嵐の前の静けさ、林のごとく
「諸君! 君たちに重要な知らせがある!」
この日、教官は訓練生たちに重大なことを話し始める。
「いよいよ来月3日は、この極東士官学校卒業試験である!」
その発言に、悟たち訓練生は大いに湧き立つ。
「しかし! 卒業試験だからと言って、タカをくくられては困る! 何しろ我が極東士官学校の卒業試験は、実際の戦場にて行う! すなわち、この試験に落ちれば死を意味するのだ!」
その発言に対し、訓練生たちはどよめき始めた。
無理もない。
卒業をかけた試験が実戦である以上、それなりの覚悟を持って臨まなければならない。
さもなくば、死へと直結するが故に。
この試験が如何に死と隣り合わせの戦場で行われる理由は一つ。
一人でも多くの優秀なパイロットを選出するためだ。
優秀なパイロットを選出する最も手っ取り早い方法だが、それが戦場と言うのは流石に酷であり、市民からも改善を求める声が上がっている。
だが、それは一部の少数派意見であり、多数派はこの選別はやむを得ないと主張している。
どちらにしろ、軍と言う物は国に左右されやすい存在である。
「卒業試験内容は後日発表する! それまではみっちりしごいてやるから、覚悟しておけよひよっこ共!!」
「「はい!!」」
悟をはじめとした訓練生たちは、来るべき卒業試験へ向けてさらに気を引き締めた。
これからはさらに厳しい訓練になることを覚悟し、パイロットとして1日でも長く生き延びるために。
一方、漆黒の猟犬は敵がいない山岳の森林で昼食を摂っていた。
彼らが口にしているのは、帝国軍生活環境提供科が支給した凍結乾燥携帯糧食。
「しかし、大尉も良くこいつを口に出来ますな? 他の連中は余りにも不味くて食えたものじゃないと言ってますよ」
漆黒の猟犬でエリアスの補佐を務めるナスカー・アシム中尉は、こんな愚痴を漏らす。
このレーションは、水やお湯を入れて戻すことで口にできるが、遠征中は水が貴重なため、そのまま口にするのがほとんどた。
その状態で食べた兵士たちからは余りにも不評だったらしい。
「仕方あるまい。 こう言う遠征時は水は貴重だ。 それに、私とてこのまま食べるのはどうかと思っている」
エリアスも不満を漏らしていた。
「大尉、敵の哨戒機は現在確認できません!」
「引き続き、警戒を頼む。 5分後にセシムと交代するように!」
「了解!」
哨戒担当の兵士の報告にエリアスは的確な指示を出す。
「さて、これより我が隊は30分後に移動を再開する! 目的地は既に廃墟となった農村だ」
「言いますと?」
「参謀本部から、補給用の輸送機を其処に向かわせていると聞いた。 そこで補給を済ませ、邪魔な種どもをつぶす!」
ナスカーの問いに、エリアスは先ほど入った伝令文の内容を説明した。
「たしかに、遠征用の食料や水が底をつきかけたようですし、有り難いですな」
「しかし、あくまでもここは敵の領土。 輸送機には光学迷彩をかけておくよう伝えてある。 万が一知られたら元も子もない」
「御意に」
漆黒の猟犬は、一時の休息をかみしめることにした。
防衛技術研究所では、新型機の開発について議論が交わされていた。
「この機体こそが、我が同盟軍の希望であり、勝利をもたらす存在であります!」
荒谷博士は幹部たちを前に高らかに声を上げた。
「しかし、それが敵に察知されたら、元も子もないのでは?」
「だが、そうとも限らないぞ?」
幹部たちは意見を出し合い始めた。
その様子を見て、
「やれやれ、お偉方と言う物たちは……。 どうして自らのことしか」
荒谷博士がため息をついた。
遠征時の食料は美味しいらしいですが、作品の中ではどうだろうと考えてみました。
何か変わったことがありましたら、私宛に一言お願いします。
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