肝試し/六組目
くじ引きで組を決めるということは肝試しの進行に問題のある組み合わせになる可能性を大きく含む。
怖がりな人間が集まってしまった四組目がその最たる例だろう。九組もあればそのような不幸な事態というものは一回では済まないようで、この六組目は四組目とは逆の意味で肝試しには向かない組み合わせとなった。
「なんかこういうの、わくわくしますね」
うろな高校文芸部に所属する綾瀬浩二。苦手なものは部長。
「めんどうだ……」
うろな中学の剣道部に所属する吉祥寺勇吾。苦手なものは面倒事。
「せっかくユウキのビビってる顔を見に来たのにな」
うろな北小学校に通う六年生のガキ大将的存在である金井大作。苦手なものは算数。
そう、この三人は幽霊などこれっぽっちも怖くない、今回の九組の中ではおそらく最も肝試しに向いていない組なのだ。
「あ、それなら僕も部長と先輩がどんな反応するか見たかったなあ。まあだいたい予想はつくけど」
「えっ、ブチョーって強いんじゃないのか?」
「いや、あの人はなんていうか……まあ口撃力は高い、かも。打たれ弱いけど。吉祥寺君はうちの部長のこと知ってる?」
「直接は知らないが、先輩たちが噂していたのを聞いたことならある。それによれば三年前の七月になぜか防具もつけずに竹刀を持った高城部長が」
「あー、もうわかった。きっとろくでもないことに違いない」
「ちなみに香月先輩も一緒だったそうだ」
「とりあえず、うちの先輩たちがご迷惑をおかけしましたと謝っておくよ……」
「なんか、やっぱりブチョーってすげーんだな!」
「ダイサク君も憧れちゃだめだよ」
「どこも部長は面倒な人ばかりみたいだな」
「剣道部はまともそうだけど?」
「面倒事を押し付けてくるからな……」
「吉祥寺君、全部そう言って済ませてない?」
「面倒だからな」
「それにしてもタイツクだなー。さっさとユウレイ出ろよなー」
「退屈ね。祠が見えてきたし、もうそろそろ出てもおかしくないと思うんだけど」
「それは幽霊じゃないだろ」
「まあねえ。あ、着いちゃった」
「早く札取って帰るぞ」
「何か用事でもあるの?」
「めんどうだから早く帰りたいんだ」
「またそれか」
「めんどうだからな」
「あ!」
「どうした?」
「ガムなくなった」
「僕のカブリチューでよければあげるよ」
「マジで!? サンキュー兄ちゃん!」
「よく駄菓子なんか持ってたな」
「部長のおかげで」
「ああ、これで高城部長のいいところが一つ増えたわけだな。ちなみにうちの部長には一つもない」
「ねえ、吉祥寺君って部長のこと嫌いなの?」
「嫌いというよりはめんどうなだけだ」
「君の判断基準は全部それか」
「うわっ、もう入口が見えてきたぜ!?」
「結局何にもなかったね。肝試しといっても主催者は特に何もしないスタンスなのかな?」
「めんどうがなくてよかった。じゃあ俺は帰るとしよう」
もちろん企画課がなにもしなかったわけではない。怪鳥の鳴き声にも、女の悲鳴にも、人魂にも、不気味に立ち尽くす人形にも、彼ら三人はまったく反応を示さなかっただけなのだ。
ちなみに佐々木は前回の敗北のショックを癒やすために水分補給も兼ねた休憩に入っていたので、この回の脅かし役には参加していなかった。しかし、結果的にはそれが幸いしたらしい。
もし今回の大敗北を佐々木が味わっていたら、きっと二度と立ち上がれなかったことだろう。




