらっしゃいませ」
改めて男性とカウンターを挟んで対峙する。声は渋くていい感じだな。
「なんでも恋愛について悩んでいるとか」
「まぁ、そうなんですけど。美久が言うには、やっと本当の愛に目覚めたんだってことらしいんですけど。私、今三十二歳なのですが、今までたくさんの恋愛経験はしてきました。でも、今回出会った、というか再会した方とは初めての感覚なんです」
「初めての感覚、ですか。ちなみに差し支えなければでいいのですが。今までどのような恋愛をされてきたのですか?」
このマスター、さすが元先生だな。私の思いを引き出すのがとても上手だ。話していて安心感がある。私はマスターに全てを委ねる形で、かいつまんで今までの恋愛経験を語った。もしかしたら自慢話に聞こえたかもしれない。
「なるほど、様々な恋愛をされてきたのですね。私ではとても体験できないですよ。人生を謳歌されていますね」
マスター、落ち着いて私の話に反応した。こういう反応も初めてだ。今までなら驚かれたり、羨ましがられたり、逆に疎まれたり。人生を謳歌、なんて言葉は初耳だ。
「そういえばマスターは教え子さんと結婚されたと聞いていますが」
「はい。そういう意味では柏崎さんとは違った恋愛経験をしていますね。あそこにいるのがウチの妻です」
そう言って指差したのが、フロアの奥でお客さんと話をしている女性店員。これには驚いた。申し訳ないけれど、月とスッポンとはこのことだな。
「マスターも隅に置けませんね。教え子に手を出すだなんて」
「いやいや、さすがに学生だった頃は手を出していませんよ。彼女が卒業して、色々と一緒に行動するようになってから気になりはじめまして。その後、彼女が大学に在学中に正式に付き合いはじめ、大学卒業後に結婚しました」
「それこそ、私には体験できないな。マスターも人生を謳歌していますね」
「はい、ありがとうございます。おかげで念願だった喫茶店のマスターをさせていただいています」
そうなんだ。なんだか羨ましいな。
「ところで、愛と恋の違いってあるんですか?美久からこのことを言われて、このお店を紹介されたのですが」
「愛と恋の違い、ですね。教師時代によくこのことは話していたものです。そうですね、その違いをお話しする前に、よかったらウチのオリジナルブレンドを味わってみませんか?そうすると、さらにこの話が理解されると思いますよ」
コーヒーを飲むと話が理解できるってどういうことだろう?まぁいい、せっかく喫茶店に来たのだから、美味しいコーヒーを飲まないって手はない。
「そうね、じゃぁお願いします」
「かしこまりました」
マスターは先程までのにこやかな顔つきから一転、コーヒーと向かい合うと急にキリッとした顔に変わった。その表情に、急にキュンと心が動いた。あ、これこれ、毎回男性と向き合うときに感じるのは。私、急にマスターに恋をしてしまったみたい。
でも、どうしてチーにぃと向き合った時にはこの感覚が湧き起こってこなかったのだろう?今までとは違う、別の感覚だった。その正体を突き止めに、今日はこの喫茶店にやってきたんだ。
しばらくマスターがコーヒーを淹れるところを眺めていた。こういう男性の姿がいいのよね。惚れてしまいそう。
「おまたせしました。シェリー・ブレンドです。飲んだらぜひ、どんな味がしたのか教えてくださいね」
どんな味って、コーヒーなんだからコーヒーの味に決まってるじゃない。変なことを言うマスターだな。そう思いつつ、早速コーヒーカップに手を伸ばす。
うん、すごくいい香りがする。女性も男性も、相手の香り、フェロモンに惹かれて相手を選ぶなんて言われている。確かにそれはあるだろう。あ、そうか。コーヒーを淹れている時のマスターに惹かれたのは、このコーヒーの香りのせいかもしれない。
なんてことを思いつつ、コーヒーを口に入れる。うん、美味しい。今までいろんなコーヒーを飲んできたけれど、これは格別なものだ。でも、どこかでこの味を体験したことがある。どこだろう?
この時、ふと脳裏に浮かんだのは子どもの頃。チーにぃに遊んでもらっていた、あの時の光景が頭に浮かんできた。すごく温かみのある、そして頼り甲斐がある、全てを任せても大丈夫という安心感。
そうか、チーにぃが今まで付き合ってきた男性たちと違うのはここだ。私という存在を委ねても大丈夫という、その安心感が他の男にはなかった。いつもドキドキ、ワクワクだけで付き合ってきたんだ。
「お味はいかがでしたか?」
マスターの言葉でハッと我に返った。そうだ、私今喫茶店にいるんだった。
「あ、とても美味しかったですよ」
「他に何か感じられませんでしたか?」
「はい、なんだか懐かしい味がしました。それで昔のことを思い出してしまいましたよ」
「昔のこととは?」
「実は、今回ここにくるきっかけになった人とのことです。私、小さい頃に遊んでもらった男性がいるんです。兄の友達で、その人と先日再会したんです。その人に対して、今までの男性とは違う感じを受けました」
「違う感じ、ですか。具体的にはどんな感じだったのですか?」
「うーん、私という存在を任せても大丈夫という安心感、ですね。今までの男性に求めていたのはドキドキ感で、恋愛をしているって感じだったんですけど」
「なるほど。それで愛と恋の違いなのですね」
「マスター、それってどういうことなんですか?愛と恋って何が違うんですか?」
「まさに柏崎さんが今感じたこと、それが愛と恋の違いなんですよ」
まだわからない。首を傾げているところに、女性店員が私のところにやってきた。
「愛と恋の講義をしているの?マスター、それ教員時代の定番ネタじゃない。懐かしいなぁ」
「マスターは高校生を相手に、そんな講義をしていたんですか?私にもぜひ聞かせてくださいよ」
高校生が理解できて、恋愛経験豊富な大人の私が理解できていないなんて。ちょっとプライドに傷がついてしまう。
「わかりました。じゃぁマイ、クッキーを一枚持ってきてくれ」
「はい」
すると店員さん、少し大きめのクッキーをお皿に乗せて持ってきた。
「ここに一枚のクッキーがあります。これは私のものだとします。柏崎さん、このクッキーを食べてみたいと思いますか?」
「そうね。美味しそうなクッキーだから食べたいなって思います」
「じゃぁ、食べるためにどうしますか?」
「そうですね。マスターにこのクッキーを分けてくださいってお願いするかな」
「でも、私もこれが食べたいんです。そう簡単には渡せませんよ」
「じゃぁ、交換条件を持ち出すかな。お金を渡すとか」
「お金が無い時にはどうしますか?」
「うぅん、そうですね」
ここで脳裏に浮かんだのは、お色気作戦である。男なんてちょっと私がサービスするだけで、ホイホイ何でも言うことをきいてくれる。でも、まさか今それをやるわけにはいかない。何しろマスターの奥さんが見ているんだから。
「さて、どうしますか?」
「うぅん、何かの交換条件を提案するかなぁ」
あえてこちらのお色気とは言わない。交換条件という言葉にしてみた。
「つまりギブアンドテイク、ですね。それも一つのやり方です。では、相手が無条件にこのクッキーをどうぞ、と差し出してきたら?」
「それはありがたい話ですよね。でも、そんなことをされたら何かお返しをしなきゃと思っちゃいます」
「そうですね。けれど、相手はお返しなんかいらない。そういう人だったら?」
「それはありがたいけれど。でも、そんな人っているんですか?一枚しかないクッキーを気前よく私にくれるなんて」
「柏崎さんは子どもの頃、そういう人に出会っているはずですよ」
「えっ、子どもの頃?」
その言葉でハッと気づいた。そうか、チーにぃだ。チーにぃは私に対して、無条件にいろんなものを与えてくれた。私は特にチーにぃに見返りを差し出したことはない。
「お気づきになったようですね。そういう人の精神はギブアンドギブ。とにかく相手にいろんなものを与えてあげます。だからといって見返りを要求するわけではない。これが愛なんです」
ギブアンドギブ、それが愛。なるほど。
「じゃぁ、恋は?」
「恋はギブアンドテイクとも言えます」
「恋はギブアンドテイク?どういうことなんですか?」
今ひとつ意味がわからない。するとマスターはにこりと笑って、こんな話をし始めた。
「恋をしている時って、今のこの時間を失いたくない。だから相手にいろいろなことをしてあげたいと思うんです。プレゼントをしたり、一緒に食事をしたり、そして快楽を与えたり、と。つまり、失いたくないということは自分の欲求を満たしたいということになります。これが恋なんですよ」
「そんなことはありません。私はいくつもの恋をしてきましたけれど、その時はちゃんと相手のことを考えていました。自分の欲求を満たしたいだけじゃありません」
ついムキになって反論してしまった。けれど、私の反論にも関わらずマスター、笑顔を崩さずにこう述べてきた。
「確かに、相手のことを考えていますよね。ではその時の自分ってどうだったでしょうか。ひょっとしたら、相手のことを考えていることで自分を満たしていませんでしたか?相手のことを考えている自分自身に酔いしれていませんでしたか?」
そう言われてドキッとした。その通りだったからだ。私って、こんなに健気に尽くす女性なんだから、と自分に酔っていた。それは否定できない。
「じゃぁ、愛はどうなんですか?」
「愛は先ほどもお伝えした通り、与え続けるものです。自分になんらかの見返りを求めるものではないんです。相手のためだけを考えて、自分ができることを与える。これが愛なんです。ちなみに愛は何も男女間だけに生じるものではありませんよ」
「えっ、男女だけではない?」
「思い出してみてください。柏崎さんはご両親から、いっぱい愛情を注がれて今まで生きてきたのではないでしょうか。特に子どもの頃、いろんなものをご両親から与えられ続けたはずです」
両親が私にやってくれたこと。確かに、ちゃんと学校に行かせてもらい、毎日食事を作ってもらい、私のわがままを聞いてくれていた。
「それが無償の愛です。ご両親は何か柏崎さんから見返りを求めようとはしていなかったでしょう。親子愛もあれば師弟愛、隣人愛、奉仕の愛など、愛にはいろいろな形があります。そしてもちろん、夫婦愛も」
だんだんとわかってきた。ということは、子どもの頃にチーにぃが私にやってくれたこと、これも愛の形の一つなんだ。私はそのことを無意識に感じていた。だからチーにぃには他の男性とは違う感情が湧いてきたんだ。でもここで一つ疑問が湧いてきた。
「でも、与え続けたらいつかは持っているものがなくなっちゃうんじゃないですか?だから、やっぱりどこかで補充することも必要じゃないかって思うんですけど」
この私の疑問に答えてくれたのは、奥さんである店員さんの方だった。
「愛の泉って、枯れることはありませんよ。むしろ、与えれば与えるほど、相手を満たせば満たすほど愛が溢れてくるんです」
「愛が溢れてくる?」
「はい。これは与えることができた人しか実感できないでしょうけれど。与え続けることができる人は、常に幸せを感じることができるんです。私もそれを感じることができたから、マスターと結婚したんですよ」
マスターの方を見ると、少し照れ笑いしていた。この夫婦、お互いに愛し合っている、つまりお互いを満たしあっているんだなっていうのを感じることができた。
じゃぁ今までの私はどうだったのだろうか。私は相手を満たしているつもりだった。けれどそれは見返りを求めていた。つまり、相手から奪うことしか考えていなかった。
相手に与えて相手を満たすのが愛。相手から奪って自分だけを満たそうとするのが恋。これが愛と恋の違いなのか。
「わかりました。私、今まで恋だけを求めていたんですね」
「人は誰でも、最初はそうですよ。私もマスターに出会うまでは、恋しか見えていませんでしたから。でも、マスターは私に愛を与えてくれました。そこに気づいた時、私もマスターに対して愛を与えることができるようになったんです」
なんかいい話だな。私もそうなりたい。
「もしよろしければ、もう一度シェリー・ブレンドをお飲みになってみてください。きっと今心から欲しいものがわかると思いますよ」
マスターの言葉にうなずき、私は冷めたコーヒーを口にする。どんな味がするんだろう。
すると、さっきと同じ懐かしい味がした。けれど、ちょっと違う。今度は頭の中で私とチーにぃが手をつないでいる光景が浮かんできた。今まで愛したと思っていた男性たちとは違う。心の安らぎ、これがある。私が今欲しいのはこれだ。
「マスター、わかりました。私、本当の愛を求めてみます。本当の愛で与えることをやってみます」
「ぜひそうしてみてください」
にこりと笑ったマスターの顔。そこにチーにぃが重なって見えた。
お礼を言って店を出る。さて、早速行動を起こしてみるか。幸いに、私はチーにぃの連絡先はわかっている。早速電話をしてみる。果たしてチーにぃは出てくれるだろうか?
「はい、大森です」
チーにぃの声だ。この声を聞いた瞬間、なんだか安心感を感じた。あの懐かしい記憶が一瞬にして蘇ってくる。
「あ、あの、柏崎です」
「あー、ミサちゃん」
電話口の向こうの声が、私からの電話を喜んでくれたのを感じた。
「この前はパーティーに来てくれてありがとう。久しぶりに会えて嬉しかったよ」
「私も、チーにぃに会えて嬉しかったです」
「今日はどうしたの?」
「あ、あのとき、あまりゆっくり喋ることができなかったから。だから…」
美沙、どうしたの?いつも男を手玉にとる私が、どうしてこんなにしおらしくなっちゃったの?
「そうだったね。いやぁ、ミサちゃんからそうやって電話してくれるなんて、とても嬉しいなぁ。ミサちゃん、今日はこれから予定は?」
「いえ、何も…」
「だったらもうすぐお昼だし。どこかでご飯一緒にどうかな?」
「はいっ、喜んで」
反射的に心の奥から先に出てきてしまった返事。言ってしまって自分でも驚いた。
三十分後に、待ち合わせのメッカである駅前の噴水のところで、ということになり慌てて近くの百貨店に飛び込む。化粧直しをするためだ。
胸がドキドキしてきた。久しぶりの恋の感覚だ。でも今までの恋とは違う。
鏡を見る。私、今までとは違う。今まではいかにして相手から奪って自分のものにしようか、そこばかりを考えていた。どうやって男から貢がせるか。男の持っているものを自分のものにするか。そこばかりを考えて恋愛をしていた。
でも、チーにぃから何かを奪おうという気持ちは全くない。むしろ、幼い頃から私に愛を与えてくれたチーにぃに対して、今度はどうやって返していこうか、何を与えていこうか、そこばかりが頭に浮かんでくる。
これこそが本当の恋であり、本当の愛なんだ。愛の泉は枯れることがない。与えれば与えるほど、どんどん愛が溢れてくる。それを実感してみたい。
「美沙、行くよ!」
小さく鏡の前でつぶやいて、私はいざ待ち合わせの噴水へと足を向けた。
時間は待ち合わせの五分前。ふと前に目をやると、すでにチーにぃの姿があるじゃない。前回はビシッとしたスーツ姿だったけれど、今日はラフなチノパンにジャケットという出で立ち。なんか胸がドキドキしてきた。
「お待たせしました」
「あ、ミサちゃん、今日は来てくれてありがとう。まさか誘いに乗ってくれるだなんて、思ってもみなかったよ。嬉しいなぁ。こんな美人と一緒に食事ができるだなんて」
チーにぃ、さらりと嬉しいことを言うなぁ。
「さぁて、どこに行こうか?」
今までの彼氏とだったら、ホテルか一流シェフのいるお店のランチというのが定番だった。それを当たり前のように要求していた私がいた。でもこれは「奪うこと」。チーにぃにはそれが言い出せない。
「チーにぃは何が食べたいの?」
「うーん、そうだなぁ。知り合いのお店なんかどうかな。イタリアンのお店なんだけど、ここのマスターが陽気で、値段も手頃だし。きっと気にいると思うよ」
「じゃぁ、チーにぃに任せるね」
ここから歩いてそのお店へと向かう。その道中、チーにぃは私にいろいろなことを訪ねてきた。兄は今どうしているか、とか趣味は何か、さらには今の会社の仕事はどんな感じか、など。当たり障りのないことばかりではあるが、私が一つ答える度に
「へぇ、そうなんだ。それはいいね」
なんていう言葉を返してくれる。また、私が話したことに関連してチーにぃ自身のことも語ってくれる。おかげで話も弾んであっという間にお店に着いたって感じ。
「ここだよ」
着いたのは街中にある小さなイタリアンレストラン。特に小洒落た感じでもなく、普通のお店って感じ。今までの私なら入ることはないな。
「いらっしゃいませ。おぉ、大森さん。あれっ、今日はデート?珍しいじゃない、大森さんが女性を連れてくるなんて」
とても愛想のいい、賑やかなマスターだ。今のセリフから、チーにぃには本当に彼女がいないってことがわかった。
「この子はオレの幼馴染の妹さんでね。ミサちゃんっていうんだ。小さい頃はよく一緒に遊んでいてね。先日パーティーやったろ。あの時に取引先の社長秘書としてやってきて、何年かぶりに再会したんだよ」
「そうなんですね。初めまして、大森さんにはいつも来ていただいてお世話になってます。このお店のオーナーでシェフをやっている青木といいます。小さなお店ですけど、味には自信があるので、ぜひ食べていってくださいね」
青木さん、とても人懐こそうな人だな。とりあえずテーブルに座り、メニューを眺める。
「ランチメニューがおすすめだよ。サラダとスープ、デザートも付いてくるからね。それで千円っていうのはなかなかだよ」
OLのランチとしては若干高めでではあるが、今までのデートだと最低ランクの価格。いや、それ以下かもしれない。でも、今はそんな気がしない。チーにぃだけでなく青木さんの雰囲気がそれを感じさせてくれている。
「じゃぁ、このクリームパスタのランチをお願いします」
「はい、クリームパスタランチですね。大森さんはどうしますか?」
「オレはいつものカツカレーランチで」
「カツカレーランチですね。でもいいんですか?ウチのカレーはニンニクがたっぷり入ってますよ」
青木さん、ここでニヤリと笑う。それが何を意味するのか、私にはわかった。が、チーにぃは「なんで?」という表情。まったく、チーにぃはこういうのには鈍感なんだな。でも、そこに可愛げを感じる。
「ここのマスター、面白い方ですね。おしゃべりするだけで笑顔になれちゃうな」
「そうでしょ。だからオレもここに通っているんだよ。マスターには愛を感じるからなぁ」
愛を感じる。今ならこの言葉、素直に受け止められる。確かにマスターと話をすると、心が満たされる。マスター、お客さんからお金を奪おうなんていう、悪徳商売人のようなことは感じられない。むしろ、自分が損をしてもいいからお客さんを満足させてあげたい。そんな人のように思える。
そうか、そういう人は逆に多くの人から愛されることができるんだ。だからチーにぃもこのお店が大好きなんだな。
「ところでミサちゃん、唐突に聞いちゃうけど」
チーにぃ、突然姿勢を正して私の目をしっかりと見つめてきた。
「はいっ」
私も思わず緊張してしまう。何を尋ねられるのだろう?
「ミサちゃんは結婚はしていない、ということだったけど。今、付き合っている人はいるんですか?」
チーにぃ、急に丁寧語になる。この言葉が何を意味するのか、私には伝わってくる。
「今は…今はいません」
「だったら、だったらオレと…」
ここで言葉に詰まるチーにぃ。さっきまで私の目を見つめていたのに、今度はモジモジし始める。もう一言、ちゃんと言って。期待を込めて待つ。
ここでふと、マスターの言っていた「愛」を思い出した。「愛」とは与えるもの。相手からの見返りを期待するのではなく、一方的にどんどん与えるもの。
だったら今こそ、私は愛をチーにぃに与えるべきじゃないか。小さい頃、チーにぃは私に愛情を注いでくれていた。今度はその愛に応える時じゃないか。
私はテーブルの上に置かれたチーにぃの両手を優しく包み込んだ。そして心からの笑顔でチーにぃを見つめる。安心していいの、私はチーにぃの言葉を受け入れるつもりで、今ここにいるのだから。そんな気持ちを込めた笑顔を送った。
するとチーにぃ、落ち着きを取り戻した。
「ミサちゃん、オレと付き合ってくれないか」
今度は落ち着いて、私の目を見てそう言ってくれる。チーにぃの優しさが、そして愛が伝わってくる。
「はい、お願いします」
その瞬間
「おめでと〜!」
青木さんが突然割り込んできた。これにはびっくり。
「大森さん、やったじゃん。よかったねー。いやぁ、散々悩んだ甲斐あったね」
「だめ、それ言っちゃダメだって!」
チーにぃ、口に人差し指をあてて慌ててる。
「もういいじゃない。大森さんね、あなたに会った翌日にこの店に来てオレに相談してきたんですよ。幼馴染の子に久しぶりに会ったんだけど、すごく綺麗になっていて。なんとかして付き合いたいんだけど、どうすればいいかなって。だから言ってやったんです。とにかく押していけって。大森さん、ビジネスになるとガンガン押していくのに、恋愛になると急におとなしくなるんだから」
青木さんの言葉に、なんだか微笑ましくなってしまった。チーにぃ、青木さんのこと信頼しているんだな。あ、なるほど、これも愛の形の一つなんだ。青木さんはチーにぃに愛を与えている。だからチーにぃもこのお店に来て、青木さんの料理を食べることで愛を与えている。どちらも奪うことはない。
「愛は相手を満たすもの、か」
「えっ、ミサちゃん、今何か言った?」
「ううん、なんでもないの。チーにぃ、ありがとう」
「ありがとうって、そう言いたいのはこっちだよ。こんなオレと付き合ってくれるだなんて」
「そうだよ、大森さんにはもったいないよ。考え直すなら今だよー」
青木さん、茶目っ気たっぷりでそう言う。これがもちろん冗談なのはわかっている。
「そうねー、じゃぁ考え直して、クリームパスタをやめて私もカツカレーにしようかな」
「エェッ、もうパスタ茹でちゃってるよー」
「ウソウソ、私はクリームパスタがいいの。そしてチーにぃがいいの」
「ハハハ、大森さん、彼女なかなか言うじゃない」
こうしてお店は笑いに包まれた。うん、これが愛なんだ。愛って男女の間だけじゃなく、いろんなものに向けられるものなんだ。恋だとどうしても男女だけの間のこと。そして、自分を満たすために相手のものを奪ってしまうかもしれない。これではいつまでも相手とのゲームを繰り返すだけ。
愛は違う。相手を満たすためのもの。それがお互いの幸せに通じてくる。今、ここでみんなが笑い合えるように。
これからチーにぃと愛を育んでいきたい。そして満たしあって幸せになろう。
<奪う者、満たす者 完>