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ばかばっかり!  作者: 弥塚泉
2013年、うろな町役場企画課
8/42

『ポロリもあるよ! ドキドキ・水鉄砲ウォーズ』

 うろな町役場企画課。

 今日も彼らは各部署からの雑務を片手間に、資料室の片隅でうろな町をより良くするための企画会議を行っている。のだが、今日は一段と倦怠感が漂っているようで……。

「今日もあっついな。やってられんわもう」

「香我見クン、もう本気やん……」

 今日は役場外への公的な連絡があるということで珍しくノートパソコンを叩いている香我見は、額に冷えピタはもちろんのこと、首には濡れタオルを巻いている。目に見えるところではこれくらいだが、服の下もさぞ完璧な暑さ対策がされていることだろう。

「当たり前やろ。この暑い日に冷えピタも貼れへんとか、佐々木君ホンマに人間か?」

「常識みたいに言わんといてくれる!? まあ確かにボクが暑さに慣れてるゆうんもあるけど、香我見クンは耐性なさすぎやで」

「しゃあないやろ……文句あるんやったら地球温暖化止めてきて」

「無理難題すぎる!」

 取り組んでいた作業も一段落ついて、ふうと椅子に背中を預けると佐々木は襟元を扇いだ。

「そうや、それやったら久々に企画立てようや」

 左手にあったホワイトボードを傍らに引っ張ってきて、佐々木は大きく企画名を書いた。『ポロリもあるよ! うろな・涼しくなーれ企画』。

「下心が隠せてないねんけど。むしろ下心以外見えへん」

「企画概要はもちろんうろな町総出の水着コンテスト! 夏と言えば海! 海と言えば水着! 夏企画としてこれほど相応しいもんはないやろ?」

「総出ってな……佐々木君のストライクゾーンは?」

「三歳から」

「上は?」

「十二歳上まで」

「それより上来たらどないすんの」

「………………なんとか受け入れてみる」

「その熱意は別のとこに回し」

 じゃあもう一つ案があんねんけど、と佐々木は先ほど書いた企画名の下にペンを走らせた。『第一回うろなサバイバル! ドキドキ・水鉄砲ウォーズ』。

「へえ、案外まともそうなんがきたな」

「この企画はな、まず参加者は体操服に」

「却下」

「二十文字も喋らせてもらわれへんかったやて!?」

「とりあえず君は思考を全年齢版にするとこから始めた方がええ」

「残念でしたー、最近はエロゲやってませんー」

「俺の言い方が悪かった。CEROAまで引き上げろ」

「そんな企画はもう夏企画やない!」

「君はなんか夏を根本的に勘違いしてる」

 香我見も作業を終えてパソコンを閉じると、机に肘をついてあごを乗せた。

「それに目的がずれてきてるな。夏らしくなくても涼しければええねん」

「夏らしいのと涼しいっていうのは近いと思うけどなあ。ほら、香我見クンが持ってきた風鈴とか」

 佐々木が窓の方を振り返ると、宙を泳ぐ金魚がちりんと鳴った。

「あれだけあってもなんにもならへんはずやのに、あの音聞いてるだけで涼しなってくるやろ?」

 香我見はしばらくじっと揺れる風鈴を眺めていたかと思うと、ふと口を開いた。

「じゃあ冷えピタも夏らしいってこと?」

「それは違う!」

 フン、と香我見はふてくされたように椅子にもたれて腕を組んだ。

「じゃ、結局夏らしさと涼しさは関係ないってことやな」

「暴論やなあ。夏は香我見クンから論理的思考までも奪ってしもたんか」

「欲望むき出しの企画ばっかし立てる君に言われたないわ」

「ほな香我見クンにはなんか考えあんの?」

「神楽子とクーラーのきいた部屋でごろごろしたい」

「それ企画やのうてただの願望やんなあ!? 欲望丸出しやないか!」

「誰が企画やってゆうた? 俺と神楽子がこの夏涼しく過ごせるんやったらどこのどいつが干からびようが知らん」

「なんちゅうシスコン……いや、従妹やからシスコンちゃうんか?」

「佐々木君は滝にでも打たれとけば」

「そしてボクの扱いが驚くほど酷い!」

「えっと、俺の盆休みが八月のいつからやったっけな」

「本格的に予定練り始めんのもやめてくれへんかなあ!」

 佐々木が涙目で訴えかけてきたので香我見は渋々手帳をしまった。

「冗談はさておき、夏っぽい企画を出さなな」

「もしくは涼しそうな企画?」

 資料室にどんよりとした沈黙が落ちた。二人はまともな企画というものを考えることができなくなっていたのである。

 そのまま一時間も経った後、提出された企画書『ポロリもあるよ! ドキドキ・水鉄砲ウォーズ』を受け取った秋原から四十分相当の説教を六分で受けた二人は書類をどっさり抱えて泣きながら資料室に帰ったという。

「ていうか、夏なんだし素直に肝試しかなんかにしとけばよかったんじゃないですか?」

 たまたま隣にいた風野にそう言われた香我見はその日の夜の布団の中で、自分の常識を問い続けたという。

どうも、弥塚泉です。

企画課がようやく企画を立てました。

お話は短くなってしまいましたが、夏祭りではしゃいだ反動で二人も疲れていたと思っていただければ。

彼らがあれくらいで疲れるとは思えませんけど。



シュウさんの『うろな町』発展記録から、秋原さんを名前だけお借りしました。

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