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白天兵団  作者: 鈴の木あきら
竜王の影と嵐の騎士 オルデン編
1/1

プロローグ 英雄の最後

アルファポリスから移しました。更新はゆったりします。

 その日は、生憎な雨だった。鎧に水が入り込み、泥に足を取られ、酷く歩き難そうな兵士達にその男……黒髪に静かな瞳、精悍で中性的な顔立ちの男、テストは励ましの声を掛ける。


「おーい! この残党狩りが終わったら皆で飲みに行くぞー、もちろん俺の奢りだー」

「全員聞いたか! おごりだってよ! 今日こそテスト将軍の財布を空にしてやろうぜー!」


 テストの声に反応した一人が、そう部隊全体に呼びかける。

 誰の声かは、分かっているが注意はしない。この状況下での明るい呼び掛けは馬鹿に出来ない。


「「「おぉぉ!!」」」


 実際に、さっきの呼び掛けによって下がりかけていた士気が持ち直した。例え残党狩りとは言えど命懸け、士気を支え、盛り上げるムードメーカーの存在はかなり大きい。


(よし、士気は上々、もうすぐ最後の残党勢力とぶつかるな)


 残党勢力の集まった魔力を確認すると、部隊全体に号令を掛ける。


「全員、戦闘準備!! すぐに、残党勢力とぶつかるぞ!」


 テストの号令に、部下達は「うおぉ!」と応えた。そして、残党勢力と先頭の兵士達が戦闘を開始したとの報告が入った。


「敵、残党兵達が、先頭の兵士達を強襲! それと同時に戦闘が開始されたとのことです!」


 テストは兵士の報告を聞いて顔をしかめる。


「強襲? この隊の人数は二百人は居るはずだ……なのに、たった数十人の残党が強襲するなんて無謀過ぎる」


 報告に来た兵士は「いかが致しますか?」と、視線を向けてくる。


(何かの罠か、あるいは最後の悪足掻きか、どちらにせよ叩くことに変わりはない)


 そう考えをまとめると、すぐに兵士へ指示を出す。


「返り討ちにしろ! 出来る限り捕縛、手に負えない場合は討伐も許可する!」

「はっ!」


 テストの指示を聞くと、兵士はすぐさま先頭へと走り去っていく。

 その背中を見送ると、テストは誰かに話し掛ける。


「お前達も前線に行ってきてくれ。どうにも嫌な予感がする」


 すると、四人の男女がテストの横を風の如く駆け抜けていく。そして、テストは言い知れぬ不安を抱きながら、その四人を見送るのだった。




「今回も楽勝だな! 暴れるぜぇぇ!」


 威勢よく叫ぶのは、四人の中で一番若く、歳はおそらくは15歳の少年だ。髪は深紅、瞳も紅く、獲物を狙う野獣の如き荒々しさを纏っている。


「慢心してはいけません……ぐす……哀しい事ですが……ぐす……それは悲劇を呼びます……ひっく……」


 泣きながら少年を諫める美少女、17歳の少女でありながら、深い蒼の髪と瞳は神秘的な印象。そして、悲壮感を纏う容姿はかなり背徳的だった。


「確かに、生きてりゃあ楽しいことが沢山あるからな。この戦いも楽しいねぇ!」


 少女に同意と頷く男、歳は二十代前半、所々に軽い雰囲気に鋭さを持ち、明るい茶髪に顎髭を生やしている。しかし、冒頭で士気を高めたのは彼であり、抜け目無さも兼ね揃えていた。


「ああ! 速く終わらせて、皆で酒を飲もう! これが終われば、酒を飲み交わせる……これ程嬉しいことはない!!」


 二十代後半、表情は常に真顔、青みがかった黒髪に瞳は真面目を絵に書いた様な印象だ。そんな、リーダーの男が三人に言うと、三人は頷き、戦場へと走り抜けていく。




 ─────────────────────────────




 テストは、四人を見送った後、この戦争を思い返していた。


(そもそも、最初からおかしかった……)


 二日前、この戦争の始まりは突然だった。




『陛下! 同盟国の一つ〈ファウル〉が突然我が国〈ジェネラス〉に宣戦布告!! 現在、軍を率いてこちらに進軍中とのことです』


 王の執務室に兵士が、駆け込んできて大慌てで報告をしていた。すると、王はその場に居た将軍達に素早く指示を出した。


『すぐに、偵察隊を送り、現状の確認及び敵軍戦力の把握を急がせろ!!』


 王からの指示を受け、将軍達はそれぞれの持ち場へと向かっていく。


『テスト、この戦争どう思う?』


 将軍達と共に、執務室から出て行こうとするテストを王は呼び止め、今の現状について聞いてくる。


『分からない……ですが、突然過ぎる。何者か裏で操っている可能性が高いと思います』


 テストの言葉に、王は『そうか……』と頷くと椅子に座る。

 その様子を見て、テストは浅く頭を下げると、執務室から出ていく。

 執務室から出ると、そこには二人の男が立っていた。歳は四十代と言ったところだろうか。

 一人は、背は低いが、鎧の下の鍛え上げられた身体からは絶対的な自信が満ち溢れている。

 もう一人は背は高いが、やや痩身で本を脇に抱え、軍服をきていた。


『ベンタロン、テイル。二人共、準備は済んだのか?』


 テストの言葉に、背の低い男……ベンタロンが頷く。


『まあな……テスト。実はたった今、偵察隊から連絡があった』


(そうだ、この時ベンタロン達が気になることを言っていた)


「重要なのは三つです。一つは敵軍に魔物、機兵等の大型戦力の存在。二つ目は謎の影の様な物の姿。最後に敵大将から立ち上る異様な魔力。以上の三つです」


 テイルが、ベンタロンから説明を引き継ぎ、分かりやすくまとめた。


「影? 異様な魔力?」


 テストが首をかしげていると、ベンタロンが捕捉を入れる。


「偵察隊の話しだと、深い深淵の様な真っ黒い魔力だったそうだ」




 テストは、ここまで思い返し、あることを思い出した。


(影、深い闇、これは遥か昔の……まさか!)


 しかし、その時だった。


 ゴオオォォォオオン


 突然の地鳴りと轟音、テストは後ろを振り返る。

 すると、後ろを付いていた兵士達数人を巻き込みながら、大量の岩がなだれ込んできていた。


「総員、前方に逃げろ! 喜怒哀楽と合流して、先へ進め!」

「はっ! テスト将軍は?」

「俺はこいつを抑える! 急げ! 巻き込まれるぞ!」


 テストは、なかば無理矢理部下を行かせると、腰から一丁の拳銃を引き抜いた。


「荒々しき竜の羽ばたき、巻き起こすは嵐!! 天災【テンペスト】!!」


 すると、拳銃は魔力によって姿を変え始めた。

 銀色の銃身に、グリップには翠の竜鱗が使われている。これが、天災【テンペスト】の真の姿だった。


「渦巻く二匹の竜!〈ツインテンペスト〉!!」


 風の魔力で造り出された二匹の竜が、岩にぶつかる。

 しかし、魔力が弾かれ、岩は砕けず、勢いが少し弱まっただけだった。


(まだだ、もう少し勢いを殺さないと……)


 岩は雨に濡れて、猛スピードになっていた。

 その為に、〈ツインテンペスト〉で食い止める他なかった。




 ─────────────────────────────




 喜怒哀楽、それは感情の呪いにより、強大な力を持った四人の戦士達。

 その中で最年少のイーラは、最後の残党を捕縛した所だった。


「よっしゃ! これで最後っと!」


 イーラは、腰に手を当てると、周りを見渡す。


「しっかし、手応えねぇなあ! テスト将軍の嫌な予感は外れたかな?」


 イーラの言葉に、他の三人も周りを見渡す。やがて、互いに向き合い首を振る。

 その時、後ろを付いていた、テストの部下が兵士達を連れて来たのを発見した。


「どうした!? 何があった?」


 そう問い質すのは、青の入った黒髪、リーダーのマルスだ。


「て……テスト将軍が、岩崩れから我々を逃がすために……」


 イーラはその報告を聞いて、嫌な胸騒ぎがした。

 そして、気がついたら走り出していた。


「イーラ! 待てっ!」


 走り出したイーラをルークがいつもの飄々とした雰囲気を引っ込め、止めようとする。

 しかし、唯一の女性、ライムがそれを止めた。


「ルーク……ぐす……テスト将軍はイーラに任せましょう……ひっく……」


 ルークは、その言葉に渋々頷くのだった。




 ─────────────────────────────




 イーラがテストの元へと着いたときには、〈ツインテンペスト〉の威力は落ち始めていた。


「テスト将軍! 助太刀するぜえぇぇ!」

「イーラか!? 何してる! お前も逃げろ!」


 イーラは、テストの言葉を無視して剣に魔力を込める。


「熔けろ! 【熔撃 熔岩斬】!!」


 剣から放たれた一撃は、岩に命中する。

 しかし、岩はびくともしない。


「な、なんで……」

「魔力が……弾かれてるんだ……」


 イーラの言葉に、テストが答える。


「さっきから、〈ツインテンペスト〉も弾かれ続けているんだ。」


 テストの言葉と同時に、〈ツインテンペスト〉の竜が消え、岩が動き出した。


「テスト将軍! 早く避けろ!」


 イーラが叫び、テストの元へと行こうとする。

 しかし、イーラの目の前に風の壁が形成されてしまった。


「テスト将軍!? なんで……」

「〈ツインテンペスト〉の反動で数十秒は動けない、イーラお前は逃げろ……」

「何言ってんだよ! 早く走れよ!」


 その言葉に、テストは優しい笑みを浮かべ、イーラに話し掛ける。


「イーラ……これで、さよならだ……だから、一つ、頼みを聞いてくれ……最後の頼みを……」

「最後……なんて……言うなよ……」


 その後ろでは、大量の岩がテストを飲み込もうと覆い被さろうとしていた。


「妻……アイリスと……息子……クラストを……頼む!!」


 そして


 ドオォォォン……


 テストは、岩なだれに飲み込まれ、イーラの足元には、壊れた拳銃と、折れた剣が落ちていた。それらはテストの遺品であった。


「テ……スト将軍……うあぁぁぁ!!!」


 イーラの叫びが木霊する、雨の降る渓谷の谷間で……

 その後、機兵による撤去作業が行われたが、テストの遺体は見つからなかった。




 ─────────────────────────────




 テストの葬儀の時、イーラはアイリスとクラストにテストの遺品を手渡した。アイリスは葬儀の最中、ずっとクラストと?テストが連れて来たと言う、孤児二人を優しく撫でていた。

 その後、喜怒哀楽は解散し、それぞれの道を進むことになった。イーラは、テストに言われた通りに村へと移住した、アイリスとクラストを見守る為に……

 ベンタロン達も村へと移住事にした、いつか来る時の為にと……


 こうして、一人の英雄が最後を向かえ、新たな英雄が生まれる……これは、その序章に過ぎない……

更新は遅めに、成りますが、気がついたら読んで貰えると嬉しいです。コメントはお手柔らかにお願いいたします。

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