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ばかばっかり!  作者: 弥塚泉
2013年、うろな町役場企画課
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『夏祭りにおける屋台運営について』

 うろな町役場企画課。

 今日も彼らは各部署からの雑務もそこそこに、資料室の片隅でうろな町をよりよくするための企画会議を行っている。のだが、今日は何やら工作をしているようで……。

「香我見クン、あかんて……そこは……やめっ」

「ええから……俺に任せとけって」

「や、や……」

「おいおい、堪え性のない奴やな。じゃあいくぞ」

 大好きな従兄が越えてはならない一線を越えようとしている。それを悟った彼女は思い切って本棚の陰から飛び出した。

「ハルお兄ちゃんだめえええ!!」

「は?」

「あ、神楽子かぐらこちゃんや。どうしたん?」

 いつもの通り資料室の一画でせっせと勤労していた二人はきょとんと能天気な雰囲気で彼女を出迎えた。

「あ、あれ? ハルお兄ちゃん、何してるの?」

「今度の祭りんときに着る甚平を作ってんねん。もちろん神楽子の分も作るからな、兄として」

「従兄やろ。しかも兄関係ないし」

 勤労といってもこの二人の場合は大抵、本来の仕事とは関係のないことに精を出している。今日は、ついに来週の土曜日に迫った夏祭りのための服を作っていたのだ。

「あ、ありがとう……でも、じゃあさっきの声は?」

「それが聞いてえな神楽子ちゃん。香我見クンときたらボクの甚平にこんなん縫いつけてくんねんで!」

 佐々木が持ち上げてみせた甚平の胸には緑のワッペンで『変態』の文字。それを見て香我見はふん、と鼻で笑った。

「当然や。このアホは見境なく手ぇ出しよるから女性は遠ざけとかな」

「もう、ハルお兄ちゃん」

「ん?」

 顔を上げた香我見に神楽子はコツンと軽く拳を当てた。

「佐々木さんにあやまって?」

「ごめんな佐々木君。非常に申し訳ないことをした」

「変わり身早っ!」

 立ち上がって頭を下げた香我見の腰の角度は綺麗に九十度。しかし佐々木のツッコミを聞くとすぐさま顔を上げた。

「なんやとコラ。許してくれるまで標準語で謝り続けんぞ」

「それはなんかやめて! 関東の人が思うより寂しくなるからそれ!」

「それよりハルお兄ちゃんたち、夏祭りで何かするの?」

 二人が騒いでいる間に資料室の隅から持ってきたパイプイスに腰かけながら香我見の手元を覗き込む。

「お好み焼きとか、食いもんの屋台やんねん。本場の味、見せたんでー」

「ほら、このカッコの方が雰囲気出るやろ?」

 椅子に座って落ち着いた香我見はまだ裁縫中の甚平を持ち上げてみせる。これは香我見が通販で取り寄せてきた紺色に白の格子柄の入った甚平で、個性の無さを嫌った二人は背中に大きく赤い布で『うろな』と縫いつけているのだ。

「そうなんだ。楽しそうだね」

「あ、なんやったら神楽子ちゃんも屋台ちょっとやってみる?」

「アホ言うな。仮にも町役場の仕事に一般人を手伝わせられるか」

「うん、ちょっとやってみたいかも」

「佐々木君、企画書改稿して売り子追加。なるはや、今すぐ」

「早いな手のひら返すの! まあええけど。神楽子ちゃん、裁縫できる?」

「あっはい一応は」

「じゃあ神楽子には俺のんやってもらおうかな」

「なんで!?」

「佐々木君の変態甚平なんか触ったら神楽子が穢れる」

「ひどっ。ていうか香我見クンが縫いつけたんやん……あとでちゃんと取っといてや」

 香我見に甚平を手渡すと佐々木は机の上に広げたままだったパソコンを立ち上げた。

「そういえば神楽子、なんか用事あったんちゃうんか?」

 時刻はもう五時。授業が終わってからとはいえ彼女が町役場まで訪ねてくるのは非常に珍しいことだ。

「特に用事ってわけじゃないんだけど。みぃ姉から、ハルお兄ちゃんが夏祭りで何かするみたいだから手伝っておいでって言われたんだ」

「ちっ、また神代子みよこか」

「ハルお兄ちゃん……」

 彼女の姉に対する嫌悪感を隠そうともしない様子に神楽子は思わず苦笑する。

「へー、神楽子ちゃんお姉さんおんの?」

 香我見の不機嫌そうなオーラにも構わず、ディスプレイの向こうから佐々木の声が飛んできた。

「はい。今は町にいないんですけど」

「あいつは官僚やっとる。性格はともかく、昔から頭だけは良かったからな」

「めっちゃ嫌そうやね、香我見クン……」

 顔も見ずに声の調子だけで察するあたり、伊達に毎日会話しているわけではないようだ。

「ま、まあとにかく神楽子ちゃんが来てくれて良かったやん」

「俺は単に神楽子に会いたかったわけやない! 神楽子の思いやりが欲しかったんや!!」

「神楽子ちゃん来たとき、めちゃくちゃ喜んどったくせに……」

 相手をするのがめんどくさくなってきた佐々木だったが、そこにちょうど助っ人が資料室の扉を叩いてきた。

「すいませーん、紫苑ですけどー」

 本棚の向こうから企画課のデスクへ姿を現したのは髪をアップにしてまとめたスーツ姿の女性だった。

「紫苑ちゃん! 助かったわ、このシスコン引き取ってえな」

 彼女は風野紫苑かざのしおんといって、今年の四月から秘書課で働いている新人だ。

「いいんですか? ちょうど香我見っちに頼みたかったんですけど」

「その喋り方なんとかならんのか。まあええけど、何したらええの?」

「ありがとうございます。詳しくは秋原さんに聞いてください。秘書課にいるので」

「え、秋原サンと仕事……?」

「そうですけど……ひっ!?」

「ボクが行くわ!」

 秋原の名前が出たとたん、身を乗り出した佐々木は悲鳴を上げてしまうくらいの勢いがあった。

「はーいはい。佐々木君は企画書書いとこなー。神楽子もそろそろ帰った方がええんちゃうか?」

「あっもうこんな時間!」

「ちょうど受付に用事ありますし、紫苑が入り口まで送りますよ」

「ほな佐々木君、あとよろしく」

 そうして香我見がバタンと資料室の扉を閉めた後には、キーボードの音とすすり泣きのような声が響き、町役場の七不思議が一つ増えたとか。

どうも、弥塚泉です。

もうだめだ……週一投稿はやめにします。

三週坊主ですいません(笑)


今回のゲスト。

シュウさんの『うろな町』発展記録 から、秋原さんを名前だけお借りしました。

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