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船長の疑念

「……フィリーネ、手前、何でリューヤを庇った?」


 竜也を、エミリアをつけて厨房に案内させたフィリーネが席に戻ると共に、大きな溜息を吐きながらジェイクがそう尋ねた。

 フィリーネは「ん」ととぼけつつ、自身の前にあるスープを他の乗組員へと渡す。渡された乗組員は嬉しそうに、普段は食べられない二杯目のスープを食べていた。


「とぼけんじゃねぇよ。リューヤのことを手前が庇ったなんて、誰が見ても分かんだろ」


「……ん」


「俺は、リューヤの首を刎ねるつもりだった」


 ギロリ、とフィリーネを睨みつける。眼帯をしているために片目だけの睨みだが、ヴォイド号乗員ならば誰もが恐れるジェイクの眼力を、しかしフィリーネは無表情で受け止めた。

 ジェイクは、まだ竜也が訳の分からないことを言い続けるならば、あの場で首を刎ねる覚悟があった。

 例え己が五万アルという大金を出して購入した奴隷であったとしても、船という狭い世界において、乗組員の和を乱す者は必要ない。

 だというのに未だ竜也が生きていられる理由は、唯一つ。フィリーネが庇ったからに他ない。


「手前が庇わなければ、俺はリューヤの首を刎ねていた。それが分かったから、手前が預かったんだろ?」


「……ん」


「俺は乗組員を家族だと思っている。リューヤもそうであってほしい。だが……和を乱す家族は必要ねぇ。これについては、手前も同意見だろ?」


「……ジェイク。短気は、だめ」


 フィリーネは短く、そうジェイクを嗜める。

 しかし、そんなフィリーネの態度に対しても、ジェイクは鋭い眼差しを止めなかった。


「俺ぁ船長として、斬り捨てるべきだと思った」


「……フィーは副船長として、庇うべきだと思った」


「……」


「……」


「……」


「……」


 ジェイクとフィリーネが睨みあう。

 他の乗組員が固唾を飲んで見守るその対立。お互い、目を逸らそうとしない。

 最初に口を開いたのは、フィリーネ。


「……興味が、あった」


「興味だぁ?」


「……リューヤは、料理じゃないって、言った」


「ああ、言ってたな」


「……ジェイクは、料理食べたこと、ある?」


 そんなフィリーネの言葉に、む、とジェイクは眉根を寄せる。

 料理。

 確かにその言葉は聞いたことがある。だがジェイクにとっては、食べ物を何らかの手段で加工する技術、という認識だ。

 例えば、生肉は食べると体に変調を来たすことがある。だからこそ変調を来たさないように焼いたり炙ったり煮たりすることにより、摂取しても問題がないようにする。魚や貝についても同様で、生で食べると下痢を起こすようなものもある。

 だからこそ、料理とは『食べられないものを食べられるようにする行為』としかジェイクは認識していない。


「このスープは、料理じゃねぇのか?」


 だからこそ、ジェイクの認識では、『肉、魚、野菜を加熱することによって食べられるようにしたもの』が料理である。それ以上のものなどない。

 だが、フィリーネは首を振った。


「……リューヤの料理は、多分、違う」


「くだらねぇ。メシなんて腹に入ればどれも一緒だろ」


「……フィーは、信じる」


 変わらぬ無表情で、しかししっかりとフィリーネは告げる。

 しかしジェイクは、そんなフィリーネの言葉に眉根を寄せるだけだった。

 どうせ腹に入ればどれも一緒。食事など、空腹を満たすだけの行為でしかない。食事をしなければ体が動かなくなる。だから食べる。それ以上の意味などないし、それ以下の意味もない。

 だから、フィリーネの言葉にはどうにも疑念を返すことしかできなかった。


「無駄にした材料は、フィーの取り分から天引きさせてもらうぞ」


「……ん。無駄にしたら、ね」


 食事とは腹に入ればどれも同じ。

 ジェイクは嘆息して、今厨房にこもっているリューヤに、届かずとも毒づくことしかできなかった。


「随分、うちの副船長を誑かしてくれてんじゃねぇか……」


「……? ジェイク?」


「なんでもねぇよ」

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