異世界霊と霊のボク
「すみません、これどうやるんですかねえ」
そうボクに尋ねてきたのは、若草色の魔法使いが着ていそうなローブを着た上品そうなおばあさんだった。
「えっと、どこですか?」
ボクはほとんど反射的に聞き返して、なにやらタッチパネルの端末らしきものの前で困っているおばあさんの手元をのぞきこむ。
困っている人に頼られるとついつい首をつっこんでしまうのは、やっぱりボクが田舎者のせいかもしれない。
募金なんかもついつい入れてしまうもんなあ。
都会に行くと、ボクみたいなのは少ないらしく、大学の寮にいた頃はずいぶん苦労したものだ。
それでもこういった性分というのは変わらないものらしい。
平野にある街と違って、山中を通る国道沿いに点々と小さな街が並ぶような地方の、その道からも外れた山間にある昔は隠れ里だったと言われる小さな村では、村全体が家族のようなものだった。
道を歩いてて食べ物を貰ったり頼まれ事をするのが当たり前のところだったからなあ。
「これ使い方が解らなくてねえ」
そうおばあさんが言っているのは、銀行やコンビニにいけばどこでもありそうな画面にタッチして選択していくタイプの機械を小型にしたものに見える。
画面には、 あなたのお名前を入力してください とある。
そして、その下には見た事もない文字が、縦横の線で四角く区切られてずらりと並んでいる。
「えっと、この文字読めますか?」
ボクはおばあさんに見たこともない文字群を示して聞いてみる。
「ええ、読めますよ」
おばあさんはにこにことそう答えた。
「えっと、じゃあ、おばあさん御名前は?」
「あら、申し送れましたわねえ あたしはサリムサ・アムリタ あなたは?」
「あ、白倉賢一です」
またも思わず答えてしまって、ボクはあわててつけくわえる。
「いえ、そうじゃなくて、ここのですね文字を順番に触っていくんです」
タッチパネルの使い方を簡単に説明しても解らないおばあさんに手取り足取り教えながらなんとか名前を打ち終えると、今度は新たな文字が画面に浮かんだ。
あなたの転生できる世界は二つです。
七十二柱の神と魔法と魔物の世界
二柱の神とその使途の争う顕神世界
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どうやらここは生まれ変わる場所を選ぶ役所らしい。
まわりを見てみると、ボクと同じ色のスーツ姿の人達がローブや鎧や豪華なRPGの王様が着ていそうな衣装を着けた人達にボクのように機械の使い方を教えている。
これは役所の人に間違えられたんだろうなあ。
そうと解っても今更、あとは役所の人にというわけにもいかない。
「あらまあ。 面白い仕掛けねえ」
無邪気に驚いてるおばあさんにこの人も異世界の人なんだろうなと思いながらボクは聞いた。
「どっちがいいですか?」
「争いの世界は嫌ですねえ」
「そうですよね、じゃあ上の方に触れてください」
おばあさんが触れるとそこが明かりが灯ったように光る。
「じゃあ次は進むを」
おばあさんが進むを押すと画面が切り替わる。
あなたの徳値は517です
徳値を消費して種族を選べます
必要徳値が高いものほど寿命が長くなっています
上位精霊 1000
精霊 700
魔人 550
ハイエルフ 500
エルフ 350
ドワーフ 300
上位人間 300
下位人間 250
動物 10
虫 1
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「虫にはなりたくないなあ」
思わずそう言ってしまった。
「そうでうねえ」
おばさんはくすくすと笑ってボクの顔を見る。
「あなただったら何に生まれたいですか?」
「うーん、平和に暮らせるんなら虫以外ならどれでもいいです」
「あら、動物でも?」
「飼い猫とかだったら」
「若いのに覇気のないこと」
おばあさんはまたくすくす笑った。