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鳳如と風邪


 おまけ②【鳳如と風邪】














 「ふぁああ、眠い」

 寝不足なわけではないが、眠りが浅いせいか、疲れが取れていない様子の鳳如。

 報告書に目を通し、ハンコを押すだけの仕事なのだが、どうもやる気が起きない。

 デスクに顔を横にして置き、だるい身体をどうやって動かそうかと考えていた。

 「いつも面倒臭いけど、なんでこんなにだるいんだ?」

 はあ、と大きくため息を吐いた鳳如は、シャワーでも浴びてスッキリすることにした。

 髪を適当に荒い、しばらくシャワーを浴び続けていたのだが、身体が重く、倦怠感に包まれ始めた。

 腰にタオルを巻いてベッドに横になると、そのまま髪も乾かさずに寝てしまった。

 「あれ?鳳如ここにもいねぇのか」

 その頃、北の建物の修復にかかる費用と予算について聞こうと思っていた帝斗は、鳳如を探していた。

 最初に鳳如の部屋に向かい、次に煙桜の部屋、琉峯の部屋にも行って麗翔のところにも探してみた。

 ベランダも屋上も、全て探したはずなのに、鳳如は見つからなかった。

 「どこだー?」

 まあ鳳如の部屋で待ってればいつか会えるだろうと、帝斗は鳳如の部屋に戻った。

 すると、そこに腰にタオルを巻いただけの鳳如がうつ伏せになってベッドで横になっていた。

 「なんだよ、シャワー浴びてたのか?」

 部屋に入って鳳如に近づいてみると、鳳如はこの体勢でぐっすりと寝ていたのだが、どうも様子がおかしい。

 ごろん、と仰向けにしたみると、鳳如の顔は赤く、触ってみると熱かった。

 「珍しい」

 どうしようかと思い、とりあえず掛け布団の上に寝ていた鳳如の身体を担ぎ、ちゃんと敷布団の上に寝かせ、上に掛け布団を乗せた。

 そしてそのまま部屋を出て行くと、とある人に看病を頼んだ。

 「ん・・・」

 鼻にツンとくる強烈な臭いがして、鳳如は目を覚ました。

 「あ、起きた?」

 「・・・なんで麗翔がここにいるんだ?」

 鳳如が目を覚ますと、そこには温かい何かを持っている麗翔がいた。

 「なんでって、帝斗に鳳如が風邪ひいたみたいだから看病してやってくれって頼まれたのよ。ほらおかゆ作ってきたから!」

 「・・・・・・」

 最も看病するにあたって不適合者が選ばれたものだ。

 ニコニコと笑いながら、麗翔はキッチンで作ってきたソレを自慢気に見せる。

 ツンとする臭いは、確かにコレからする。

 それに、何やらどろっとしたものが見えるし、色も赤い。

 「何が入ってるんだ」

 「んっとね、米」

 「米以外でだ」

 「豆乳にニンニクにお酢に納豆にチーズにえっとそれからキムチだったかな」

 「自分でも不確かなものを入れるな」

 臭いからして凶器だと判断した鳳如だったが、麗翔が満面の笑みでおかゆをスプーンに掬い、差し出してきた。

 ぐいぐいと顔に近づけてきたソレに耐えきれず、鳳如は部屋から逃げ出した。

 「あ!待ちなさい!!!」

 向かった先は、元凶とも言える男のもと。

 「あ、治ったのか?」

 「治ったと思うか?」

 「・・・いや。てかその格好でよくここまで走ってきたな。変質者で捕まらなかったのは奇跡だ」

 悠々と椅子に座り、何か本を読んでいる最中だった帝斗は、自分の部屋に駆け込んできた、腰にタオルを巻いただけの男、鳳如に向かって平然と告げた。

 「ぶえっくしょん!!」

 「ほらな。大人しく寝てりゃあ良かったのによ」

 ずび、と鼻水を啜りながら、帝斗の胸倉を掴みあげる。

 「あのままじゃ俺は殺されるぞ」

 「大丈夫だって。腹は壊しても死にはしねえから」

 「薬持ってこい。薬飲んどきゃ治るんだよ」

 「薬なら麗翔が持って行ったぞ」

 「・・・・・・」

 ピシ、と石のように固まってしまった鳳如の後を追いかけてきた麗翔が、おかゆを手にここでようやく追いついた。

 「もう!ちゃんと食べてよね!」

 「毒味したのか」

 「してないわよ?」

 「薬だけよこせ。お前はもう仕事戻っていいから」

 「そういうわけにはいかないでしょ!ちゃんとご飯食べて、それで薬を飲むの!それにそんな恰好じゃ余計風邪ひくわよ!」

 「麗翔」

 「なによ」

 「はっきり言うぞ」

 「言いなさいよ」

 「お前の料理は人を殺せる」

 「・・・はあ!?何馬鹿なこと言ってんのよ!?確かに見た目はちょっと悪いかもしれないけど、大丈夫だって!」

 「前にもお前のクッキーを食べたが、そのときも俺は一瞬花畑が見えた」

 「あれは・・・だって失敗したもん。あれはね!あれは、材料に蛇の抜け殻とかイグアナの尻尾とか蠍を入れたからなんだけど・・・でも今回はそんなもの入れてないもん!ちゃんとした食べ物入れてるもん!」

 「そんなもの入れてたのか」

 「帝斗からも言ってよ!このままじゃ風邪が悪化する一方だって!」

 「鳳如、麗翔のおかゆなんざ喰わなくていいからよ、琉峯が作った野菜スープでも飲んで、んで薬飲んで寝てろ」

 「なによそれ」

 「分かった!ここはお前に任せたぞ!」

 「おう!麗翔はここで喰いとめておくから、お前は早く・・・・うっ!!!」

 「どうした帝斗!」

 後ろから呻き声とともにドサッと倒れる音が聞こえ、鳳如は振り返ってみると、そこにはピクピクと身体を微かに動かし、口からは怪しげな物体を零している帝斗と、手におかゆを持って仁王立ちしている麗翔がいた。

 「帝斗――――――!!!」

 「こ、ここは、まか、せろ・・・」

 息絶えたように帝斗は動かなくなってしまった。

 「くそ!帝斗、お前のその勇士、忘れないからな!」

 鳳如は犠牲になった帝斗を残し、琉峯がいるであろうキッチンまで全速力で向かっていた。

 「あ、風邪は大丈夫なんですか?というか、服はどうしたんですか?」

 「りゅ、琉峯!」

 「はい」

 「帝斗は勇敢な男だった!だから俺に野菜スープを恵んでくれ!!!」

 「・・・よくわかりませんが、どうぞ」

 琉峯に渡されたスープを飲むと、温かいしとても美味しかった。

 三杯ほどおかわりをしたところで、何か声が聞こえてきた。

 「どこだー・・・どこにいるー・・・」

 ガタッと椅子から立ち上がった鳳如だが、眩暈がしたのか、少しぐらついてしまった。

 「大丈夫ですか?」

 「ああ。それより、来るぞ!奴が来るぞ!」

 「奴?麗翔の声ですよね?」

 「奴はとんでもない兵器を手にしている!琉峯も気をつけろ!」

 ガラガラ、とゆっくり開けられたドアの向こうから、真っ黒いオーラを漂わせている麗翔がこちらをじーっと見ていた。

 「食べて」

 「避けろ!あれは世界をも滅ぼし得る強大な力を持っているぞ!!」

 「・・・えっと」

 麗翔がおかゆを差し出せば、鳳如は琉峯の背に隠れて怯えている。

 二人に挟まれていた琉峯だったが、そのとき、鳳如に仕えている獅子が姿を現した。

 その時丁度、鳳如は風邪が悪化したのか、床に倒れてしまった。

 獅子に事情を説明すると、獅子は麗翔の作ったおかゆをクンクンと嗅ぎ、次に琉峯のスープを嗅いだ。

 ―俺の主にそんなもの食わせるな、麗翔。

 「なっ!!」

 ―琉峯、悪いが後で薬でも飲ませてやってくれ。

 「はい」

 そう言うと、鳳如を咥えて背中に乗せると、獅子は鳳如の部屋まで行ってしまった。

 鳳如を起こして服だけは着せると、琉峯が薬を持ってきたため、それを飲んだ。

 獅子が消えてから、鳳如はしばらく一人で部屋でゆっくり寝ていた。

 鳳如の部屋を出た琉峯は、また別の部屋で、麗翔の犠牲になった人物を見つけ、しかたなく介抱した。

 翌日、すっかり元気になった鳳如は、ルンルンと仕事もせずに歩きまわっていた。

 「あれ?帝斗どうしたの?」

 先日帝斗が鳳如のデスクに置いておいた、修繕費の予算についての資料を持ってきたのは良いが、帝斗はベッドに横になっていた。

 ゆっくりと鳳如に視線を向けると、ふっ、と小さく笑った。

 「麗翔に喰わされたおかゆのダメージがまだ残ってんだよ」

 「同情するよ。これ、ここに置いておくぞ」

 「はいよ。ああ、頼みがある」

 「何だ?」




 「琉峯」

 「はい」

 「帝斗がなんか美味いもん作ってくれって言ってたぞ」

 「美味いもんですか」

 作ったら持って行ったやれと言われ、琉峯はおにぎりでも作ってあげようとキッチンへ向かうのだった。

 「麗翔、何してるんですか?」

 「琉峯!帝斗が寝こんでるって聞いたから、煮物でも作ってあげようと思って!」

 「煮物、ですか」

 煮物には見えないそれの材料を聞いてみると、じゃがいもに人参、そこまではよかったが、ウインナーにマヨネーズ、ケチャップ、ブロッコリーにリンゴと、やはり変なものを入れていた。

 今日はそれを少し指につけ舐めると、麗翔は「ん!」と感動したように言い、琉峯にも味見をするように頼んだ。

 恐る恐る口に入れてみると、眉間にシワを寄せ、麗翔を見つめた。

 「どう?」

 「・・・麗翔は」

 「なになに?」

 「・・・変わった味覚を持っているんですね」

 そう言って、琉峯はまな板を準備した。

 さらっと言われた琉峯の一言に、麗翔はしばらく料理はしないと心に決めたようだ。

 「琉峯!お前ってば天才!」

 「はあ・・・」


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