落下
僕たちはこの森の少しのことしか知らないんだ。気が付くといつも同じところでオンボロ橋のおしゃべりに花を咲かせていて、只それだけで食いしん坊の僕が何も食べなくても温かいスープをたっぷりと飲んだみたいにポカポカとしてこころがお腹いっぱいに満たされるんだ。今は少しお腹が減ったよ、なんでだろう。
逆さ虹はまるで下弦の月のようにいつもよりハッキリと空に浮かんでいて、僕たちに黒の時間を教えてくれない。彼は相変わらず怖がっているけれど僕たちは初めてオンボロ橋の前までやって来た。
同時に初めて『やくそく』を破っていた。
オンボロ橋は本当にオンボロで、彼じゃなくてもみんな怖かったのか僕たちはオンボロ橋を渡るか少し躊躇った。でもその躊躇いよりもこのオンボロ橋の向こう側、いつものおしゃべりだけじゃあなくて本当はどんなところか行ってみたいって気持ちがね。
「えーいっ!」
いたずら好きのあの子はいつものように、決まってあいつにちょっかいを出して橋へと誘う。あいつはすぐに暴れん坊になっちゃうからいつものようにお人好しの誰かさんが宥めに、置いてけぼりは怖いからと一番最後に彼も、そして僕もオンボロ橋を渡り始めたんだ。彼女はオンボロ橋の上で美しい小さな翼を珍しく羽ばたかせている。そしたらさ、オンボロ橋の真ん中くらいで橋が壊れたみたいで僕たちはオンボロ橋から落っこちてしまったよ。
僕がいけなかったのかな…僕の次に、最後にオンボロ橋に彼が乗った時に聴こえたんだ。彼女の歌声じゃあなくて何かが歪むような音を。その鈍くドロッとした重苦しい音が聴こえたことをみんなに言っていたら僕たちはすぐに引き返していたのかもしれないって思うんだ。