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ばかばっかり!  作者: 弥塚泉
2014年、再びうろな町役場企画課
30/42

7/5『平成二十六年度うろな夏祭り報告書/午前八時』

 うろな町役場企画課。

 普段の彼らは各部署からの雑務を片手間に、資料室の片隅でうろな町をより良くするための企画会議を行っている。しかし今日は今年もやってきたあのイベントのためにせっせと汗を流すべく、中央公園の少年野球場にやってきていて……。

「ふう、これでだいたい出来上がりや!」

「あ、すんません。ちょっと水汲ませてもらってもええですか。はい、この二リットルペットボトルに入れるんで」

 彼らは朝の六時から準備を始めて、屋台の設営に取り組んでいた。なぜ町役場の職員である二人が設営をしているのかといえば、この夏祭りが町役場主催だからという事情もあるが、この屋台を使うのが企画課だからである。彼らは持ち前の目立ちたがりな性分を遺憾なく発揮して、毎年任される屋台の設営から服まで、すべて自分たちでやることにしている。

「おーい、香我見クーンってデカっ! ようそないなモン持ってきたな」

「なに?」

 水を汲み終わった香我見は早速ペットボトルの半分ほども飲み干して、傍にあるクーラーボックスの上に立てた。

「いや、今年は分担どないしよかなーと思って。去年は途中から二人ともお好み焼きになってしもたやん?」

「ああ、そうやったっけ」

 去年の夏祭りでも彼らはお好み焼きとたこ焼きと焼きそばの屋台を担当した。しかし香我見は完璧に忘れているが、途中でお好み焼きを関西風にするか広島風にするかで意見が割れた末に二人で勝負することになり、たこ焼きと焼きそばを助っ人に来ていた秘書課の風野紫苑かざのしおんに押し付けるという事態になった。

「人気やったし、今年もやる?」

「いや、毎度風野に頼るわけにもいかんやろ。俺ら二人ともメニューは全部作れるし、鉄板も二つあるから、佐々木君が一人で頑張ればええやん」

「いや二人で頑張ろうや!」

「俺は今年こそ大物釣りあげてくるから」

「今年もうろな町の漁師の皆さんがぎょうさんとってきてくれてはるからええよ! 神楽子ちゃん、今年も来るんやろ?」

「来るけど……今年は神代子みよこも来るからな」

 言いながら口をへの字にする香我見を見て、佐々木は苦笑した。彼が従妹の霞橋神楽子かすみばしかぐらこを溺愛しているのはもはや周知の事実だが、その姉、香我見にとっては従姉にあたる霞橋神代子かすみばしみよこはかなり苦手としているようなのだ。彼女には佐々木も会ったことが無い。

「あ、俺らが漫才やってる間は屋台どないすんの?」

 今年は香我見の発案により、午後四時から二人で漫才をすることになっている。有志によるステージの出し物に応募はしたものの、参加者が多かったために二人は結局辞退した。それに伴って急遽きゅうきょ、工務店の若者に声をかけて手伝ってもらい、小さなステージを作った。ステージというよりも、サイズから言うとお立ち台のようなものだ。

「そっちは心配ない。近所に暇人がおるから、バイト代払って呼んである」

 それにな、と香我見は傍らのパイプ椅子に座ってうちわを煽ぎ始めた。ステージは完成しているし、屋台は飾りつけを残すのみとなり、あとは佐々木にやらせるつもりだ。

「だいたい、秘書課がどんだけ忙しくても、風野はうまいこと言うてサボるに決まってんねんから、こっち手伝わせといたらええねん。やっぱり男二人よりは、女がおった方が客も来るしな」

「うわ、やらしー考え」

「当たり前やろ。去年は肝試しに合コンもやって予算オーバーした分、今年の予算から引かれてるんやからちょっとでも稼がんと」

「企画二つやっただけで予算オーバー!?」

「二つとも偉い人が想定してなかったことやからな」

 香我見は首に巻いたタオルで汗を拭う。

「今年は漫才もやるし、忙しなるで」

 言葉とは裏腹に香我見は笑い、それに釣られて佐々木も笑った。

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