商売をする人間にとって「戦争」とは、最もこの上なく儲かる「ビジネス」である。
南太平洋に浮かぶとある島。
その規模は決して大きくはないが、大富豪たちの避暑地としては十分な規模だった。
そう、表向きでは。
島で一番小高い丘にそびえる、大富豪の館、そこでは多くの商人たちが談話している。
「ほう、帝国軍をわざと抜けさせて、打撃を与えるとな?」
その談話の一部を聞いた白髪が似合う豪商、アフレッド・スーフィリアが耳を傾けた。
「はい。 我が商会のエージェントが手にした情報を、同盟軍が高く買い取ったおかげで、作戦が立案できたと」
商会を名乗る団体長身男性メンバーの一人、ギース・ウヴァルが確かな報告をする。
「わたくしが、帝国に同盟軍士官学校の卒業試験情報を売ったから、こう言う戦争が楽しめるのではなくて?」
その場にいた妖艶な女性、ナリア・フォン・シレーヌがせせら笑う。
「しかしながら、我が商会が作り上げる兵器群が飛ぶように売れたのも、情報売買部が活躍してくれたおかげですな」
ワイングラスをくるくると回す小太りの中年男性、マギアード・ヘリオスが陽気に笑った。
どうやら彼らは両軍に兵器を売るどころか、情報までも商品としているようだ。
「そうですな。 我らは、戦争と言う最も儲かるビジネスで成り立っていますからな」
アフレッドは、そう言いながらドンペリを口に含む。
「VDの製造状況は?」
「ようやく生産体制に入りました。 両軍が万が一和睦に入った時に備えて着実に進めております」
マギアードの質問に、秘書が答えた。
「しかし、両軍が和平交渉に入られたら、我らの意義は失われたも同然。 その為にも、戦争は続けて欲しいですな」
アフレッドは、ドンペリで喉を潤すと、座っていたソファから立ち上がる。
「中立国やPMCへの納品状況は?」
SP達にアフレッドは、こんな質問をぶつける。
「今月納品する機体や、武装なども手はず通りに。 来月は嵐が起こりそうですから、より一層潤沢になることでしょう」
「我らは、戦争と言う最もこの上ないビジネスをしているのですから」
SP達がそれに答える。
「旦那様、エージェントたちが珍しい情報を入手したと」
侍女らしき女性が、アフレッドに報告する。
「どんな話かね?」
興味津々に耳を傾ける。
「それは……」
侍女が語る話に、
「これは中々、愉快な話ですな!」
「これを帝国に売れば、更なる利益が見込まれて?」
「帝国側の情報を同盟に売り渡せば、もっと見込まれますぞ!」
この場にいた人々が歓喜した。
アフレッドが軽く咳払いする。
「諸君、これからだよ。 これからが我ら《ギガノマギア通商連合会》の稼ぎ時だ」
この言葉によって、
「その通りでありますわ」
「燃料や弾薬も、売りまくりましょう!」
マギアードとナリアが気を引き締め、
「我らこそが、この戦争を牛耳る神の使者!」
「巨万の富を得れば、我らの暮らしは安泰ですぞ!!」
他の商人たちも大いに喜んだ。
この日、彼らは来月3日始まる新たな戦争に備えて、商品やサービスの準備に勤しんだ。
その日の夜、アフレッドは自宅に商人仲間を集めて、盛大なパーティーを開いた。
「アフレッド様、今宵はわたくしと踊らなくて?」
「いいえ、今宵こそはわたくしがお似合いですわ!」
華やかなドレスを纏った女性たちが、アフレッドを巡って口論する。
「落ち着き給え。 このような場で喧嘩は良くありませんぞ」
アフレッドがこの場をなだめながら、バルコニーへと赴く。
「よろしいのですか? 旦那様」
そこには、漆黒のスーツを纏った凛々しい顔立ちの男性が待っていた。
「勿論だとも。 君たちが働いてくれたおかげで、小規模だった我らもこんな規模になったよ」
アフレッドは、その男の質問に答えながら、グラスのワインを飲む。
果たして、彼らは何をもたらすのか?
戦争小説に於いて、商人と言う存在は、斬っても切れない関係ですよね。
彼らの背後にいる謎の男は、物語の重要な鍵を握る存在です。
その辺りにも、期待してください!!