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短編コメディ

宇宙怪獣傭兵銀河ドラゴン見参!

作者: NOMAR


 うわお、地球がピンチだ。


「地球人に告げる。俺は宇宙海賊クルマイド! たった今、この日この時より地球はこの俺、クルマイド様が占領する!」


 20XX年、地球に自称宇宙海賊なんていうのがやってきた。地球軌道上にはこの宇宙海賊の宇宙船が、気がついたらいつの間にやらそこにいた。

 この宇宙海賊クルマイド、と名乗る毛むくじゃらのオッサンは、地球のテレビにラジオで占領放送なんて流してきた。だから顔も解るんだけどね。

 宇宙海賊の海賊電波の海賊放送だ。衛星軌道上からやりたい放題だ。

 英語にフランス語にポルトガル語に中国語と、いろんな言語で翻訳して解りやすくしてくれる辺り、実は親切なオッサンなのかもしれない。占領宣言放送でも、カメラアングルに凝っていたよ。

 宇宙海賊、ホントにいたんだ、びっくり。宇宙って広い。地球の常識なんて通用しないのね。一人で地球を占領だって。


 学校なんてつまらない、世の中おもしろくもなんともない。何だか息苦しい社会で大人は皆、つまらなそうに背中を丸めている。だから、何か大事件とかワクワクするようなことが、ドキドキするような何かが起きないかなー? と、待ってた私、日本の中学二年生。


 世の中、そうそうおもしろいことも無いよね。というか未来が明るくなるようなニュースなんてぜんぜん無いし。昨日と同じ今日。今日と同じ明日。

 まぁ、私はさして取り柄も無いし、将来はおじいちゃんの跡を継いで、実家の小さな神社勤めかなー? 巫女さんになれるのかなー? なんて考えてたけれど、いきなり私の未来も日本の未来も地球の未来もドッカンと変わるような大事件だ。

 地球が危ない。


「宇宙海賊なんて、ホントにいるんだー、ほへー。稼げる仕事なんかなー? 年収いくらなんだろ? つーか、海賊って強盗だよね? それで捕まらないの? この毛むくじゃらのオッサンは? 宇宙海賊がいるなら宇宙警察とか宇宙刑事はいないのかしらん?」


 部屋でお菓子食べながらテレビを見てる。

 宇宙海賊クルマイドはあっという間に地球で一番有名な話題の人に。動画投稿サイトにも地球占領放送を投稿してて、ネットがあれば誰でも見れる。うわ、再生回数凄い。

 毛むくじゃらのオッサンは、がっはっは、と笑う。顔中モシャッとした毛が覆ってて、つぶらな瞳が可愛いかもしんない。大口開けた熊のぬいぐるみみたい。


「いまだに惑星統一政府も無い、銀河の端っこの文明水準の低ーい原始人じみた地球人よ。俺の言葉が理解できるなら、大人しくこの俺に従え。そしたらお前らも少しは儲けさせてやるぞー! 新しいビジネスだ! わはははは!」


 と、ノリノリだ。儲けさせるって、何? 地球になんか凄い価値のあるものでもあるの? それを他の星に持っていって売り出すの? だから占領しに来たのかー。


「ぶっちゃけ、地球にはろくな資源も無けりゃ、珍しいもんも無い。つーか、独自文化って価値を蔑ろにして、てめえで無くしちまってんじゃねえか。それがありゃちっとはマシなのによ。だから、ろくなもんはほとんど無え。ところがところが、地球にはひとつだけ売れるもんがある」


 なんだろ? 宇宙人が欲しがるもの? 地球産で? マンガかな? アニメかな? 


「地球産の天然ロリータは高く売れる!」


 うぉい! 天然ロリータって何? 私、中学二年生の女子、なんだか嫌な予感がするよ?


「銀河文明に毒されて無い、寿命治療もできて無い、そんな地球産の天然ロリータをアルタイル星系に売りつけてやる! 地球が宇宙に売れるものなんて、この天然ロリータしか無いからな!」


 うえー? アルタイル星系のやつらは皆、ロリコンかー? 天然ロリータ? え? ちょっと、私、見知らぬ宇宙人に売られちゃうの、もしかして? いや、日本でも少子化で希少価値が出て、未成年売春がビジネスとして盛り上がってるっていうけどさー。宇宙でもロリコンって需要あるの?


「今後、この地球はこの俺、宇宙海賊クルマイドの、ロリータ養殖牧場として生まれ変わるのだ! 地球人もロリータを売り飛ばして金を稼げたら嬉しいだろ? 皆、金持ちになれるぞ! がっはっはー!」


 牧場? 養殖すんのかい、天然物なんじゃなかったのかい。え? 宇宙ってロリータは貴重なの? 高く売れるの? 売り買いしていいの? 人身売買じゃ無いの?

 えーと、宇宙って人権とか未成年保護ってどうなってるの? 未開の文明水準の低い地球人に、宇宙人的な個人の権利とか、認められて無いのかしら? なんか原始人呼ばわりされてたよーな?


 まぁ、恒星間航行できる宇宙人の文明から見たら、太陽系からも出られない地球人は、原始人みたいな扱いなのかも? 文明人扱いされない未開の野蛮人てこと? そうなると、地球はまるまる植民地、いや植民惑星に? 惑星まるごとロリータ牧場に? 宇宙規模だと人身売買もスケールがおっきいなー。


 あ、でもこれで宇宙旅行できるのかな? 見知らぬ遠い星へと、ロマンと共に旅立って。優しいご主人様に買われて宇宙の旅人に。エスエフだ。いやいや、地球産ロリータって品名で売られたら、マトモな未来が無さそうよ? 売られたらどうなるの? なにされるの? 宇宙人は地球産ロリータをどうするのよ? 舐めるの? 食べるの? どんな意味で? どんなふうに?


 地球はあちこち大混乱、そりゃそうか。宇宙からの侵略者登場だもんね。ロケット持ってる国は核兵器を積んで、地球軌道上の宇宙海賊に向けて、バンバン発射したりはしたものの。


「あーん? 恒星間航行できる宇宙戦艦に核なんぞきくか! がっはっはー。俺の船を潰したかったら、反陽子砲かヌル爆弾でも持ってこいってーの! ……ん? 核?」


 でんでん効いてない。ピンピンしてるよこの毛むくじゃらのオッサン。地球の兵器でがんばったところで、宇宙にデブリを増やしただけで終了。科学技術水準が違いすぎて手も足も出ない感じ? 無駄に衛星軌道を放射能汚染して電磁波ノイズが酷い。

 えー? 私、これからどうなるの? 地球産ロリータとして売られるの? それとも牧場で、ロリータ養殖の為に種付けされたりするの?

 うわーお、どっちもやだー。スペースエロゲー展開は教育上よくないです。未成年には早いと思います。あ、だけど未成年だから高値がつくってもんよね。


「ついにこの時がきたか……」

「あ、おじーちゃん」

「たつみ、煎餅を食べてる場合では無い」

「おじーちゃん、食べられるうちに食べておく、というときもあるのでは?」

「うむ、この状況で動じないとは、しっかりしていておじーちゃん、嬉しいぞ」

「動じないんじゃなくて、どうしていいか解んないんだけど。どうしよう? おじーちゃん」

「どうにかする方法があれば、たつみはどうする?」

「え? どうにかなるの? それならどうにかしたい!」


 学校の友達に先輩が、見知らぬ宇宙人に天然ロリータと売り飛ばされるのは、なんとかしたいよ。


「同じクラスのよーちゃんが謎の宇宙人に買われて、ゲッスゲスな目に合わされるとかヤダ。どうすればいいの? おじーちゃん」

「たつみが正義感の強い孫に育って、じーちゃんは嬉しいぞ。たつみならどうにかできる。いや、この渦龍神社の者にしか、どうにもならん。ついて来い、たつみ」


 じーちゃんに連れられて、神社の奥、地下に下りる階段を抜けて鍾乳洞へと。一年に一回の神事でしか入っちゃダメなとこ。


「渦龍神社には役目がある。この地球を守る、という」

「え? そんなの初めて聞いたけど?」

「言っとらんもん。たつみが正式に渦龍神社を継ぐときに話すつもりだったし。ゴホン、古来より渦龍神社では巫女が神を呼び、この地を狙う妖を退治しておった」

「えっと、うちの神社でおじーちゃんが狐憑きを祓ったりとか、アレ?」

「妖、と纏めて言っておるが、その中身は地球侵略を企む地底怪獣王国だったり、数千年前に宇宙に逃げてまた戻ってきたアトランティス王国だったり、別次元からラストハルマゲどん! と叫びながらやって来た異次元怪獣だったり、地球を新たな母星にしようと改造する気満々の宇宙漂流民族だったり、通りすがりの宇宙怪獣だったり、銀河ヤクザだったり、スペースマフィアだったり、と、いろんなのがいるの」

「メッチャウソくさいよ、おじーちゃん」

「お前の祖母も、地球を守る為に身を捧げたのだ……」

「それは初めて聞いた! え? 若い頃病死って?」

「地球の為に、娘の為にとお前の祖母はその身を捧げたのだ……」

「お、おじーちゃん……」

「神を呼べば、たつみ、お前も無事ではすまん。だが、それでもいいのか?」

「やるっ!」

「軽いのお」

「おばあちゃんが皆の為に、地球の平和の為にやったんだよね。それなら私も皆の為になんでもする! それにどうにかできないと、見知らぬ宇宙人に酷い触手責めとかされるかもしれないし。天然ロリータぐふふって言うアルタイル星系? の宇宙人にゲッスゲスなドエロい目に合わされるくらいなら、死んだ方がマシかも」

「アルタイル星系の宇宙人、会ったことも無いのにえらいディスられとるのー」

「だから、私やるよ! おじーちゃん、地球の為に! 私の貞操の為に!」

「それでこそ我が孫! 渦龍神社の巫女として、その役目を頼む!」

「で、おじーちゃんは何するの? 何もしないの?」

「巫女しか神を呼べんのじゃよ。では、社に入り祈りを捧げるのじゃ、たつみ」


 水ごりして身を清めて、お神酒を飲んで、これは神事だから未成年とか関係ナイナイ。渦龍神社の色味の無い真っ白な巫女の装束で。妙に広い地下鍾乳洞の中にある社に灯籠持って、と。ここで祈ればいいの? 神楽舞とかしなくていいの? よっし、お祈りお祈り――


 ――トゥルルル、トゥルルル――


 ん? 頭の中に変な電子音が?


 ――トゥルルル、プツッ、はい、お待たせしました。こちら銀河傭兵斡旋センターです。ご用件を伺います――


 え? 銀河傭兵? センター? 何?


 ――あら、地球からですね。これはこれは、地球からのご依頼は随分と久しぶりです。また何か困り事でもありましたか?――


 え? ええとですね。宇宙海賊が来てですね。地球を占領するって言ってて、とっても困ってます。


 ――まぁ! それは、それは、少々お待ちを。……おい、てめぇら! 地球の美少女からのお願いだ! 宇宙戦闘に強い奴! ……はい、お待たせしました。その宇宙海賊の規模をお伺いしても?――


 えっとですね。宇宙海賊を名乗ってるのはクルマイドという、熊みたいなおじさんです。宇宙船は四隻、でした。


 ――そうですか、宇宙船四隻、と。少々お待ち下さい。……チッ、相手の規模が小さすぎる。だから先着一名だ。あ? 希望者が多すぎる? そんなんバトルロイヤルでもしてさっさと決めろ! 急げよ! ……はい、たいへんお待たせいたしました。こちらから一流の傭兵をすぐに派遣しますので、到着までしばらくお待ち下さい――


 あの、傭兵って、何です? 神様じゃないんですか?


 ――神様でも龍神でも、お好きに呼んでいただいてけっこうです。派遣した傭兵に契約書を持たせてますので、キャンセル、チェンジなどは現地到着した傭兵とお話しして下さい。ですが、緊急そうですのですぐにお使い頂けるよう、うちのエースを送ります。心配要りませんよ――


 は、はぁ、ありがとうございます?


 ――今後も、銀河傭兵斡旋センターは、地球からのご依頼をお待ちしております。お気軽に連絡して下さい。では、失礼します。プツッ、ツー、ツー、ツー……


 呼ぶのって神様じゃ無いの? 龍神様じゃ無いの? うちの御神体って……、傭兵? どういうこと?


「お待たせしたあっ!」


 鍾乳洞に響く大きな声、ズトム、という地響き、慌てて社を出るとそこには、


「龍神様っ!?」


 大きな銀色の龍が長い首を畳むようにして、鍾乳洞の中にいた。で、でっかい。この鍾乳洞も広いけれど、校舎ぐらいある銀色の龍が狭そうに身体を縮めてそこにいる。

 龍神様っていうより、なんだかゲームに出てくるような、ドラゴンっぽい?

 その銀色のドラゴンが私を見る。


「ご契約、ありがとうでござる。拙者、銀河傭兵斡旋センターより参上」

「は、はぁ」

「宇宙海賊の撃退でよろしいか?」

「あ、はい、それひとつお願いします」

「戦闘後のアフター防衛サービスはお付けになられるか?」

「なんかよくワカンナイけど、地球を守って下さい。龍神様!」

「心得た! その前に」


 龍神様は手にちっちゃいカバンを持ってる。そのカバンの中からちっちゃい紙を一枚、大きな爪で挟んでそうっと取り出す。


「えーと、相変わらず銀河定型書類は小さくて見えにくいでござる。あ、これだこれだ」


 その紙をそっと私に差し出す。よく解らないまま受けとる。この大きな龍神様にはちっちゃいけれど私にはノートくらいのサイズの紙一枚。


「契約書にサインをくだされ」

「これ、契約書なんだ。何が書いてあるかワカンナイんですけど?」

「銀河汎用文字は地球では使われておらぬのか、噂通りの未開の惑星でござる」

「えっと、なんて書いてあるか教えてくれませんか?」

「別に良いでござるが、その余裕があるでござるか?」

「ふえ?」

「たつみー!」


 おじいちゃんがこっちに走ってくる。


「おお、たつみよ! 神降ろしに成功したか! 流石、我が孫!」

「おじいちゃん、この契約書、読める?」

「その前に、宇宙海賊が反撃してきてな。ついさっきアメリカ国防総省(ペンタゴン)が消滅したぞ」

「アメ? なんで?」

「反抗する気も起きないように、フルボッコにするつもりのようじゃの。『核ミサイルの放射能で健康なロリータが病気になったらどうするバカ野郎!』と、宇宙海賊が怒り心頭じゃ」

「宇宙海賊に健康被害を心配されてる!」

「ロケット飛ばしたとこに衛星軌道からビームを撃ち下ろしとる。日本にも来るぞ」


 銀色の竜神様が私とおじいちゃんを見下ろして、


「契約書にサインを貰えれば、拙者がすぐに片付けるでござるが?」

「お願いします!」


 読めない契約書にサインとか、後が怖いけど地球の為、エロい宇宙人に変なことされない為に、チャチャッと契約書に名前を書いちゃう。契約書を龍神様に渡すと、銀色の龍神様は契約書を爪で摘まんで大事にカバンにしまう。


「うむ、契約成立。万事この宇宙怪獣傭兵、銀河ドラゴン、スクリュウ丸に任せるでござる!」


 龍神様、は自信満々に返事をすると、ズドム、と音を立てて姿が消えた。なに? ワープ? 瞬間移動? えっと、銀河ドラゴン? スクリュウ丸? 宇宙怪獣で、それに傭兵? それで、拙者ござる? いろいろと、くどくない?

 おじいちゃんと鍾乳洞を出てダッシュ、家のテレビのスイッチオン。あ、熊さん、じゃ無くて宇宙海賊クルマイド。


『俺のロリータ養殖惑星を放射能で汚染するんじゃねえ! 自滅する気かバカ野郎! ここの地球人は低脳か! こうなりゃ各国のミサイル発射基地をブッ潰してやる!』


 大アップで唾を飛ばして怒ってる。うん、放射能汚染は良くないよね。ロリータ牧場という目的はともかくとして。


『原始人の地球人がこのクルマイド様に勝てる訳が無いだろが! それも解らんのか? 地球人はアホの子か? いや、可愛いアホの子なら高く売れるか。そういう需要はあるある』


 うーわ、宇宙人ってロリコンの変態ばっかりなの? マニアなの? あ、この声は、


『そこまで! 貴様の蛮行はこれで終わりでござる!』

『ああん? 誰だてめえ……、お、おい?』

『銀河ドラゴン、スクリュウ丸、約に基づき地球を守る為、ここに見参!』

『ななんでここに星砕きの怪物がいるんだよ!』

『銀河傭兵斡旋センターは、信頼と実績の確かな素早い仕事が売りでござる』

『名状し難き怪物墓場が、なんでこんな銀河辺境に出てくんだ!?』

『あ、その昔の社名は評判悪いので忘れて欲しいでござる』

『く、くそ、只ではやられんぞ! 全砲門開け! フルバースト!』

『征くでござる! 銀河龍拳三十六式! 銀河疾風殺雷牙!!』


 あ、夜空に一瞬だけ太陽が現れました。ピカッとな。それがどれだけの熱量と威力があったのかはでんでんワカンナイけれど。

 夜中の太陽が消えて夜空が戻ると、宇宙海賊の四隻の船も、綺麗に消えていなくなっていました。あっさり一撃? 何をしたの?

 でも、こうして地球のピンチはサラッと回避されたのです。


 場所は変わって、再び鍾乳洞の中。


「宇宙海賊は片付けたでござる」

「ありがとうございます、龍神様」

「スクリュウ丸、と呼んで欲しいでござる」


 銀色のドラゴンが窮屈そうにしている。このスクリュウ丸のおかげで地球と私の貞操は守られた訳で。このござるドラゴン、メッチャ強いみたい。


「契約書に何が書いてあったかワカラナイけど、地球の平和を守ってもらったんだから、なんでもするよ」


 宇宙戦艦吹っ飛ばす、こんな凄いドラゴンを傭兵に雇う代価ってなんだろう? 契約書にサインしちゃったからには、支払いしないとダメだよね。うぅ、変な詐欺とかじゃ無いよね? 私の貯金で足りる? おじいちゃんが目頭押さえてるのが、なんか心配なんだけど。

 銀色のドラゴンを見てると、ン? 困ったような声を出して。


「……それが、拙者、慌てていたのか、書類が小さくて間違えたようで、その、サインをして貰ったのは、契約書では無かったでござる」

「え? 契約書じゃ無いの? じゃ、あれは何?」

「拙者、うっかり間違えてしまい、」

「うん、間違えて?」

「出した書類は、その、婚姻届でござる」

「はあ? 婚姻届? で、その婚姻届は?」

「それが拙者、書類は早く出さねばと、銀河郵便で銀河役所に出してしまったでござる」

「え? それって、どうなるの?」

「受理されてしまうと、拙者とたつみ殿が夫婦になってしまうでござる」


 ……は? 夫婦? この銀色のドラゴンと私が? なんで? どういうこと? 婚姻届?

 キョトンとスクリュウ丸を見てると、スクリュウ丸は首を振って目を逸らす。そんで小声でボソッと。


「……ぐふふ、これで地球産の天然ロリータが拙者の嫁に、」

「うっかりじゃ無い! わざとだコイツ!」


 おじいちゃんが涙をハンカチで拭きながら。


「たつみのおばあちゃんもな、若い頃にワシを置いて宇宙に嫁いでいったのじゃ」

「知らなかったよ! そんな話!」

「言っても信じてくれんじゃろ。たつみのおばあちゃんは宇宙に嫁に行った、なんて言うてもじじいがボケたとか思われるじゃろ」


 それは、そうかもしれないけどさ。


「たつみ殿、新婚旅行は何処が良いでござるか?」

「スクリュウ丸! 結婚を無かったことにできませんか!」

「えぇ? 拙者、頑張ったでござるよ?」

「そこはありがとうだけど! 私に結婚はまだ早い! 未成年!」

「拙者、こう見えて尽くすタイプでござるよ」

「変なアピール始めた! 少しは悪びれろ!」

「いやぁ、拙者も早く結婚したいと、婚姻届を持ち歩いててまさかこうなるとは」

「離婚届は何処に出せばいいの!」


 一方その頃、地球を目指して進む宇宙艦隊があった。

 旗艦の艦長席に座る女はモニターに映る青い星に手を伸ばす。


「ふふ、地球……、未だに銀河文明に毒されて無い未開の惑星……」


 女はうっとりとした目で地球を見る。


「そこには遺伝子改造もしていない、天然物の美少年がいるという……じゅるり」


 女は艦長席から立ち上がり右手を大きく振る。


「地球産の天然美少年は全てこの女宇宙海賊バクシオラ様の物よ!!」


 地球の危機はこれからだ!

 戦え! 銀河ドラゴン、スクリュウ丸!

 もう結婚しちゃえ! たつみ!


「ヤダーーーー!!」

「たつみ殿が元気で可愛くて、拙者、幸せでござる」

「宇宙結婚詐欺だよ!」

「たつみ殿がお嫁さんになってくれたら、拙者、頑張って地球を守るでござるよ?」

「地球規模の人質で婚姻を強要された! わーん!!」


 さようなら、平穏でつまらない日常。

 無くしてみてから、有り難みが解るのね。

 竜神様の嫁って、もっとファンタジーでロマンティックじゃないとダメだと思うの。

 

「地球産のロリータは人気あるでござるよ?」

「そんな事実は知りたく無かったよ! 無限に広がる大宇宙のロマンを返せ!」




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― 新着の感想 ―
[良い点] オトコどもに世界をいいようにされてたまるか(*´ω`*) 頑張れ、たつみちゃん(*´∀`*)
[良い点] 「宇宙人企画」から参りました。 いきなり地球が宇宙海賊に支配されることになって大ピンチですが、渦龍神社の巫女として立ち上がるヒロイン、立派ですね。 龍神様(?)は頼りになるかもと思いました…
[一言] テンポよくてむちゃくちゃ面白かったです! え? 宇宙海賊きちゃった? え? 天然ロリータってなに? え? 銀河傭兵斡旋センター? この宇宙は性癖が変な人多すぎるよ……! たつみさんがしあわせ…
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