【乙女遊戯】は危険なゲーム 【悪役令嬢】を認定して【ヒロイン】をトラック転生させるだけのお手軽な暇潰しだったのに……。
『なろう』への新作の投稿は久し振りです。
果たして本作は『悪役令嬢』モノなのか!?
「アマリア・マクダレーナ、最期に遺す言葉はあるか?」
「フィリポ大司教様……、わたくしは……無実で……ございます。どうか……命ばかりは……お助け下さ……い」
「既に王陛下が、火刑の下知を下しておる。心静かに刑の執行を待つのじゃ」
「だ、誰か……助けて……。ミシェール……様……わ……わたくしは……無実……」
わたくしの名前は、アマリア・マクダレーナと申します。
わたくしの生まれ育った聖エフェソ王国は、ハリストス大陸で最も栄えた大国として知られておりました。
わたくしの生家は、聖エフェソ王国の七代前の王弟を祖とするマクダレーナ公爵家です。
つまりわたくしは、大国の公爵令嬢として蝶よ花よと目に入れても痛くないくらいに、大切に育てられました。
そして、そんなわたくしは、王太子でいらっしゃるミシェール・ユッタ・ネシャヤ殿下の許嫁でもありました。
ミシェール殿下は、眉目秀麗なイケメン王子様でいらっしゃいます。
わたくしは、ひと目で気に入り、幼いながらも恋に落ちたものでした。
そうだと言うのにわたくしは、ミシェール殿下を殺めんとした咎人として火刑に処されようとしている……。
このような状況に陥った経緯を、語りたく存じます。
わたくしがこの世に生を享けた時、聖獣たちが人里に現れて祝福の奇跡を起こしたり、とある街を席捲していた疫病が忽然と収束したりと、各地で瑞兆が顕れたことは、今でも語り草です。
そして、わたくし自身も珠のように美しい赤子であったと云われておりました。
そんなわたくしは、聖エフェソ王国に安寧を齎す、創造神様の化身であると噂されておりました。
何となれば、聖エフェソ王国の始祖王は、創造神様の血を引く御子様であったとの伝承が伝わっており、更に歴史の要所、要所で綺羅星のごとく登場する賢王様の生母様方もまた、創造神様の化身であったと信じられておりました。
それ程までに聖エフェソ王国は、創造神様の恩寵篤き地でもあったのです。
わたくしの場合も、誕生した時に起こった数々の瑞兆から、創造神様の化身であると見做されたのは自然な成り行きであり、当然のように第一王子のミシェール・ユッタ・ネシャヤ殿下の許嫁とされました。
そしてミシェール第一王子が立太子されて王太子になったのに合わせて、将来の正妃としての厳しい王太子妃教育が始まりました。
幾人もの家庭教師が雇われ、早朝から深夜まで殆ど休む間もなく、礼儀作法に一般教養、乗馬に房中術とありとあらゆる学科が詰め込まれました。
この頃のわたくしは、無我夢中で家庭教師の方々の教えを咀嚼しましたが、正直に申しまして辛い日々でした。
そして転機が訪れたのは、わたくしが社交界デビューを果たした13歳のことでした。
今まで学んだ王太子妃教育の実践と社交教育のため、王侯貴族の子弟が大半を占めるヴェズレー王立貴族学園に入学したのです。
上級学年にはミシェール殿下も在籍しており、楽しい学園生活が送れる予定でした。
ところが、わたくしが入学を果たす以前に、ミシェール殿下と同学年へと転校してきたマルガリータ・ボーナムなる美少女と殿下は、恋仲に落ちていたのです。
わたくしの容姿は、軽い癖毛の豊かに波打つ金髪と空色の瞳という、愛くるしい顔をしており密かな自慢でした。
ただ二次性徴の途上ですので、お胸の辺りがちょっと寂しいのが玉に瑕です。
一方のマルガリータ嬢は、艶やかな黒髪に深紅の瞳という神秘的な美少女でした。
マルガリータ嬢も微乳ですが、すらりとしたスレンダー体形なので似合っておりました。
ミシェール殿下は聖エフェソ王国では珍しい容姿のマルガリータ嬢のことが気に入り、寵愛といっても良いほどにのめり込んでいたのです。
わたくしの座るべき椅子には、既にマルガリータ嬢が座っており、許嫁のわたくしはミシェール殿下に冷遇されました。
ただマルガリータ嬢は、平民の生まれであり王太子のミシェール殿下とは家格的に釣り合う娘ではありません。
現在は、優れた容姿からボーナム男爵家の養女と成っていますが、男爵令嬢であっても釣り合うものではありません。
「マルガリータ様、わたくしのミシェール殿下を取らないで!」
「あら、アマリア様に於かれましては、ご機嫌麗しゅう……ではありませんわね。うふふ。でもミシェール殿下は、わたしが素気なくしても纏わり付いていらっしゃるのよ。文句ならばわたしではなく、直接殿下に仰って下さいましな」
わたくしが、マルガリータ嬢に文句を言っても『暖簾に腕押し』、『糠に釘』でした。
そして不安の内に学園生活も始まり、わたくしは不慣れな学園生活に溶け込むために忙殺され、ミシェール殿下とマルガリータ嬢のことは一時棚上げとしたのでした。
「アマリア・マクダレーナ、お前との許嫁の関係を解消する!」
学園生活にも慣れたある日のこと、この日は学園の食堂で偶然にマルガリータ嬢を連れたミシェール殿下と遭遇してしまいました。
そしてミシェール殿下は何故か怒り狂っており、わたくしの顔を見るや否や、物凄い剣幕で捲し立てて来たのです。
正直に申しまして『寝耳に水』の事態でした。
「落ち着いて下さいませ、ミシェール様。行き成りわたくしとの許嫁の関係を解消するとは……どうかなさったのですか。正気の沙汰とも思えませんが?」
「ええい! 言い訳がましい奴め、俺の可愛いマルガリータの右腕を骨折させた罪からは逃れられぬぞ!!」
「ミシェール様……。どうしてわたくしとマルガリータ嬢の骨折とが関係あるのですか?」
「わたしを階段から突き落としておいて、なんて言い草なのかしら!」
「見苦しいぞ、アマリア! 偶然見届けた証人もいるんだ! 大人しく罪を認めれば、寛大な処置を考えてやっても良い」
「わ、わたくしは潔白ですわ!」
「ええい! この見苦しい売女め、俺が知らないとでも思っているのか! 毎晩、男を寝所に連れ込んでいるそうじゃないか!」
「わ、わたくしは、純潔を守っておりますわ!」
こうして唐突に始まった許嫁の解消劇でありましたが、何故かわたくしに不利な証言や証拠が次々に出て来たのでございます。
そして止めとして、わたくしの使用していた寝台の下からミシェール殿下の暗殺目論見書と猛毒を塗られた短剣いうとんでもない証拠物品が押収されたのでした。
流石のわたくしも唖然としましたが、何時の間にかわたくしの罪が既成事実にされておりました。
とうとうわたくしのことを庇い切れなくなった父公爵から離縁されるとともに、貴族籍も剥奪され、単なる罪人として監獄塔に収監されました。
何だか走馬灯を見ている気分です。
わたくしは無実の罪を訴え、何時終わるとも知れない拷問まがいの事情聴取を受け……、遂に身に覚えのない罪を自白させられたのでございます。
通常、高貴な貴族令嬢が罪を犯した場合、大抵は監獄塔と呼ばれる施設に収容されることになります。
更に極刑が下った場合でも、人知れず処分されるか、毒杯を仰がせることが常であり、一般市民の見守る衆人環視下で火刑に処されるということはありませんでした。
この辱めは、わたくしのことを極悪犯であると見做していることと同義なのです。
つまりわたくしには、味方はひとりも居ないということでした。
考えてみれば、物心ついた頃から王太子妃教育に明け暮れ、友人や人脈を作ることができていなかったのでした。
「お願い……です。どうか……火炙りは……止めて!」
連日の事情聴取ですっかり消耗したわたくしは、息も絶え絶えに言葉を紡ぎます。
そして刑場に連行される途中では、一般民衆からも激しい罵声や罵り、更には小石や生卵が投げ付けられ、わたくしが着ている粗末な囚人服は潰れた卵の内容物や投石によって出血した血で汚され、惨憺たる状態となっていました。
囚われるまで愛くるしかった容姿は幽鬼のような状態に成り果て、人々の視線は生ごみを見るかのように冷ややかなものでした。
今まで創造神の化身として敬われていたのが、嘘のような掌返しです。
わたくしが一体、何をしたというの……。
目尻からは、止めどなく涙が零れます。
刑場に引っ立てられたわたくしは、用意してあった十字架に荒縄で縛められ、更に掌と足の甲を釘付けしようとしています。
「い、嫌っ! や、止めて! ぎゃあぁあぁぁぁ」
刑吏は、金槌と長く錆びた鉄釘を持つと、板に打ち付けるような軽い調子で、わたくしの掌と足の甲を十字架に打ち付けたのでございます。
わたくしの肉体に穿たれた釘が、とても、とても痛みます。
「それでは、アマリア・マクダレーナの処刑を執行する」
それからわたくしの周囲に薪が積み上げられ、そして点火されてしまいました。
恐怖から逃れるために視線を泳がせたところ、桟敷席のような場所に設えられた椅子が二脚あり、ミシェール王太子殿下と、新たな婚約者となったマルガリータ嬢が座っていたのです。
流石に元許嫁のミシェール殿下は、わたくしのことを痛ましげに見ていますが、マルガリータ嬢は嘲りつつも、わたくしのことを『路傍の石』を見るかのような冷めた視線を向けていました。
この態度から、わたくしはマルガリータ嬢に嵌められたことを悟ったのです。
同時に幼馴染でもあったわたくしのことを、守ってくれなかったミシェール殿下に対する怒りも沸いてきました。
しかし、全てが手遅れです。
火刑台は既に点火され、わたくしの身体を無情な炎と煙が舐めています。
熱い、痛い、どうしてこんな目に遭うの……――。
そしてわたくしの意識も、混濁して闇へと落ちていきました。
ところが不思議なことに、再び意識が浮上してきたのです。
わたくしの美しかった肉体は真っ黒に焦げており、こんな状態で意識があるのが理解できません。
というか、わたくしは、わたくしの無残に焼かれた肉体を見詰めていたのです。
そう言えば、熱くはありませんし、痛くもありません。
もしかすると、死亡して肉体から離れた魂魄が感じているのでしょうか?
それとも所謂、臨死体験というものでしょうか?
そして、わたくしの魂は、天界へと誘われるのでしょうか?
それとも地縛霊として彷徨うのか、将又、地獄へと堕ちてしまうのでしょうか?
わたくしは、この奇妙な状態下で不思議と冷静に思考します。
そして、わたくしは、わたくしの正体を遂に思い出しました。
わたくしの正体は、この世界を創造した創造神だったのです。
わたくしが人界へと降臨して受肉した目的は、わたくしの血が薄まった王族へ新たな恩寵を授けるためでした。
わたくしの夫となったミシェール殿下との間に子を成し、再び篤き恩寵を得た息子は賢王と呼ばれるはずだったのです。
ところが今回は、わたくしの計画が水泡に帰しました。
わたくしは考えます。
今までと今回では何が違うのか……。
そしてマルガリータ嬢を神の視点で改めて視て、全ての絡繰りに気付きました。
マルガリータ嬢は……、『異世界転生者』だったのです。
つまり、わたくしの管理するこの世界の外から、見知らぬ神の介入があったという訳でした。
そう言えば、悠久の刻を生きるわたくしたち神々は、娯楽に飢えています。
そんな神々の間で【神の遊戯】が流行っているという噂を耳にしたことがありました。
噂によると、ひと昔前から『トラック転生』なるものが流行っていたようです。
そして『異世界転生者』や『異世界転移者』に対して、俗に『俺tueee』と謂われる程のチート級の装備やスキルを与えて活躍させ、悦に入っていたとか……。
ちょっと調べてみただけで転生勇者や転移魔王などにより、その世界の理を破壊された実例は、枚挙に遑がありませんでした。
マルガリータ嬢もご多分に漏れず『トラック転生』により、この世界へと転生させられたことが前世の記憶から判明しました。
ちょっかいを掛けて来た神の創った世界は、わたくしの世界よりも文明が発達しているようです。
わたくしの世界では、未だ馬車が主体で、内燃機関を持つ自動車は発明されていませんでした。
だからこそ、わたくしを格下と考えてちょっかいを掛けてきたのでしょうが、創造神の格としてはわたくしの方が、階位が高く上位者でした。
きっと今頃は、ちょっかいを掛けて来た神も真っ青になって震えていることでしょう。
マルガリータ嬢の魂をこの世界へと『異世界転生』させた見知らぬ神は、この世界を【乙女遊戯】に見立て、わたくしが受肉した存在であったアマリア・マクダレーナを【悪役令嬢】、そしてマルガリータ嬢を【ヒロイン】に配して遊んでいたというのが真相のようです。
わたくしとしたことが、見知らぬ神の術中に陥っていたとは屈辱です。
わたくしは、わたくしの受肉した体を焼いた炎を睨み付けました。
すると炎は怯えたように凝り、イケメン青年の姿を取ったかと思うと、直ちにわたくしにひれ伏しました。
彼は、わたくしの眷属神である『火の神』でした。
わたくしの玉体を傷付けたことに対する自責の念が伝わってきます。
それから、わたくしたちを見たフィリポ大司教も、腰を抜かして平伏しています。
信仰の対象であるわたくしを傷付けたフィリポ大司教は、錯乱の余り失禁しているようでした。
ごろごろごろ、ピカッ! どぉ~~ん、どかん! どがががぁあぁぁん!!
そんな時、わたくしの怒りが具現化した轟雷が、地上に雨霰と降り注ぎました。
そして、わたくしに害を為した者どもは消滅し、後には焼け焦げた影の跡だけが残っています。
わたくしの怒りを買ったミシェール殿下とマルガリータ嬢も同様の末路を辿りました。
そればかりか、わたくしの怒りは、この世界の核すらも破壊しており、この世界は実質的に滅亡しました。
早晩、滅びが訪れることでしょう。
わたくしは、壊れてしまった世界に若干の未練を残しつつ、界を渡ってあらたな世界を創造する心算です。
その前にわたくしは、ちょっかいを掛けて来た神が創造した世界の核を破壊しました。
正しく『因果応報』の報復処置ですが、わたくしの足に踏み潰された件の神は、涙を流しながら自身の創造した世界の助命嘆願をしていましたが、赦せるはずはありませんでした。
今度創る世界は、外部からの干渉に対するセキュリティーを厳重にする必要があるでしょう。
それにしても、わたくしが刑場に引き立てられる際、ひとりでも味方になってくれる者がいれば、神の慈悲を以て世界の存続を許したというのに……。
その辺りも新しい世界では、きっちりと啓蒙する必要があるでしょうね。
登場人物紹介
アマリア・マクダレーナ 13歳 わたくしは……ですわ。
アマリアの誕生時、世界は彼女の生誕を祝福して様々な瑞兆となって顕れた。
人々は創造神の化身の誕生に、熱狂して喜んだ。
その正体は創造神であり、人界に降臨して受肉する際に、神としての記憶と能力を封じている。従ってアマリア自身も、自身の正体を知らなかった。
瑞兆は、創造神の眷属神が祝福したため起こった。
降臨した目的は、聖エフェソ王国の王族と目合ひ、薄くなった恩寵を再び授けることだった。
彼女の子宮には、人が耐えられる程度に薄められた神威が仕込まれており、王太子と交わることにより、次代の賢王を産む手筈であった。
本来の予定では、ミシェール王太子と結ばれ、幸せな家庭を築いて大往生するはずだった。
ところが予期せぬ因子であったマルガリータがミシェール王太子と出会ったことにより、舞台は『乙女遊戯』の世界に変貌し、アマリアには【悪役令嬢】の役柄が振られた。
ミシェール王太子殿下や民衆の態度が変わったのは、世界が変質したためである。
ミシェール・ユッタ・ネシャヤ 15歳 俺は……だ。
ハリストス大陸で最も有力な大国である聖エフェソ王国の第一王子。
そして順当に立太子されて王太子となった。
許嫁のアマリアに対しては、美少女過ぎて若干の引け目のようなコンプレックスを持っていた。
当初の予定では、ヴェズレー王立貴族学園での学生生活を通じてアマリアに対する恋心を育てていくはずだった。
ところがマルガリータと出会った途端、盲目的な恋に落ちてしまった。
これは『乙女遊戯』の世界で、彼はマルガリータの【恋人】として設定されていたからである。
そのため、本来の運命の恋人であったアマリアに辛く当たった。
マルガリータ・ボーナム 15歳 わたしは……です。
とある世界の創造神が自身の遊戯のために、この世界へと送り込んだ『異世界転生者』。
彼女自身は、前世の記憶もチートも持たないが、ミシェール王太子との出会いを起点として、彼女を【ヒロイン】とする『乙女遊戯』が展開された。
ただ創造神に戻ったアマリアは、マルガリータの前世を垣間見ている。
フィリポ大司教
この世界で最大の宗教の幹部。勿論、創造神を主神として崇めていた。
アマリアの正体を知った彼は、自我崩壊に追い込まれている。
創造神 (女神)
この世界を創った神であり、『すろーらいふ』を志向して文明の発達は、人族に任せていた。
初めて人界に降臨した際、気に入って結ばれた相手との息子が聖エフェソ王国の始祖王となる。
以降、彼の王族のことは目に掛けていた。
自身の怒りで、この世界を崩壊させてしまった後、今回の反省点を踏まえて新天地で新たな世界を創造している。
火の神
創造神の受肉したアアマリアを焼き殺したことにより、戦々恐々としていたが自然の摂理であるとの理由から赦されている。
とある世界の創造神 (男神)
この世界に『乙女遊戯』という『神の遊戯』を仕掛けてきた、阿保神。
彼の創造した世界では、彼が積極的に介入して文明度を上げていたので神々の世界でテンプレートな『トラック転生』を行うことができた。
そして、この世界の創造神よりも階位の高い存在であると自負していたのだが、実際はこの世界の創造神の方が階位は高かった。
その結果として、足蹴にされて彼の世界も崩壊させられている。
それから特殊な性癖に目覚めた彼は……。