『うろな夏祭報告書/午前八時』
うろな町役場企画課。
いつも彼らは各部署からの雑務もそこそこに、資料室の片隅でうろな町をよりよくするための企画会議を行っている。のだが、今日の職場はいつもの資料室ではなく……。
「ついに来たでこのときが!」
「あーだる……」
紺色に白い格子柄の甚平を着た二人がいるのは中央野球広場。今日はここであるイベントが開かれるのである。
「夏祭りやー!!」
「ええからさっさと運べや」
時刻はまだ朝の八時。役場の始業よりも早い時間ではあるが、町役場の職員や屋台を担当する町民たちなどはすでに会場の設営に取りかかっているのだ。企画課の二人もその例外ではなく、彼ら自身が担当する食べ物屋台に必須の大きな鉄板を運んでいるところだった。
「よっこいせっと」
「次は屋台の組立やな」
鉄板を運び終わると二人は段取り良くてきぱきと次の作業に取りかかる。去年もやったことなのでその動きにも無駄がない。そしてそうなると口が動き出すのが企画課だ。
「今年は分担どないする? 去年はボクも香我見クンも接客やったけど」
「俺は裏方でええわ。愛想笑いしんどいし。風野出しといたら?」
「一応企画課に仕事もらってんねんから紫苑ちゃんはまずいやろ。焼きそばは焼かすけれども」
「じゃあいっそのこと、焼きそばは風野、たこ焼きは佐々木君、魚釣りは俺って分担にしよか」
「よっしゃ! 任しときー、って香我見クンサボる気満々やん!」
「タコ釣ってきたるから」
「うろな町の漁師のみなさんがとってきてくれたんがぎょうさんあるからええよ! 大人しくお好み焼き焼いときぃな」
「だってめんどくさいもん」
「あーあ、神楽子ちゃんがハルお兄ちゃんのカッコええとこ見たいってゆうてたのになー」
佐々木は挑発するように言ったが、香我見は軽く鼻で笑った。
「神楽子がそんなことを君の前で言うはずないわ」
「わ、わからんやん」
「へえ? ホンマに? (社会的な)命懸ける?」
「なんか嫌な単語が省略されてた気がする!」
「伊達に連絡担当やってないで。俺の情報網を駆使すれば君の実家にある勉強机の引き出しの二重底に何が隠されてるかもわかる」
「それ情報網関係ある!? 明らかにおかしいよなあ!!」
「ま、ええわ」
香我見はトン、と七割ほど完成した屋台を叩いてみせる。
「楽しもか、俺らの夏祭り!」