ツンデレちゃんとほんわかさん ~百合色のコウノトリ~
「サっちゃん、愛してる〜」
「触んな、抱き付くな! もう、鬱陶しいのよ!」
宮廷魔道士のサリナは、今日も抱きついてくる親友を邪険にあしらう。
本当は大好きなのに、素直になれずに意地を張り続ける、彼女はずっとそんな日々を送ってきた。
共に魔法学校を卒業して、宮廷魔道士となったイゼル。
常に学年トップの成績を修め、堂々と狭き門をくぐった彼女。
対して自分は中の上、努力に努力を重ね、何とかギリギリ宮廷魔道士の枠に滑り込んだ。
「なんで〜? こんなにサっちゃんのこと好きなのに、なんでダメなの〜?」
「そ、そういうこと軽々しく口にすんなって、ずっと言ってんでしょ!」
トップをひた走ってきた彼女が、自分なんかを本気で好きになるはずがない。
サリナの心に宿るのは、そんな思い。
「おふざけでそんなこと言うの、止めてよね!」
「ふざけてなんかないよ〜、本気で好きなんだから〜。サっちゃんも私のこと好きだよね〜。一緒に寝たら赤ちゃん出来ちゃうかも〜」
「な……っ。出来るわけないでしょ! お互い本気で愛し合ってないと出来ないんだから!」
「私は本気で愛してるよ〜。ねえねえ、寝てみようよ〜。そして結婚しよ〜?」
「だ、だから軽々しく……! 良いわ、分かったわよ! 一緒に寝てやるわよっ!」
共にベッドに入り、微笑むイゼルの手をそっと繋いで、目を閉じる。
愛し合う二人の元に愛の結晶を運ぶ、神の御使いコウノトリ。
舞い降りてくれるはずがないと思いつつ、胸の中に想いは膨らみ続けて。
ずっと想い続けてきたイゼルとの間に子供が産まれたら、二人が心から愛し合っている証。
しかし、きっと子宝は授からない。
イゼルが自分なんかを本気で愛しているなど、そんな自惚れた気持ちには到底——。
「起きて、起きて〜、サっちゃん」
「ん、んん……、何よ、もう朝……?」
うっすらと目を開けたサリナ。
目の前にはイゼルと、二人の間ですやすやと眠る赤ん坊がいた。
顔の雰囲気はサリナ、髪の色は栗色と、イゼルに似ている。
「……えっ? あれ、なんで……? もしかして、あたしたちの……?」
「そうだよ〜。元気な女の子。えへへ〜、私とサっちゃんの赤ちゃん、コウノトリさんがお届けしてくれたんだね」
真に心から想い合う二人の間にだけ、神様から授けられる宝物。
授かったということは、つまり。
イゼルも自分のことを、心の底から好きでいてくれていた。
どんな言葉を並べ立てるよりも明確に、ストレートに、届けられた愛の告白。
喜びの感情が、涙となって目から溢れだす。
「……っ、ふっ、ぐすっ」
「あわわ、サっちゃん泣かないで〜」
「泣いてなんか、いないわよ、ばかっ!」
「あ〜、そんな大きな声出しちゃうと〜……」
閉じていた小さな瞳がゆっくりと見開かれ、次の瞬間。
「おぎゃあああぁぁっ!!」
「あわわ、この子も泣きだしちゃった〜、どうしよぉ……」
「だからあたしは泣いてないってば! ……お腹、空いてるのかしら」
服をはだけさせ、授乳を試みると。
「わぁ、飲んでる!」
「……っていうか、ちゃんと出るのね。話には聞いてたけど、驚きだわ」
「うふふ〜、これで分かったでしょ〜? 私の気持ち〜」
「……分かったわよ、よーく分かりました」
「えへへ、可愛いね〜?」
「そうね、とっても可愛い……」
「この子もだけど~、サっちゃんも~。えへへ、大好き」
大好き。
何度も聞いた言葉のはずなのに。
ずっと心に染み渡るのは、きっと彼女の心からの気持ちだと知れたから。
「そ、その……、私も、大好きよっ!」
顔を真っ赤にしながらも、とうとう伝えられた、ずっと言いたくて、言いたくて、それでも言えなかった言葉。
「わぁ、サっちゃんが好きって言ってくれた~! ねえ、結婚式はいつにする~?」
「そ、そうね。早い方がいいんじゃないかしら。この子のためにもね」
背中をさすってげっぷを促しながら、愛の結晶と愛する人を交互に見つめ、二人は初めてのキスを交わす。
窓から風が吹き込み、どこからか入ってきた白い羽が窓辺に舞い踊った。
素直な好意を口に出来なかった少女と、素直な好意を信じて貰えなかった少女。
想い合っていた二人の心は、神様の贈り物によって固く結ばれ、もう二度と、決して離れることはない。
神の使いとされるコウノトリが、愛し合う二人の元に愛の結晶を届ける。
これは、幸せを届ける神様の紡ぐ、たくさんのお話のその断片。