ーマン
自分でもなにがなんだかわかりません。
タイトルは「スーパーマン」→「パーマン」→「ーマン」だと思います。
悠々自適な不登校生活を送る僕の部屋に、突如、自称スーパーヒーローが現れた。
スーパーヒーローは、両脇に羽根を模したオブジェのついた底の深い野球のヘルメットを被り、
全身タイツの上から黒のブリーフを履いている。
マントをはためかすその出で立ちは正義の味方というよりも、不埒なちょっとあれな人である。
不審者のその男は二階にある僕の部屋の窓から闖入するなり、僕にもスーパーヒーローになれと言ってきた。
「男子たるもの一度は憧れる正義のヒーローになる権利を与えよう。どうだい?」
「やりません」
「それでは、この変身グッズを進呈しよう」
「だから、やりません」
「もし、正体がバレてしまったら、この脳細胞破壊銃で頭をパーにしてしまうからね」
「強引なキャラを装って、なし崩し的にやらそうとしてるみたいですけど、やりません」
「なんでだ! 冴えない中学生である君が脚光を浴びる唯一のチャンスなんだぞ!」
頑なに拒絶を示す僕を前に、スーパーヒーローは地団駄を踏んだ。
「それって、おかしくないですか? 正体をばらすのは禁止なんですよね?
だったら賞賛されるのは僕ではなくて、別人じゃないですか。
そんな自尊心の満たし方、ユーチューバーよりも質が悪いです」
スーパーヒーローは「まったく、口の減らない子だ」とぶつぶつ呟いて、ベッドに腰かけた。
「昔はよかったよ。
世界中の子供たちがこぞって変身をして、事件を解決するために飛び回ったものさ」
「大人はすぐ過去を賛美しがちですよね。
スーパーヒーローになれば、受験が有利に働くんですか?
将来、履歴書にスーパーヒーローの経験ありと書けるんですか?
給料は発生するんですか?
現代はシビアな時代なんです。
無償の栄誉も、無駄な時間もないんです」
「不登校という、最も無益な時間を浪費している自覚はないのか。
君、盛大にブーメランが突き刺さっているよ」
「う、うるさいです」
僕はむっとして机の椅子に座り、パソコンを起動させてネット掲示板を巡回しはじめた。
もう、スーパーヒーローに構うつもりはない。
「あーあー、君の幼馴染のユリアちゃん、最近彼氏と別れたらしいのになあ」
突然、開示されたゴシップに、僕の指先はピクリと反応した。
「君が正義のヒーローになって、ユリアちゃんのピンチを救えば、某蜘蛛男的な恋愛に発展するかもしれないのになあ」
「か、か、か、関係ないですから、全然」
僕はスーパーヒーローの卑劣な誘惑に屈せず、毅然とした態度を崩さなかった。
「わかったよ。今日は一旦退散しよう。一応、変身セットと模写人形は置いておくから」
諦めたスーパーヒーローは嘆息すると、窓のほうに向かってとぼとぼ進んだ。
「模写人形ってなんですか?」
「ああ、ヒーローが活躍している間、日常に支障がでるだろう。
だから、この模写人形が代わりになってくれるんだ。
人形の鼻部分にある赤いボタンを押せば、その人そっくりに構造を変化してくれる」
「便利な道具ですね」
スーパーヒーローは窓枠に足をかけると、顔だけを僕のほうに向けた。
「世の中にはね、君より悲惨な人がいっぱいいるんだよ。
君は頭も悪くないし、顔は爬虫類系だけど、努力すれば雰囲気イケメンになれる素質が残されている。
ちょっと頑張ってみなさいよ。さもないと坊一郎になっちゃうぞ」
スーパーヒーローはいらぬ助言を残して、飛び去っていった。
僕はやや乱暴に窓を閉めて、しっかりと施錠をした。
「ちゃんと、回収にくるのかな」
僕はベッドの上に置かれた変身グッズと模写人形を見下ろした。
翌朝、僕にそっくりな僕が溌剌と登校をしていった。
変身グッズはとりあえずクローゼットの奥にしまっておくことにした。
昔に書いたものを上から順番に投稿しているのですが、
これに関しては書いた記憶がすっぽり抜けています。
なにがしたかったんだろう。
読んで頂きありがとうございました。