序章ACT1
西暦2079年、突如太陽から観測史上最大規模の太陽フレアを伴う太陽風が発生した。
それは、地球上の在らゆす生命を死へと至らしめ、大地は焼かれ、地球は壊滅的な被害を被った。
この惑星規模の被害をもたらしたそれは、太陽暴風と呼ばれ、今後語り継がれていくことになった。
しかし、その太陽暴風は、災厄と同時に、地球上での希望となりうるかもしれない、新たなエネルギー資源をもたらした。
西暦2080年、カスバニオン自治領山岳地帯。
そこでは、登山愛好家が気晴らしにと登山を楽しんでいた。
「エリアス! もう少しで休憩所が見えるぞ!」
登山仲間の一人が、遅れ気味に男に声をかける。
「ああ! でも、太陽暴風直後に山登りなんて、贅沢だよな」
エリアスと呼ばれる男は、息を切らしながら山道を登る。
ふと何かを思い出したのか、
「そう言えば、君のお父さんって、人型作業機械の重鎮だったよね?」
となりにいた登山仲間に、こんな質問をぶつけた。
「そうなんだよ。 実は軍事転用できるかもしれない、凄い奴を作っているんだ! でも、戦争なんて、起こって欲しくないな」
ぼやく彼を見て、
「戦争は必ず起こるわけじゃない。 出来る限りの話し合いで解決しなかった時の手段として戦争が起こる。 戦争も見方を変えれば外交の一つなんだ」
エリアスは悲しげに答える。
「そうだよな。 自由同盟だって、自治領との外交関係がぎくしゃくしているもんな」
小柄な男性登山家が愚痴を漏らす。
現在、災害復興に尽力している『アムレイシア自由同盟政府』は、カスバニオン自治領との外交に貿易摩擦が起きている。
旧欧州諸国との貿易中継拠点として機能してほしいという同盟政府に対し、「我が自治領を植民化する義務はない」として反発しているのが現状だ。
「だけど、平和が一番、だな!」
エリアスが言いかけたその時、
「何だこれは?」
偶然足元に落ちてある、橙に光る石を見つけた。
「綺麗な石だね」
仲間たちが駆け寄った。
「これ、なんて石なんだ? 水晶に近いけど?」
「なにか凄い発見をしたかも、俺たち……!」
仲間たちも、興味津々だった。
「今ここじゃ、解析はできない。 降りて調べてみよう!」
数日後、カスバニオン自治領首都にある公立研究所、エリアスたちは先日拾った光る水晶の解析に没頭していた。
「これは凄いぞ……!」
それは、驚くべき解析結果だった。
「これは、核融合炉を軽く超えるエネルギー含有量だ!」
その水晶は、どうやら太陽暴風によって生み出された高エネルギー結晶体であることを突き止めていた。
「この結晶体、コロナストームが生んだ新たな恵みだから、名前はどうするの?」
登山グループの女性メンバーが無邪気に訊ねた。
「そうだな。 でも、名前はもう決まっているんだ」
「どんな名前?」
この日、カスバニオン自治領で若き研究者たちが発見した高エネルギー結晶体は、「コロナクリスタル」と名付けられた。
記者会見で、エリアスはコロナクリスタルは世界各地で眠っているという発言が話題を呼び、自由同盟はコロナクリスタルの分配供給と平和的な利用法の模索を開始した。
しかし、その政策はカスバニオン自治領の更なる反発を招く事になる。
それから半年後、世界は大きな戦乱期を迎えた。
突如として自由同盟諸国のネットワーク回線に介入してきた動画メッセージが世界を震撼させた。
「自由と平和に生きる愚者共に告ぐ! 我らは、大カスバニオン帝国! 平和を滅ぼし、世界に新たなる秩序をもたらす者だ!!」
この作品は、前に書いたショートショート「名もなき戦士」の経験を踏まえ、さらに新しい要素を加えて書いてみた作品です。
まだまだ粗削りですが、よろしくお願いします。