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ボクの彼女は能力者!  作者: タコ
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第1話 能力の目覚め

「おーい、蓮くーん?大丈夫ー?」


 長いようで短い夢から醒めたボクを待っていたのは、ボクの彼女の夢香だった。

 彼女はボクの顔を覗き込むようにしてこっちを見ている。すごく…近い…。

 ボクが恥ずかしさで顔を赤くしていると、それに気付いた夢香も途端に頬を赤く染め、ボクから目を逸らした。


「そ、それよりもさ、蓮馬どうしちゃったの?突然眠っちゃって…クレープも落ちちゃったし…」


 夢香は照れ隠しの為なのか早口になっている。そういえば、手に持っていたはずのチョコバナナ入りのクレープは(夢香曰く)意識を失った拍子に地面に落ちてしまっていた。無残な姿となったそれを眺めて(まだ半分以上残っていたのにな…)なんてどうでもいい事を考える。


「ご、ごめん…突然眠っちゃったみたいでさ」


「デート中に寝るって…もしかしてデート、面白くなかった?」


 夢香の顔が沈む。そんなわけないじゃないか…と言ってもデート中に突然眠られたらそう思われても仕方ないだろう。ボクは必死に弁解を試みる。


「そんなわけないだろ?ほら、あれだ。人は安心すると眠くなるって言うだろ?」


「そうなの?初耳ー」


「そうなんだよ、人ってのは本当に安心すると幸福感で眠くなるもんなんだ。夢香も経験あるだろ?」


「うーん…あ、確かに蓮くんの部屋で一緒にいたら心地良くなって眠くなるかも」


「だろ?つまりそういうことなんだよ、うん」


「なるほどー!納得!」


 夢香は腕を組み、大袈裟に頷いてみせる。

 何とか言い訳に成功したようだ。言い訳といってもハッタリではない。実際に安心すれば人は眠くなるものだ。まあ流石にいきなり死んだように眠ることは無いと思うが…


 そんなやり取りをしている間に空が赤く染まり始めた。公園に設置されている時計の針は六時を指していた。そろそろ夏がやってくる時期だ。寒くもなく暑くもないこの時期がボクは結構好きだったりする。


「この季節を2人で迎えたのって、何年目だろうな」


「うーん、17年目ぐらいじゃない?」


「そっか、そりゃそうだな」


 ボクらは幼馴染だ。偶然同じ団地内に住んでいて、偶然生まれた時期が近くて、一緒に遊んだりしているうちに偶然お互い好きになって、こうなった。

 こういう関係になったのは確か小6の時だ。ボクはずっと親友みたいに思ってたのだが、夢香の方から下校中いきなり告白された。

 困惑したね、あの時は。その時からボクは夢香を異性として認識せざるを得なくなったのだから。

 とりあえず告白されたからには返事を出す必要があって、よく分からぬままOKを出してしまった。その後は妙にぎこちなくなり、数日はろくな会話も出来なかったっけ。


「そろそろ暗くなりそうだし帰るか」


「そだね、課題もいっぱい出てるし」


「それを思い出させないでくれ…」


 2人の笑い声が辺りの静寂をかき消す。

 この公園は2人のメインデートスポットだ。高校からの帰り道の途中にあるし、ここから歩いてすぐに家があるのでここに遅くいても問題無い。それなりに広くて整備もしっかりされており危険も少ないので、近所の子供たちの遊び場としてよく使われている。今日は日曜の午後というだけあってボクら以外に誰もいないようだが…


 落ちてしまったクレープを片付けた後、ボクらは談笑しながら帰路に就いた。ふと、足元を黒猫が駆けていく。首輪が付いているので、きっと飼い主がいるのだろう。


「猫かー。いつか飼ってみたいねー」


「猫なあ…ボクは猫アレルギーだからちょっとな」


「あっ、そういえばそうだっけ」


 恋人関係となって数日はぎこちない雰囲気になってしまったものだが、そんな感じで過ごしていくうちに、今まで普通に一緒にいたのに急に変わってしまったのが何だかおかしくて、ボクは努めて普通の行動をするようにした。で、それが夢香にはおかしく見えたんだろう。夢香が笑い、ボクも釣られて笑い。やっぱりこうじゃないとな、って事で今までのような関係に戻れたのだ。

 それからは誰もが認めるバカップルである。リア充なんてのは基本的に嫌われてしまうものだが、ボクらは幼馴染な上に付き合いも長いせいで、もう憎まれる事すらない。


「家、見えてきたねー」


「そうだな…じゃ、そろそろお別れか」


「え~…じゃあさ、折角だから私ん家で一緒に課題しよ?分からない所ばっかで一人でできなくてさ…晩御飯出すよ?」


「正直ボクもあんまり分からないんだが…ま、いいか、一緒にやると分かるかもしれないし」


「そそ、じゃあ決まりだ!…あ、さっきの猫ちゃん」


 団地に入る前の小さな交差点の中央にさっきボクの横を駆けていった黒猫がポツンと座っていた。


「あんな場所にいたら危なくないか?」


「確かにね…おーい、猫ちゃん。こっちこっちー」


 夢香が黒猫に向かって呼びかけるも、反応なし。そんな時、ボクの耳にエンジン音が飛び込んできた。


「あ―」


 ボクの口からため息に近い声が漏れた。目の前を軽トラが横切ったかと思えば、黒猫が視界から消え失せていた。

 夢香は大きく目を見開き、両手で口を覆った。ボクも暫く唖然としていたが我に返り、軽トラの走っていった方へ向かう。そこには血を流した黒猫が力無く倒れていた。


「し、死んでるのか…」


 ボクは一瞬にして不穏になった世界から逃げるように黒猫から目を逸らし、夢香の元へと戻った。夢香は蹲ったまま潤んだ目ででこちらを見つめる。


「猫ちゃん…無事だった?」


 ボクは何も言えず、黙って首を横に振る。同時に、夢香の目からポロポロと涙が零れ始めた。ボクは何とか夢香を慰めようと、しゃがみ込んで彼女の頭を優しく撫でた。


「私が…助けてあげられなかったから…」


「夢香のせいじゃないって。…どうしようもなかったんだ…」


「でも!私なら助けられたかもしれないのに…」


「そ、そうかもしれないけど…」


 …ボクはどうすればいいんだ?確かにあの黒猫は救えたかもしれない。でも、救えなかった今、黒猫を救う方法は無い。

 夢香は優しい。優しすぎる故に、このような事で深く心が傷ついてしまう。昔からこうなんだ。ボクはそんな彼女の性格を愛おしいと思うと同時に、どうしようもなく危うく感じてしまう。

 ボクは彼女を包み込むように抱きしめた。彼女の心が壊れてしまわないように…

 夢香も少し安心したのかボクにもたれかかってくる。夢香の温もりがボクの肌に伝わってくる。


「…ありがと。優しいね、蓮くんは」


「…夢香も優しすぎるよ…」


「…そうかもね…」


 ボクらは暫く抱き合った。こんな路上でこうし続けるわけにもいかないのだが、今は夢香を落ち着けないとな…

 その時、突然目の前が歪み始める。何だ…?もしかして、またあの世界に…?

 しかし、視界が歪むだけであの世界に連れて行かれる気配は無い。その代わりに、どこかから声が聞こえてくる。


「どうしたの蓮くん…?」


「いや、ちょっと視界が歪んで…」


《お前は、あの黒猫を救いたいか?》


「だ、誰だ…」


《お前は、咲花夢香を救いたいか?》


「当たり前だ…」


 ボクは正体不明の声に答える。どうやら謎の声は夢香には聞こえていないらしく、うわ言のように喋るボクを不思議そうに見つめている。


《その意思さえあれば結構。我が名はクロノス…時間の流れを操る神だ。お前のパートナー、咲花夢香に我が力の断片を与えよう》


「一体何を…?」


《タイムリープ能力…黒猫を救う鍵であり、世界を救う為の鍵の欠片…如何にして使うかは2人次第…》


 クロノスと名乗る声がそれだけ告げると、視界の歪みは無くなり、声も聞こえなくなった。


「ね、ねえ。大丈夫?蓮くん」


 夢香の不思議そうな声でボクは我に返る。さっきの夢の続きか…?いや…今のは紛れもない現実だ。だとすれば、あの謎の老人の言う、夢香に与えられた世界を救う鍵の欠片である神の能力というのは…


「タイムリープ…」


「へ?」


 ボクは立ち上がり、しゃがみ込む夢香に手を差し伸べた。夢香もその手を取って立ち上がる。

 ボクは夢香を真っ直ぐに見つめる。夢香を救う為に、賭ける価値は…あるはずだ。


「夢香、あの黒猫、ボクらで救えるかもしれない」

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