一話 第一印象、ファーストインプレッション
全然めちゃくちゃ読んでるから普通に大丈夫ですとか嘘つこうと思ったけど、踏み込んだ話されたら死んでしまうので素直に1ミリも読んでないですと伝えた。すると彼女は笑いながらそうですよね、なんていってから。
「少し前からここで見かけるようになってからちょっとだけ気になってて。私、大澄っていいます」
「そうなんだ、俺は黒崎。その辺の静明高校ってとこに通ってることになってる」
不思議な顔をされたから補足しておく。
「サボってるんだよね、学校」
なんで? とか、どうして? とか質問されるかと思ったけど彼女はそうなんだ、と言って何か考え込む。そういえば大澄さんも同い年くらいなのにいつもいるな。互いに何かを察して話題を変えた。
「そういえばこれ読んだことあるの? 忠告してくれたけど」
鬼のように分厚い本を見てこれが三冊もあるのかと驚いた、よく見ると題名に《中》と書いてある。
「前に読んだときすっごい長かったのが印象的で、読んでるの見たとき犠牲者が増えたなぁ。って思ったんだけど進んでなかったから」
アレを読み終えたことに恐怖すら感じたけど通いつめてずっと本読んでるだけあると思った。
じゃあ本はあまり読まない人? と聞かれて一番最後に本を読んだ記憶を探してみたけどまったく思い出せなかった。
「全然本は読まないかな」
それを聞いて少しがっかりしたような顔をする彼女に申し訳ないと思った、こんな場所に来るのは普通本が好きな人だし。
「でも本自体は嫌いじゃない」
「本は読まないけど嫌いじゃない……読む機会がないとかそういうこと?」
「まあそんな感じ。ここにもいっぱい本があるけどこれ全部作者がいて、その人たちが考えて作り出した世界とかが詰まってるんでしょ? なんかワクワクするっていうか」
わかる! とキラキラした目で共感された。
「私も物語が好きなの、本を読むと世界にはいろんな人がいて誰もがいろんなことを考えてるんだなぁ。って思えるでしょ」
「本好きなんだ?」
「うん、大好き!」
満面の笑みでそう言われると意味は違えど生きててよかったなと思う。
それからは世間話で親睦を深めた、土日は人が多くて図書館には来ていないこと、見た目に反してから揚げが好きなこと、彼女のほうが先に俺を見つけていて図書館に来ては眠ってばかりで何しに来たのか気になっていたということも知った。理由はどうであれ同年代の人がいるのは嬉しいらしい。俺としてもこんなに可愛い文学女子と仲良くなれるのはとても嬉しい。
「もう夕方かぁ、黒崎君はもう帰るよね?」
外を眺めると日が沈みかけてた、部活も最近は行っていないからいつもなら帰る時間だ。
「うーん、そうだな。大澄さんは?」
「私ももう帰るよ、何で来た? 私はバスなんだけど」
俺は自転車で来ていたので名残惜しいが図書館を出たところで別れた。あまり楽しくなかった世界に彩りが加えられた気分だった。
「なあ、あれコハルじゃね?」
「ねーねー、あそこにいるのコハルじゃない?」
2人が図書館から出てきたところを目撃した者がいた。